チャット型AIは幻滅期に入ったのか

AI新聞


ChatGPTのユーザー数が減少している。ハイプサイクルで言うところの幻滅期に入ったのかもしれない。個人的には、半年以内にチャット型AIが自律エージェントに進化すると言われていることを考えれば、言語AIブームがすぐに終わることはないとは思うのだが。

ロイター通信が調査会社similar webのデータとして報じたところによると、6月のChatGPTのサイトへのアクセス数が前月比で9.7%減少したという。


米調査会社ガートナーによると、社会に影響を与えるような技術革新は、最初は熱狂的に受け入れられるが、その後幻滅期に入る。それでもゆっくりとした進化を続け、最終的には成熟期に入り、社会に広く普及するという。ハイプとは期待のピークという意味で、この世間の需要度の変化のサイクルをハイプサイクルと呼んでいる。


ChatGPTの利用率が低下したのは、ChatGPTがハイプ期を通過し、幻滅期に入ったのからだという指摘がある。つい最近までテレビでも取り上げられるほど話題になっていたが、確かにこれはハイプ期だったと思う。あまりにもいろいろなところで話題になるので、実際にChatGPTを触ったという人も多いことだろう。実際に触った感想はどんなものだったのだろうか。ChatGPTが持っているのは2021年9月までのデータだし、回答に嘘が混じることも多い。便利な面もあるが、やはり使えない。そう感じた人が多かったのかもしれない。なので、それ以降は使わない。そういう人が多いのであれば、いわゆる幻滅期に入ったのだと思う。


一方で、米国では学校が夏休みに入ったことが利用率の低下に影響しているという指摘がある。米国の学生のほとんどがChatGPTを利用していると言われる。学習支援はChatGPTの最も便利な用途の一つだ。ChatGPTがあまりに便利なのでオンライン家庭教師サービスを脱会するユーザーが急増。有力家庭教師サービスのCheggの株価が40%以上も下落したほどだ。これだけChatGPTを利用する米国の学生たちが夏休みに入ったのだから、利用者が10%減るのは当然だという意見がある。

 

夏休みが終われば、ChatGPTの利用率が再び上向くのか。幻滅期に入ったかどうかは、9月の数字を見てから判断したいと思う。

 

しかしたとえChatGPTが一時的な幻滅期に入ったのだとしても、チャット型AIには自律エージェントと呼ばれる次の進化が待ち受けている。自律エージェント機能が実装されることで再びハイプ期に入る可能性があると思う。

 

自律エージェントとは、最終的な目的を与えれば、その目的を達成するために何をすべきかを自分で考えて、実行していくAIの機能のことだ。どんなことが可能なのか、実際に僕が自律エージェントを使った体験談を書いたので、そちらを読んでいただければと思う。(参考記事:AutoGPTは何がすごいのか 実際に非エンジニアが「記者ボット」を自作してみた

 

今のチャット型AIは、自然言語で質問に答えてくれるだけ。人間に話すような話し方で質問すれば、普通の言葉で言葉で回答してくれるというレベルだ。エージェント機能が搭載されれば、質問に答えてくれるだけでなく、アクションまで起こしてくれる。


例えば今なら、「赤坂周辺でデートに使えるような美味しいイタリアンのレストランを教えて」と聞くとチャット型AIは、レストランをいくつか教えてくれる。ところがエージェント機能が搭載されると「デートに使えるレストランを探して、今週金曜日午後8時から二名で予約しておいて」と命令すると、そのレストランのWebページにアクセスして予約してくれる、といったことができるようになる。


Meta(Facebook)のMark Zuckerburg氏は、こうしたことが可能なチャットボットをインスタグラムなどのSNSサービスに「そう遠くない将来に搭載する」と明言しているし、パーソナルAIを開発中の注目ベンチャーの米Inflection AIのMustafa Suleyman氏は「数ヶ月以内に実装する」と語っている。

 

最初は、レストランを予約する、といったシンプルなタスクしかできないかもしれないが、いずれ「夏休みの家族旅行を計画して、家族の意見を聞きながら調整し、新幹線の切符の手配からホテルの予約まで全部やって」といった命令にも上手に応えてくれるようになるだろう。その後も次々と可能なタスクの種類を増やしていくと見られている。

 

多くのユーザーがシンプルな質疑応答の機能に飽きたり、幻滅したとしても、自律エージェントという新しい機能の搭載がすぐそこにまできている。ChatGPTが幻滅期に入ったとしても、言語AI自体の進化はまだまだ終わりそうにない。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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