連続発表で見えたAIの進化と仕事の未来

AI新聞

 

12月に入ると、AI業界は新機能発表ラッシュに突入した。AI大手企業が次々と革新的な技術を披露する中、これらの発表は普通であれば一般経済メディアや専門誌で大きく報じられるはずだ。しかし、今年はなぜか目立った大きな話題にはなっていない。以前OpenAIのSam Altman氏が「AIの急速な進化は、人々を驚かせて社会の反発を招く可能性がある。なので新機能は小出しに発表することを心がけている」と語っていたが、同氏の思惑通りに進んでいるのかもしれない。

特に注目すべきはOpenAIの取り組みだ。同社は12月5日から20日まで、週末を除く毎日新しい製品や機能を発表すると宣言し、その一連のイベントを“Shipmass”と名付けた。これは、製品を“shipping”(リリースする)こととクリスマスを掛け合わせた造語であり、定番のクリスマスソング“12 Days of Christmas”にちなんでいる。この曲では恋人がクリスマスの12日間、毎日プレゼントを贈るが、OpenAIはまさにその形式で新機能を公開している。

Shipmassの注目ポイント

最初の5日間で、OpenAIは次のような発表を行った。

1. 初日: OpenAI o1 pro mode

– 複雑な計算や高度な推論、プログラミングに特化した、これまでで最も強力なAIモデル。普通なら非常に大きく取り上げられるようなニュースだ。

2. 2日目: 強化学習ファインチューニング (RFT)

– 人間のフィードバックを報酬として利用することで、法律、科学、金融などの専門的分野における複雑なタスクへの対応力を強化する技術。この技術を利用して、これから多くの企業が自分たちの領域に特化した専門AIを作っていくことになるだろう。

3. 3日目: Soraリリース

– 今年初めに発表されて大きな注目を集めた動画生成モデルSoraが、ChatGPTの有料ユーザー向けにリリースされた。多くのユーザーがSoraに殺到したためにサーバーがパンク状態になり、現在アクセスを制限中だ。ちょっとした宣伝ムービーなどはSoraで簡単に作れるようになると見られており、動画制作のビジネスに大変な影響を与えそうだ。

4. 4日目: Canvasの無料化

– これまで有料ユーザーしか使えなかったプログラミング、文書執筆支援ツールのCanvasを無料ユーザーにも開放。プログラマー初心者や学生にとって便利なツールになりそう。

5. 5日目: Visual IntelligenceがiPhone16に搭載

– カメラに映っている物体に関して質問したりできる機能。街中の名所旧跡に関する質問ができたり、数学の計算式をカメラで写しながら質問できたりする。

Googleの反撃

そんな中、Googleは同社の基盤モデルGeminiのバージョンアップを発表してきた。GoogleのCEO、Sundar Pichai氏は「Gemini 1.0 が情報の整理と理解を目的としていたとすれば、Gemini 2.0 は情報をより有効に活用することを目的としている」と語っている。\
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具体的な発表内容については、Google DeepmindのDemis Hassabis氏は、次のように説明している。まずはGemini 2.0シリーズの最初のモデルである Gemini 2.0 Flash は、Gemini 1.5 Pro の 2 倍の速度でパフォーマンスを発揮する。それに加え「非常に優れた多言語機能を備え、Google 検索などのツールをネイティブに呼び出すことが可能だ」と語っている。ネイティブに呼び出せるということは、外部アプリや複雑な手続きなしで、シームレスにこれらの機能を利用できることを指している。これにより、情報の検索や処理がスムーズになり、ユーザーエクスペリエンスが向上すると期待されている。\
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Gemini 2.0 Flash の後を追う形で、近日中にさらに多くのモデルが追加される予定だ。「これはほんの始まりに過ぎません。2025 年は AI エージェントの年となり、Gemini 2.0 はエージェントベースの作業を実現する多くのAIモデルの基盤となります」と同氏は語っている。\
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Gemini 2.0 Flash の新機能によって可能になった、いくつかのAIエージェントのプロトタイプも今回発表になった。まずはユーザー一人一人のデジタル秘書となるAIエージェントを開発するプロジェクトである「Project Astra」 の最新版のデモ動画が公開された。OpenAIでいうところのVisual Intelligenceのような機能が搭載されたエージェントで、カメラに映っているものに関する質問が可能だ。\
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次に、ブラウザ上のアプリを自由に操作できるエージェントの開発プロジェクト Project Marinerが発表になった。デモ動画では、表計算シート上に会社名があれば、ネット上からその会社の連絡先などをAIエージェントが探してきて、表計算シートに記入していく様子が紹介された。

 

このほか開発者を支援できる AI 搭載のコード エージェント Jules や、ビデオ ゲームの操作を支援するエージェント、ロボット工学のためのエージェントなど、いろいろなモデルをエージェントに関するプロジェクトが紹介された。


我々の仕事はどう変わるのか

AIの急速な進化は、仕事の現場に根本的な変化をもたらすことが確実視されている。特に、OpenAIとGoogleが相次いで発表した新技術は、ホワイトカラーの仕事の効率化や再定義に向けた明確な方向性を示している。

OpenAIのShipmassで発表された技術は、専門性の高い分野や高度なスキルを要するタスクへの対応力を飛躍的に高める可能性を秘めている。例えば、法務分野では契約書のレビューや判例の調査、金融分野では市場分析やリスク評価などが、これまで人間の専門家が主に行っていた作業の多くをAIが補完あるいは代替することになる。

一方、Googleが公開したGemini 2.0とその関連プロジェクトは、既存の業務プロセスを効率化するだけでなく、人間とAIの共同作業を実現する新たな可能性を提供している。例えば、Project AstraのようなユニバーサルAIアシスタントは、あらゆるデバイスやプラットフォームでのタスク管理をシームレスにサポートし、Project Marinerのようなプロジェクトはブラウザベースでの人間とAIの協働を促進するだろう。

これらの技術進展により、仕事の役割や責任はますますAIとの協働を前提としたものにシフトしていくに違いない。同時に、AIが補完できない創造性や戦略性、対人コミュニケーション能力がますます重要視されるようになるだろう。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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