AIが自分で自分を改良できる時代=sakana.aiのAIサイエンティスト

AI新聞

AIが自分で自分を改良できるようになれば、AIはどんどん進化して優秀さで人間を超えてしまう。SFの世界では古くから語られていたシナリオだ。私自身、遠い未来の出来事だろうと思っていた。しかし、今年6月に元OpenAIのLeopold Aschenbrenner氏が「SITUATIONAL AWARENESS: The Decade Ahead」というレポートを発表し、その中で「自分で自分を改良するAIを作ることはそう難しい話ではない」という主張を目にしたとき、私は100%納得できなかった。

同氏は「AI研究者の仕事は、実は単純。機械学習の文献を読んで、新しい問いやアイデアを考え出し、それらのアイデアをテストするための実験を実施し、結果を解釈する。その繰り返し。これらの作業はすべて2027年末までにAIが進化することで自動化が可能になるタスクだ。AI研究者AIのコピーを何百万も作れば、10年分のアルゴリズムの進歩が1年に圧縮される可能性がある」と主張している。

そして、どんどん進化したAIはあらゆる科学技術を急速に進化させ、産業と経済が爆発的に成長するようになるという。下の図のような爆発的成長の前夜にわれわれ人類はいるというのだ。

出典:SITUATIONAL AWARENESS: The Decade Ahead

ところが、東京に拠点を置くsakana.aiというAIベンチャーが、AIが自分で自分を改良する仕組み「AI Scientist」を発表してきた。同社は、日本で勤務経験のあるGoogleの研究者らが立ち上げたスタートアップで、200億円の資金を調達し、ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)として注目されている。

AI Scientistの仕組みは非常にシンプルだ。

アイデアの生成
与えられたコードとタスクの説明に基づいて、新しい研究アイデアを生成する。こうしたアイデアを生成するのは、生成AIが得意とするところだ。

新規性チェック
次にそのアイデアに新規性があるかをAIの検索機能を使って調査する。

実験の実行
他に同様の論文が見当たらない場合は、そのアイデアを使った実験計画を立てて、その計画通りにコードを書いて、結果を確認する。こうした実験を繰り返す。

結果の可視化と論文執筆
図表を作り論文を生成する。

論文のレビューと改善
AIが書いた論文をAIが読み返して改善点を提案し、それを基にAIが論文を書き直す。

確かに今のAIでも十分にできそうなタスクを組み合わせている。今のAIは画像やグラフの認識が得意ではないなどの課題があるが、マルチモーダルAIと呼ばれる画像の認識も得意なAIモデルが登場してきているので、そうした課題は近い将来解決されることだろう。

AI研究者の間では、このAI Scientistの仕組みが大きな話題になっており、今後、この仕組みを使ったAIの研究がどんどん進められることになりそうだ。

AIが自分で自分を改良する時代。その結果、科学技術が急速に進化し、産業、経済が急速に発展する時代。上のグラフのような急速な進化が始まろうとしているのなら、これは非常に大きな出来事だと思う。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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