Metaも企業AI導入に参戦 広告企業が「AI社員の現場配備」に踏み出した理由

AI新聞

米テクノロジーメディアThe Informationによると、Metaは新組織「Enterprise Solutions」を立ち上げ、大企業顧客の中にプロダクトマネジャー、データエンジニア、ソフトウェアエンジニアを送り込む計画だ。MetaのAIツールやサービスを顧客企業の業務システムに直接組み込み、社内で定着させることを狙う。

ソース:The Information
https://www.theinformation.com/articles/meta-launches-new-enterprise-push-boost-business-adoption-ai-tools?rc=qgaeex

これは単なる法人営業部隊の新設ではない。生成AI企業の競争が、モデルやチャットボットを売る段階から、顧客企業の業務に深く入り込み、AIを仕事の流れの中で使えるようにする段階へ移っていることを示している。

 

企業の現場に入り込むAI導入部隊

Metaのプロダクト責任者であるNaomi Gleit氏は社内メモで、新組織の構成を説明している。同組織には、顧客対応を率いるプロダクトマネジャー、顧客データをMetaのAIシステムで使えるように整えるデータエンジニア、顧客が日々使う業務システムにMetaのツールを組み込むソフトウェアエンジニアが加わる。

 

同氏は、AIや高度なデータツールを企業内で定着させるには、こうした人材を顧客企業に送り込む手法が有効だと説明した。

 

この動きはMetaだけのものではない。The Informationは、米Google Cloudの責任者であるThomas Kurian氏が今月、顧客企業のAI導入を支援するforward-deployed engineerの新チームを作る方針を示したとも報じている。OpenAI、Anthropic、Nvidiaも同様の動きを進めているという。

 

forward-deployed engineerとは、顧客企業の現場に入り込む実装支援エンジニアのことだ。米Palantirが政府機関や大企業向けに磨いてきた手法として知られるが、生成AIの時代になり、このモデルが再び注目されている。

 

背景には、企業AI導入の難しさがある。営業、財務、カスタマーサポート、ソフトウェア開発、データ分析といった実務にAIを組み込むには、企業ごとに異なるデータ構造、業務フロー、承認プロセス、セキュリティ要件に合わせる必要がある。AIの性能だけでは、この壁を越えられない。競争軸は「どのモデルが賢いか」から、「どの会社が成果につながる形でAIを業務に定着させられるか」へ広がっている。

 

広告依存から脱却できるか

Metaにとって、この動きにはもう一つの意味がある。広告依存からの脱却だ。

 

MetaはFacebook、Instagram、WhatsAppという巨大な消費者向けサービスを持つ一方、売上の大半を広告に依存している。The Informationによると、Metaの昨年の売上の98%は広告収入だった。AIインフラへの巨額投資を正当化するには、広告以外の収益源を育てる必要がある。

 

ただし、Metaは企業向け事業で目立った実績を残してきた会社ではない。2016年には、SlackやMicrosoft Teamsに対抗する企業向けサービス「Workplace」を立ち上げたが、2年前に終了方針を発表している。MessengerやWhatsAppを通じた企業向け顧客対応ビジネスもあるが、同社全体から見れば規模は限られる。

 

そのMetaが、生成AIをきっかけに企業市場へ再び足を踏み入れようとしている。Enterprise Solutionsは、その再挑戦の入り口になる。

 

自社を実験場にするMeta

興味深いのは、Metaが外部顧客に提供しようとしているものと、社内で進めているAI変革が重なっている点だ。

 

The Informationによると、Metaの最高技術責任者Andrew Bosworth氏は先月の別の社内メモで、「Agent Transformation Accelerator」という取り組みを説明した。これは、社内業務をAIエージェント中心に再編するための取り組みだ。同氏は、従業員が従来担っていた作業をAIエージェントが実行し、人間はそのエージェントを監督する側へ移っていくと説明した。

 

Metaは、自社を実験場にしている。まず社内で、AIエージェントを使った働き方を作り直す。その過程で、どの業務をAIに任せ、人間はどこを監督すべきかを学ぶ。その知見を、企業向けAI導入支援に転用しようとしているようだ。

 

「使っている感」に流される危うさ

ただし、この動きには落とし穴もある。The Informationの記事で象徴的なのが、「tokenmaxxing」という言葉だ。

 

Bosworth氏は社内メモで、AIツールを使うこと自体を目的化してはならないと警告した。同氏は、AIを使っているように見える動きが必ずしも進歩ではなく、トークン使用量だけでは成果を測れないと指摘している。

 

これは企業AI導入全体に通じる警告だ。利用者数、生成回数、チャット回数、トークン消費量は測りやすい。だが、それらは必ずしも生産性向上、売上増加、コスト削減、品質改善を意味しない。見るべきなのは、利用量ではなく成果だ。

 

MetaのEnterprise Solutionsは、二つの課題を抱えている。一つは、広告と消費者向けアプリで成功してきた会社が、大企業の業務システムに入り込み、長期的な信頼関係を築けるかどうかだ。もう一つは、AI導入支援を単なる「利用促進」ではなく、「成果創出」につなげられるかどうかだ。

 

Metaの動きは、企業AI市場が次の段階に入ったことを示している。OpenAI、Anthropic、Google、Nvidiaに続き、Metaも顧客企業の業務現場に入り込もうとしている。生成AIの競争は、もはやチャットボットの利用者数だけでは決まらない。AIを企業の仕事の流れにどう組み込むか。その設計力をめぐる競争が、本格化している。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

  • AI新聞
  • Metaも企業AI導入に参戦 広告企業が「AI社員の現場配備」に踏み出した理由

関連記事

記事一覧を見る