AutoGPTは何がすごいのか 実際に非エンジニアが「記者ボット」を自作してみた

AI新聞

 

第4次AIブームがものすごい勢いで進展している。中でも技術者の間で最近の話題は、まるでデジタル秘書のようなAI、AutoGPTだ。

 

AutoGPTを簡単に説明すると、ユーザーが簡単な指示を出すだけで、その意図を汲んで、幾つかの具体的タスクに分類し、順番にそれをこなし、自分でやり方を改良していくAI。

 

開発したのはSignificat Gravitasという名称で活躍している個人のエンジニアで、Gravitas氏が3月30日に、世界中のプログラマーが自分の作ったプログラムを公開するサイトGitHub上でAutoGPTを公開したところ大騒ぎとなった。4月12日にはTwitterのトレンドワード1位、GitHubの週間トレンドの1位になっている。またこの原稿を書いた4月17日現在、GitHub上で8万個以上の星がついている。つまり8万人以上のプログラマーが、このAIを高く評価しているわけだ。

AutoGPTのことをもう少し技術的に説明すると、Python言語で書かれたオープンソースの実験的アプリケーションで、OpenAIの大規模言語モデルGPT-4を活用している。同氏のGitHub上の投稿によると、AutoGPTは①インターネット検索機能を搭載②ロングタームとショートタームメモリ機能を搭載③一般的なテキストを生成するためにGPT-4を利用④人気のサイトやプラットフォームにアクセスする機能を搭載⑤ファイルのストレージと要約のためにGPT-3.5を利用、といったところが主な特徴らしい。

 

Twitter上には、AutoGPTを利用してデジタル秘書を開発した事例がたくさん出始めている。おもしろそうなので、私自身も自分のデジタル秘書を開発してみることにした。

 

YouTubeには早速、AutoGPTを使ってAIモデルを開発する方法を解説する動画が幾つか上がっている。2つほど動画を見てみた。割と詳しく解説してくれているのだが、プログラミングがまったくできない自分には少々ハードルが高い。試す前に、戦意を喪失してしまった。

 

▼非エンジニアでも開発可能

 

今回のAIブームがすごいのは、困ったことがあれば世界中のどこかでだれかが、その問題を解決してくれるところだ。AutoGPTを試したいのだが自信がない私のような非エンジニアのために、サイト上にAutoGPTの開発環境が整備されていて簡単に自分好みのデジタル秘書を開発できるサイトAgentGPTが公開された。

 

早速そのサイト上でデジタル秘書を開発してみた。することは2つだけ。デジタル秘書の名前と、そのデジタル秘書で何を達成したいかというゴールを定めるだけ。名前は「ReporterGPT」、ゴールは「TwitterとYouTubeをクロールして、記事に書けるような最新技術のトレンドとその情報を集めてきて」にした。超簡単。これなら僕にでもできる。多分日本語でもだいじょうぶだと思うんだけど、英語の方が精度がよくなると思うので、入力は英語にした。

 

あとはReporterGPTが、ゴールを達成するための具体的タスクを3つ、自分で決めてきた。1つ目のタスクは「twitterとYouTubeをクロールして人気の技術系ハッシュタグとチャンネルを見つけ出す」というもの。2番目は「自然言語処理を使って、関連するキーワードやトピックをベースに、集めた情報を分類する」。3つ目は「データベースを作って、見つけた情報を格納する」というものだ。

 

しばらくすると「twitterとYouTubeのクロール完了」「自然言語処理を使って情報の分類完了」「データベースの形式をどれにするか検討中」「検討終了」「情報をデータベースに格納開始」と報告してきた。

 

ReporterGPTが選んだテーマは「AI」「ブロックチェーン」「サイバーセキュリティー」「5G」「IoT」など。

 

ReporterGPTはさらに「集まったデータをベースに、機械学習を使ってこれから注目されるテクノロジーを予測する」というタスクを自分自身で追加してきた。また「予測精度を上げるために、テックニュースの記事の読者の反応を分析する」というタスクも自分で加えてきた。

 

これらの「タスク実行中」という報告の直後に「twitterとYouTube上でテック系のインフルエンサーを探すというタスクを追加します」と報告してきた。私からの追加指示は一切ないのに、「最新技術のトレンドに関する情報の収集」というゴールを達成するために、次々と自分に新しいタスクを追加してきているわけだ。なんと優秀なデジタル秘書なんだ!

 

と褒めた途端に作業がストップした。無料で使えるのは、どうやらここまでらしい。継続したければ、OpenAIのサイトで利用契約を結ばないといけない。会社からOpenAIの利用権限をもらっていたので会社のメールアドレスでID登録し、APIキーを獲得。それをAgentGPTのサイトで入力して、作業を再開した。

 

私のデジタル秘書ReporterGPTは次に「新しい技術トレンドに対するtwitter、YouTubeユーザーの感情を分析する」というタスクを追加してきた。「感情分析用ツールを使うことで、ユーザーの口コミで広がりそうな技術トレンドをいち早く見つけることができます」と説明してくれた。ほんと、いろいろなタスクを思いつくなあ、とつくづく関心。

 

次にReporterGPTは「集まった情報をまとめて要約する」「内容を分析して分類する」という2つのタスクを自分で追加してきた。

 

それらのタスクを実行するやいなや、「技術トレンドに関するユーザーのエンゲージメントを測定する」というタスクも追加してきた。

 

さらに「情報ソースが信用できるものかどうか判定する」「新しい技術トレンドの中でだれがインフルエンサーか判別する」というタスクも始めた。やれやれどこまで徹底的に調査することやら。

 

その後もどんどんとタスクを追加しては、次々と実行している。20分程度付き合ったが、終わりそうにもない。会社の経費とはいえ、利用料金が莫大な金額になるんじゃないだろうか。ちょっと心配になってきたので、ここで中断することにした。

 

▼そつなく働く秘書

 

中断した段階でReporterGPTが選んだ記事のテーマになりそうな最新技術トレンドは次の通り。

 

  1. Artificial intelligence and machine learning
  2. Blockchain technology
  3. Virtual and augmented reality
  4. Internet of Things
  5. 5G mobile networks
  6. Quantum computing
  7. Robotics and automation
  8. cybersecurity and data privacy

 

まあ、妥当な結果。それぞれのトレンドに関するユーザーの反応や、各社の取り組みに関する情報も集めてきてくれた。情報ソースもしっかりと明記してくれている。記事になりそうなポイントも幾つか提案してくれている。

 

確かにこれは便利だと思う。

 

ただ個人的には必要ないかなって思った。これらの情報を眺めてみても、記事を書きたいという気にはなれなかった。わくわくしてこないのだ。

 

ReporterGPTは始まったばかりのトレンドを統計的に見つけてきてくれるわけだけど、恐らく人口の数%のアーリーアダプターの意見を統合しているんだと思う。ところが数%の先端意見は、私の業務にとってはニュース性が低い。私が欲しいのは、より尖ったトレンド。まだ数人ほどしか気づいていないようなトレンドのことを耳にすると、わくわくしてくる。記事にしたくなる。なので私のような人間には、統計結果を見るより、数人の尖った人たちのTwitterを見ているほうが、役に立つんだと思う。

 

ただ一般紙の経済記者ならば、数%の先端の人の意見こそが、原稿にしたい部分。そういう記者にとっては非常に役に立つツールなのかもしれない。

 

▼最強のツール?それとも最恐?

 

私のデジタル秘書ReporterGPTは情報を集めることをゴールに設定したが、「集めた情報を新聞記事風の原稿にして」とゴールを設定すれば、原稿まで書いてくれるのだと思う。

 

それって非常に便利だけど、一方で完璧にできれば記者が不要になるのではないだろうか。

今回は、記事執筆のための支援ツールの開発をAutoGPTで試したが、プログラミング支援ツール、営業支援ツール、顧客サポート支援ツールなど、いろいろな業務で支援ツールの開発が簡単にできてしまいそう。

 

さらにその精度が向上すれば、「支援」ではなく「人間代替」ツールになってしまうだろう。

 

「AIが人間の職を奪う」。何年も前から議論されていることだが、いよいよその可能性が現実味を帯びてきた。

 

これからこうしたツールを最大限活用して、少人数で効率よく運営する企業が出てくることだろう。DXがいっこうに進まない企業は、そうした企業に淘汰されていくことになるのだろうか。時代変化が加速度を増してきた。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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