米クラウドコンテンツ管理大手BoxのCEO、Aaron Levie氏が4月、Xへの長文投稿で、AIエージェントの導入が進む企業にこれから必要になる新しい役割を示し、大きな反響を呼んだ。
同氏が描いたのは、いわば「エージェント導入・運用担当」と呼べる仕事だ。単にAIツールを使う人ではない。業務そのものをAIエージェントが動ける形に組み替え、現場で回るようにし、その後も改善を続ける人材である。
どんな仕事なのか
Levie氏は投稿の中で、この新しい役割について、簡潔な職務イメージを示している。
まず重要なのは、チームの中で「どの業務にAIエージェントを入れると大きな効果が出るか」を見極めることだ。同氏の判断基準はわかりやすい。エージェントを導入することで、その仕事を100倍速く進められるか、あるいは100倍の量をこなせるか、という視点である。
たとえば営業部門なら、営業担当者が商談に入る前に、エージェントが大量の見込み客情報を調べ、優先順位や購買の兆しを整理して渡すことができる。法務や調達であれば、取引先から送られてきた契約書を確認し、条件を整理し、担当者が最後の判断をする直前のところまで持っていける。新規顧客の受け入れ業務でも、書類確認やシステム登録、担当者の割り振りといった定型作業をエージェントが肩代わりできる。
さらに、社内に蓄積された規程や議事録、業務ノウハウをエージェントが参照できるように整えておけば、問い合わせ対応や意思決定の支援にも役立つ。
本当の仕事は「業務の流れ」を作り直すこと
この役割の中心にあるのは、単なるツール導入ではない。業務の流れを見直し、人とAIの役割分担を設計し直すことだ。
Levie氏によれば、この担当者はまず、社内にある構造化データと非構造化データがどのように流れているかを整理しなければならない。そのうえで、どんな業務フローが理想かを設計し、エージェントが仕事を進めるのに必要な情報や前提条件を与え、どの段階で人が確認や判断に入るかを決める必要がある。
しかも、それで終わりではない。モデルやデータが変わるたびに評価や見直しを行い、KPIを追いながら、継続的に運用を改善していくことまで求められる。つまり、一度仕組みを作って終わりではなく、現場で成果が出続けるように回し続ける役割なのである。
技術だけでも、業務知識だけでも足りない
この仕事には、ある程度の技術理解も欠かせない。Levie氏は、SkillsやMCP(Model Context Protocol)、CLIといったツールを扱い、業務システム同士をつなぎながら自動化を進められる力が必要だとしている。
ただし、技術がわかるだけでは不十分だ。業務全体を見渡し、どこにボトルネックがあり、どこに導入すれば効果が大きいかを判断する現場理解も同じくらい重要になる。要するに、システムの仕組みと現場の仕事、その両方がわかる人材が求められている。
専門部署に集めるのではなく、各チームに置く
Levie氏の提案で興味深いのは、この役割を一部の専門部署だけに集めるべきではないとしている点だ。
同氏は、こうした人材は中央のIT部門やAI専門チームだけに置くのではなく、各チームに少なくとも一人は必要になるとみている。もちろん、中央の専門部門が全体方針や共通基盤を担う形はあり得る。だが実際に業務を変えていくには、各事業部門の中に入り込み、現場に常駐する人が必要だという考え方である。
人材の確保についても、外から新たに採用する方法だけでなく、既存社員をこの役割に転換する形でも十分機能するとしている。
エンジニアの次のキャリアにもなりうる
Levie氏は、この新しい役割が、AI時代の働き方に不安を感じる人たちにとって、新たなキャリアの選択肢にもなると述べている。
AIを前向きに使いこなしたい若い人材にとっては、格好の入り口になる。さらに、将来エンジニアの仕事がどう変わるのかを不安視する声に対しても、このキャリアパスはひとつの明確な答えになるという。
企業がAIエージェントを試験導入の段階から、本格運用の段階へ移し始めている今、問われているのは「誰がそれを現場で動かすのか」ということだ。Levie氏の提案は、その担い手として新しい職種が必要になることをはっきり示している。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。