コロナ禍の中、米大手テクノロジー企業の株価が続伸している。ニューヨーク大学のScott Galloway教授の新刊「Post Corona: From Crisis to Opportunity」によると、コロナ禍で時代が10年ほど早送りになっており、テック大手の独占時代に入ったという。
この本によると、米国株式の指標であるS&P500は2020年1月から7月にかけて2%上昇しているが、頭文字を取ってGAFAと呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、AppleにMicrosoftを加えたテック大手5社だけ見ると、5社の株価はこの期間に35%も上昇している。この5社を除いた残りの495社は-5%と下落しており、テック大手の株だけが上昇していることが分かる。
コロナ禍が長引き先行きが不透明な中、安定が期待できる大手企業、特にテック大手に投資マネーが集中しているのだと思われる。
バブルで高騰した株価は必ず下落するはず。しかし同教授は、テック大手の株価は下落しないという。同教授は、世界的ベストセラーとなった前著「the four GAFA 四騎士が作り替えた世界」で、テック大手の独占時代の到来を予測しており、今回のコロナ禍でその時代が早くきただけだと主張している。
株価の高騰でテック大手は低コストで資金を調達できるようになったわけで、これからますます事業を拡大していくことになるだろう。事業に成功すると株価が上がって資金調達が楽になる。資金を調達すれば事業が拡大されてさらに株価が上昇する。正のスパイラルになるわけだ。
「Competing in the Age of AI」といいう本を書いたハーバード大学ビジネススクールの2人の教授によると、AIをベースにした製品やサービスは、データが集まればAIが賢くなり、AIが賢くなることで利用者が増え、利用者が増えることでさらにデータが集まり、AIが賢くなる。
その根拠は異なるが、どちらの本の著者も、正のスパイラルでテック大手が今後どんどん大きくなることを予測している。
また株主への責任を果たすために大きくならざるを得ない、とGalloway教授は指摘する。同教授によると、投資家は5年で株価が倍になることを期待しており、そのためにはGAFAの売り上げは合計で1兆ドルほど増加する必要があるという。
まずは今回のコロナ禍で大打撃を受けているメディア、広告業界のシェアを一気に拡大することで2、3年は株価を維持できるが、それでけでは不十分で、そのあとは別の業界に進出するしかないと主張している。
GAFAは、市場規模が十分に大きくて、テクノロジーの利活用がそれほど進んでいない業界から順に狙っていくことだろう。
この棒グラフは、市場規模がそれなりに大きい米国内のいくつかの業界だ。ヘルスケア、医療関係が多い。同教授によるとAmazonは、既にヘルスケア業界に焦点を当てて動き始めたという。
GAFAは、どのような形で広告、メディア、ヘルスケアの領域を手中に収めようとしているのか。別の記事でGAFAのメディア戦略やヘルスケア戦略について取り上げたいと思う。
さてGAFAの独占的立場について米国政府は何も手を打たないのであろうか。もちろん連邦議会にせよ司法省にせよ、公聴会にGAFAの経営者を呼ぶなどして、既に動き始めている。ただ戦前に出来た独占禁止法で今日の企業を取り締まるのは困難だとGalloway教授は指摘する。同教授によると、米国の独禁法は、消費者利益保護を主眼としている。これまでの大手企業は、独占的立場に入ると、手の平を返したように製品の価格を釣り上げた。ところがテック大手のサービスは無料のものが多く、しかもユーザーが増えれば増えるほどサービス内容が向上するようにできている。独占的な立場になるほうが、消費者の利益になるわけだ。なので現行の独禁法では、うまく取り締まれないというわけだ。
また米国政府が米国企業を取り締まれば、中国企業の台頭を許しかねない。そういう思惑もあってか、GAFAの取り締まりは難航しそうだ。
コロナ禍は直接的には観光業、外食産業を直撃しているが、間接的にはいろいろな業界に影響を与えることになりそうだ。