
AIエージェントの進化が止まらない。最近最も注目を集めているAIエージェントの1つが、プログラマーを支援するコーディングエージェントだ。またリサーチを支援するリサーチエージェントも話題に上ることが増えてきた。さらに年内には、個人秘書のようなパーソナルエージェントも登場するかもしれない。目まぐるしい技術革新を受けて、社会はどう変化するのだろうか。
コーディングエージェントの性能が飛躍的に向上し、もはや一部の開発タスクでは人間のエンジニアに匹敵すると言われるほどになっている。よく名前を聞くところでは、GitHub Copilotや、Devin、Cursor、Clineなどがある。
私自身はプログラミングができないので、これらのコーディングエージェントがどの程度の実力なのかは分からない。ただ今年になってから、かなり使えるレベルになっているという話をよく耳にするようになってきた。
例えばSalesforceのCEO、Marc Benioff氏は昨年12月に行われたインタビューの中で、AIで生産性が30%アップしたので、ソフトウェアエンジニアを追加採用しないと語っている。ただ「クライアントは、エージェントが過去半年でどれだけ進化したかまだ知らないので、AIの価値を知らせるために短期的に営業担当者を1000人から2000人増やす」と述べている。
またFacebookの親会社MetaのMark Zuckerberg氏は、2025年から中堅エンジニアと同等レベルになったAIエージェントの導入を始める、と語っている。「最初はコストがかかるが、効率化が進み、多くのアプリやAIをAIエンジニアが作るようになるだろう」としている。
海外企業だけではない。日本企業の間でもコーディングエージェントの導入が進んでいる。知り合いの広告系AIスタートアップでは、一人のエンジニアがコーディングエージェントを活用し年末年始の休みの間にエージェントプラットフォームを開発。プログラミングができない社員でも、パズルを組み合わせるような要領で簡単にAIエージェントを生成できるプラットフォームらしく、年明けから社員全員が自分好みのエージェントを開発し、生産性が大きく向上しているという。最新のコーディングエージェントなら新人エンジニア並みの働きをするので、「来期のエンジニアの採用をどうしようか検討し始めた」と話している。
さらに直近で評判になっているのが、リサーチエージェントだ。名称はDeep Researchというものが多いが、イーロン・マスク氏率いるx.aiはDeep Searchとリサーチエージェントのことを呼んでいる。普通のチャット型AIとリサーチエージェントの違いは、リサーチエージェントの場合は、ユーザーが質問したら何をすべきか自分で考えてステップ・バイ・ステップで調査するところだろう。
例えばチャット型AIに「日本で新車販売されている5ナンバーの乗用車をリストアップして」と質問すると、そういうリストを含むブログ記事やニュース記事があれば、その記事の内容を即座に答えてくれる。もしそういうリストを含む記事がネット上に存在しない場合は「自動車メーカーのサイトを確認するのがいいでしょう」と答えるか、適当な嘘をつく。
ところがリサーチエージェントは実際に自動車メーカーのサイトにアクセスしに行き必要な情報を集めて、それを元に記事を生成してくれる。リサーチに時間がかかるものの、より正確な情報を集めてくれる。質問によっては30分近くリサーチしてから、答えを出す場合もある。
最初にリサーチエージェントをリリースしたのはGoogleで、昨年12月11日にGemini Advancedの機能の1つとしてGemini Deep Researchをリリースしてきた。次に2月2日にOpenAIがDeep Researchをリリース。その翌日には、オープンソースの「Open Deep Research」など、OpenAIのリサーチエージェントのクローンが十個以上登場している。また2月15日には、PerplexityがDeep Researchをリリースし、2月17日にはxAIがDeep Searchという名称でリサーチエージェントをリリースしてきた。
こうしたリサーチエージェントは有料のものが多いのだが、利用したユーザーの多くは絶賛している。著名投資家のジェイソン・カラカニス氏は「Deep Researchは、 Google がこれまでにリリースした最高の一般向け AI 製品。大学教育を受けた研究者をポケットの中に抱えているようなものだ」と語っている。同じくJason Wei氏は「Deep Researchは、素晴らしいエージェントであるだけでなく、インターネットの新しいインターフェースとも見なすことができる。ブラウザを使ってネットをナビすることは、(電卓を使わずに)手作業で計算するのと同じくらい古い方法になるだろう」と述べている。
そして次に登場するとみなされているのが、パーソナルエージェントだ。ユーザーの過去の活動や趣味嗜好を理解して、ユーザー一人ひとりに最適な情報を提供してくれたり、行動してくれるエージェントだ。
MetaのMark Zuckerberg氏は全社社員向け録画メッセージで「AI開発は短距離走ではなくマラソンだ」「だが正直言って、今年は私にとって短距離走に近いと感じている」「(2025年は)高度にインテリジェントでパーソナライズされたAIのユーザー数が10億人に達する年になる」「誰が最初にそこにたどり着いたとしても、歴史上最も重要な製品の一つを作る上で長期的かつ永続的な優位性を得ることになるだろう」と語ったという。
確かにパーソナルエージェントこそがテック企業にとって最大の戦場になると指摘する業界関係者は多い。Apple、Google、Amazonなども、この領域に参入してくるのは間違いないだろう。
ただ最も動きが速そうなのが、MetaとOpenAIだ。OpenAIは、AIネイティブなデバイスを開発中であることを明らかにしている。それはスマートフォンのようなものかもしれないし、スマートグラスかもしれない。何になるのかは分からないが、パーソナルエージェントが搭載されたデバイスになることは間違いないだろう。今年の一番ホットな領域はパーソナルエージェントとそれを搭載したデバイスになりそうだ。こうしたエージェントの急速な進化を前に、我々はどう備えればいいのだろうか。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。