
米テック情報の有力サイトThe Informationによると、OpenAI
は2029年にはChatGPT以外の売り上げがChatGPTのそれを超え、10年後にはChatGPTの売り上げの10倍になると予測しているという。ChatGPT以外の収益源とは、どのような製品になるのだろう。
The Informationが入手した投資家向け資料によると、無料ユーザーを含むChatGPTの月間アクティブユーザー数は約5億人。今年4月1日時点でのChatGPTの有料ユーザー数は約2000万人で、3月の月間売り上げは4億1500万ドルとなっている。昨年12月は3億3300万ドルなので、3ヶ月で25%も上昇したことになる。OpenAIは今後もユーザー数が順調に伸びると想定しており、今年のChatGPTの売り上げは80億ドル、2029年には500億ドルに達すると予想している。6.25倍の伸びだ。
2029年の総売り上げは1250億ドルを見込んでいるので、ChatGPT以外の売り上げが750億ドルとなる見通し。ChatGPT以外の商品の売り上げが、ChatGPTを超えるというわけだ。
出典:The Information OpenAI Forecasts Revenue Topping $125 Billion in 2029 as Agents, New Products Gain
OpenAIはChatGPT以外の売り上げを、API接続料、エージェント、新製品という3つのカテゴリーに分けている。API接続料とは、他社がインターネット経由でOpenAIのコンピューターに接続してOpenAIのAIモデルを利用する際の料金のことで、今年のAPI接続料の売り上げは約20億ドル。2029年には220億ドルの売り上げを見込んでいる。
エージェントとは、一般的には自分で何らかのアクションを起こせるAIのことを指すが、OpenAIでは複雑な操作が可能な高性能自律エージェントのことを財務的にエージェントと定義しているようだ。OpenAI幹部が一部投資家に語ったところによると、①月額2000ドルの低レベルエージェント。高収入の知識労働者向け、②月額1万ドルの中レベルエージェント、ソフトウェア開発用、③月額2万ドルの高レベルのエージェント、博士レベルの研究向け、の3つのレベルのエージェントを準備しているという。
今年のエージェントの売り上げは30億ドル。2029年には290億ドルを見込んでいる。総売上の23%をエージェントが占めることになる。
ソフトバンクはこうしたエージェントを含むOpenAIの製品に対して年間30億ドルほど支払い、ソフトバンクグループ全社の社員向けに展開していく予定だという。また両社で日本国内に合弁会社を立ち上げ、Cristal Intelligenceのブランド名で日本企業向けにOpenAIの製品を販売していくという。
API接続料、エージェント以外の新たな収入源とは、どんなものになるのだろう。それはまだ明らかになっていないが、来年以降に売り上げを計上し始め、2029年には250億ドルほどの売り上げになる見込みだという。
収入源の可能性の1つは広告だ。2030年にはChatGPTの月間ユーザーは30億人に到達すると予測している。広告主にとっては魅力的な媒体になる。しかしOpenAIのCEO、Sam Altman氏は広告には消極的だ。有力ニュースレターStratecheryのインタビューに対し「広告があまり好きじゃない。広告をしないとはまだ決めていないが、広告よりも優れた収益化の形が他にもたくさんあるように思う」と語っている。
米国では有料版のChatGPTの機能として、食料品宅配のInstacartで注文したり、レストラン予約のOpen Tableやタクシー配車のUberなどサービスをチャット形式で利用できるようになっている。そうしたサービスを利用するたびにサービス事業者から売り上げの数%を課金することが可能かもしれない。
消費者向けのAIデバイスの開発の可能性もある。Altman氏は1年ほど前から、元Appleの伝説的デザイナーのJony Ives氏と新たな消費者向けデバイスの開発に関して協議を続けていたが、The Informationによると、このほどIves氏の会社をOpenAIが買収する方向で交渉に入ったという。
どのようなデバイスになるのか、その詳細は明らかになっていないが、音声中心のデバイスになるもようだ。
このほかtwitterのようなSNSの開発を「Yeet」という開発コード名で検討しているほか、もしGoogleの独禁法裁判で同社のブラウザChromeの売却をGoogleが裁判所から命じられた場合、OpenAIがChromeを購入する意思を表明したという報道もある。
要するに、OpenAIが見据えるのは「ChatGPTの会社」からの脱皮だ。APIで開いた裾野を土台に、高単価の自律エージェントと未発表の新プロダクトが売上の半分以上を担う構図を2029年までに描き切ろうとしている。ソフトバンクとの合弁やIvesデザインの音声デバイス構想――外部パートナーを巻き込みながら、同社はAIモデル提供企業から“日常のオペレーティングシステム”へとポジションを引き上げる算段だ。ChatGPTはあくまで入口に過ぎない。検索、SNS、スマートフォンまでも射程に収めるその拡張戦略は、次の10年でデジタル産業の地図を塗り替える火種になるだろう。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。