人工知能の未来を読みたければNVIDIAの動きを追え

AI新聞

 半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)が人工知能(AI)革命の立役者として産業界の注目を集め始めた。同社のパートナー企業の顔ぶれを見るだけで、これからどの業界に変化の波が押し寄せるのかが予測できそう。その裾野は広く、まさに革命前夜の様相を呈している。

世界最大級見本市の来年の基調講演に

 毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市Consumers Electronics Show(CES)の2017年の基調講演が、NVIDIAのCEOのJen-Hsun Huang(ジェンスン・ファン)氏に決まった。

 CESは1967年に始まった歴史ある家電見本市。基調講演は毎年、有力家電メーカーのトップが行うことが慣例だったが、2000年にMicrosoftのBill Gates氏を初めて基調講演に招いた。家電におけるパソコン技術の重要性を印象付けた基調講演となった。

 そして年明けのCES2017の基調講演に、NVIDIAのトップが招かれることになった。NVIDIAはもともとはコンピューターゲームが主要用途だったGraphics Processing Unit(GPU)と呼ばれる半導体で頭角を現してきたメーカーだが、最近ではAI用半導体チップメーカーとして脚光を浴びている。

 家電を牽引するのが、パソコン技術からAI技術へと移行しつつある。そのことを印象づけるような人選だ。

2011年、GPUがディープラーニングの進化を加速させた

 パソコンの頭脳といわれる半導体チップはCPU(Central Processing Unit)。CPUは計算式を1つ1つ順番に処理するタイプの半導体だ。

 一方でGPUはグラフィック処理に特化した半導体チップで、幾つもの計算式を同時に並列に処理できるのが特徴。人間の脳は、何十億個ものニューロンが電気信号をやり取りしている。膨大な並列処理が行われているわけだ。それを真似るには、並列処理が得意な半導体のほうがいい。

 最初にGPUの可能性に着目したAI研究者は、スタンフォード大学のAndrew Ng氏だと言われる。これまで2000個のCPUを使って解いていたディープラーニングの計算を、Ng氏は2011年にわずか12個のNVIDIAのGPUで実行した。それから世界中のAI研究者がNVIDIAのGPUを使うようになった。低コストでディープラーニングの研究開発が行えるようになったため、ディープラーニングはいろいろな領域で次々と成果を挙げ始めることになる。

 今日のAIブームは、NVIDIAがコンピューティングコストを大幅に下げたことが最大の要因かもしれない。

目と耳を持ったAI

 その後のAIの進化には、目を見張るものがある。2011年にGoogleのコンピューターが膨大な枚数の猫の写真を読み込むことで、猫の特徴を自分で学習し、猫の写真を正確に認識できるようになったが、そのわずか4年後にはAIは人間よりも正確に画像認識できるようになっている。

 ImageNetとよばれる画像データベースに蓄積された写真を見て、その写真に写っているものが何であるのかを認識するテストで、人間は平均で約5%の写真を誤認するという。人間のエラー率は5%ということだ。

 AIは順調にエラー率を低下しており、2011年には25%だったエラー率が2012年には15%、2014年には6%となり、2015年には3%を達成。ついに人間のエラー率を下回った。人間より画像を正確に認識できるようになったわけだ。

 音声認識では、Microsoftが強い。今年9月にはエラー率が世界記録の6.3%を樹立したかと思えば10月にそれを更新。5.9%を記録した。これはプロのディクテーター(速記者)と同レベルだという。人間を超えるのは時間の問題だと見られている。

 Microsoftの研究者は「ここまでの成果を挙げれるとは、5年前には想像もつかなかった」と語っている。

 AIが人間を超える「目」と人間並みの「耳」を持った。「目」と「耳」は学習のために最も重要な感覚。「目」と「耳」を持ったことでAIは、今後さらに急速に学習していくことになるのだろう。

出揃ったNVIDIAの半導体

 「目」のAI、「耳」のAIともに、使われているハードウェアはNVIDIAのGPUだ。

 企業で最も早くNVIDIAのGPUを採用したのは、Baidu、Google、Facebook、Microsoftなどだが、NVIDIAが協力する企業の数はここ2年間で35倍にも増えており、3400社を上回るまでになったという。

 領域としては、ヘルスケアやライフサイエンス、エネルギー、金融サービス、自動車、製造、メディア・娯楽、高等教育、ゲーム、政府など。ありとあらゆる産業が、AIを活用しようとしていることが分かる。

 またNVIDIAはこうした業界からの要望に応えるため、PC向けにはGeForce、クラウドやスーパーコンピューター向けにはTesla、ロボットやドローン向けにはJetson、そして、自動車向けにはDRIVE PXといった名称のGPUを揃えてきた。

 準備万端。これからいろいろな産業で、AIを搭載した製品やサービスが怒涛の如く生まれてくることだろう。本格的なAI革命が、幕を開けようとしているわけだ。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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