Web3で進化するAIの未来

AI新聞

 

Web3という新しいWebの時代になり、これまで富や権力がGoogleや Facebook といったテクノロジー大手に集中していた時代から、より多くの人に分散される時代に向かっていると言われている。テクノロジー大手が大きく業績を伸ばしたのは彼らの基幹技術であるAI が、先手必勝、勝者一人勝ちの傾向にあるからだが、富と権力の集中を拒むWeb3の価値観の中でAI はどのように進化していくのだろうか。

 

暗号通貨イーサリアムの提唱者で、Web3時代のオピニオンリーダーであるビタリック・ブテリン氏は、Web3時代には今日のAI の巨大化の傾向が一変して、ユーザー一人ひとりに特化したAI が誕生し、それらのAI が相互連携し社会全体として巨大な知を形成することになるだろうと予測している。

 

詳しく見ていくことにしよう。

 

まずAI の特性を確認しておこう。AI はデータがなければただの箱だと言われる。逆に言えば、データが多くなれば、AI はどんどん賢くなっていく。AI をサービスに導入すれば、サービスの質が向上する。サービスの質が向上すれば、より多くのユーザーが利用する。より多くのユーザーが集まれば、より多くのデータが集まる。より多くのデータが集まれば、AIはより賢くなる。AI がより賢くなれば、サービスの質が向上する。サービスの質が向上すれば、より多くのユーザーが利用する・・・。こうして正のスパイラルがぐるぐる回る。AI は勝手に賢くなっていき、サービスも拡大。利用者が増え、運営会社の収益もどんどん大きくなる。

 

先にこの正のスパイラルに入ったAI を後発AI が追い抜くことはほぼ不可能。なので、早期にAI を導入した米テクノロジー大手に富と権力が集中したのだと思われる。

 

一方で巨額の富を既に蓄積したテクノロジー大手は、この正のスパイラルのプロセスを待たずに、富の力でさらに大きなAIを一気に作ろうという動きに出ている。その動きの代表例が、米マイクロソフトが独占ライセンスを取得したGPT-3と呼ばれる巨大AI モデルだ。

 

GPT-3は文書生成機能を持っており、キーワードを2、3個入力すれば、そのキーワードをベースにした「それっぽい」文章を生成してくれる。ある技術者がGPT-3を使ってAIにブログ記事を自動生成して、ニュースサイトに投稿したところ、あっと言う間に人気記事になってしまった。このブログ記事がAIによって自動生成されたものであることに気づいた読者はほとんどいなかったという。

 

GPT-3はウィキペディアやニュース、ブログ記事などネット上の約45テラバイトという膨大なテキストデータを約1750億個のパラメータを使って学習している。膨大なデータで学習しているので、人間が1つの単語を書いたら、その次にどのような単語を書くのかを高い精度で予測できる。例えば「いつもお世話に」という風に単語が並んでいれば、次にくる単語が「なっております」と予測するわけだ。次に来る確率が高い単語を次々と並べていくことで、あたかも人間が書いたかのような自然な文章を自動で生成できるわけだ。(参考記事「日本語が上手になりました。巨大AI言語モデル続々登場」)

 

GPT-3は予測精度が非常に高いので、文書要約や、翻訳、対話ロボットなど、いろいろな領域に利用され始めている。

 

これが今のAI の最先端事情だ。さてでは、これがWeb3時代にはどのように変化していくのだろうか。

 

ブテリン氏らが書いた論文「Decentralized Society(分散化社会)」によると、AI は「予測市場」と呼ばれる手法を取り入れて進化していくという。

 

▼予測市場モデルの進化

 

今日、未来を予測する科学的手法としては大別すると、AI を使う方法と、「予測市場」という仕組みを使う方法の2つがある。

 

予測市場とは、株式市場を模した形で将来の出来事を予測する仕組みで、ドナルド・トンプソン著「予測市場という新戦略」という本が出版されて話題になったことがある。

 

例えば「次の選挙で自民党は大敗する」という出来事が起こるのかどうかを予測する場合、多くの人に参加してもらって、それぞれが思う結果にトークンをかけてもらう。トークンは金銭的価値を持たないものでもいいし、仮想空間内は国家による規制がまだないので暗号通貨を使うことも可能だ。

 

普通のアンケートなら、一人の意見を1票と数えるので、おおくの人が投票した方の意見の方が、アンケートの予測結果になる。一方で予測市場だと、トークンの数で予測結果が決まる。自分の意見に自信がある人はより多くトークンを賭けるので、予測に対する自信が予測結果に反映されることになる。

 

株式市場は予測市場そのもので、投資家は株価が上がりそうだと予測する銘柄の株を購入する。予測に自信があれば、株数をより多く購入する。そうした投資家全員の予測を集計したものが、株価となるわけだ。

 

この予測市場という仕組みは、単なるアンケートよりも、予測に自信のある人の意見が重みを増すので、アンケート結果よりも正確に未来を予想できると言われている。

 

ただもちろんこの手法は、完璧ではない。

 

1つは仮想通貨をトークンとして使う場合は、予測するのに金銭が絡むことだ。しかも誰かが得をすると、必ず誰かが損をする。すべての人が豊かになる仕組みではない。

 

それに投機目的の人が多ければ予測結果が外れる可能性が高くなるし、一方でリスクを嫌う人が参加してこなければ、すべての人の知恵を集結できるわけでもない。

 

またお金を多く持っている人の予測能力が必ずしも高いわけではない。反対に専門的な知識を持っていても、予測結果に影響を与えることができるだけの資金を持っていない人もいるだろう。

 

そこで予測市場をさらに進化させる手法として考案されたのが、「チーム予測アンケート方式」だ。チームメンバーは簡単な情報共有を行なったあとに、トークンで投票する。それと各自のトークンの重みは、過去の予測結果や仲間からの評価で変更されて集計される。

 

データ予測会社Pytho社の創業者のPavel Atanasov氏らの研究チームが行なった実験では、普通のアンケートよりも予測市場のほうが予測精度が高かったが、チーム予測アンケート方式はさらに高い精度を出したという。特に長期傾向の兆しを発見するというタスクにおいて、チーム予測アンケート方式が、高い成績を叩き出したという。

 

ブテリン氏の論文は、このチーム予測アンケート手法は、クワドラティック・ファンディングの考え方を取り入れることで、さらに進化すると主張する。クワドラティック・ファンディングとは、イーサリアムの運営組織などで採用されているWeb3的な寄付および投票の方法で、個人の寄付の平方根の総額の2乗の額になるように主催者が不足分を支出する方法だ。というだけでは何のことだか分からないと思うので、具体例を挙げて説明しよう。

 

ある自治体で図書館と公民館の両方を建設することになった。建設費は住民からの寄付と自治体予算の両方でまかなう。ただし自治体が支払う金額は、住民からの寄付額をベースに、ある計算式で算出したものになる。

 

この計算式とは、住民一人ひとりの寄付額の平方根を足して2乗したものを建設費とし、その足らない部分を自治体の予算から支出する、というものだ。

 

例えば図書館建設には10人の住民が賛成し1ドルずつ寄付した。1ドルの平方根は1。それが10人から寄付されたので、合計は10ドル。それを2乗すると100ドル。それが建設費となる。住民からの寄付の総額は10ドルなので、不足分の90ドルを自治体予算から支出することになる。

 

一方で、公民館の建設には一人の資産家が賛成し、10ドルを寄付した。10ドルの平方根を2乗すれば10ドル。それが建設予算の総額になる。建設予算の総額が10ドルで、住民からの寄付の総額も10ドル。なので自治体の予算からの補填はゼロになる。

 

単純なマッチング寄付だと、資産家がお金を多く出したプロジェクトに自治体のお金がより多く使われることになる。それだとお金を持っている人のほうが、自治体の予算というみんなで持っているお金をより多く使えるという不公平な結果になる。

 

一人一票でもなく、お金を持っている人が特別有利でもない知恵の集結方法が、クワドラティック・ファンディングだ。

 

この考え方をチーム予測アンケート方式に取り入れて、予測が外れれば掛け金を全額失うが、当たった場合は賭け金の2乗の額を主催者から受け取れるルールにするわけだ。例えば「ひと月後に円安はどこまで進むのか。今から30日後の為替レートを正確に予測せよ」というような問いに対し、掛け金を100円支払って「1ドル153.42円」と予測。予測が的中すれば10000円を主催者から受け取ることができるが、外れても100円損するだけで済む。

 

単純な予測市場モデルでは、他のメンバーの予測が外れれば自分は儲かる。なので情報を隠しておきたいというインセンティブが働く。クワドラティック・ファンディングというWeb3的な要素を追加すれば、予測が外れてもそれほど痛手にならないのに、当たれば大きく儲かる。なので情報を共有しようというインセンティブが働くわけだ。

 

予測精度が向上するのであれば、主催者は喜んで掛金の2乗の金額を支払うことだろう。

 

▼SBTで予測市場がさらに進化

 

チーム予測アンケート手法やクワドラティック・ファンディングの考え方で、予測市場型のモデルがさらに進化するわけだが、この論文はSBT(Soul Bound Token)を取り入れることで予想市場型の予測モデルがさらに大きく進化すると主張している。

 

SBTとは、Web3の基幹技術であるブロックチェーンを応用した新しいタイプのトークンで、譲渡不可能トークン(Non Transferable Token)とも呼ばれる。

 

ブロックチェーンを応用して作られたこれまでのトークンは、代替可能トークン(Fungible Token)と代替不可能トークン(Non Fungible Token)に分類される。最近デジタルアート作品などが高額で売買されることで話題になることの多いNFTは、Non Fungible Tokenのことで、代替不可能トークンのことだ。

 

代替可能とは、具体例で言うと「あなたの1ビットコインと、私の1ビットコインは、取り替えっこできます」というようなことだ。代替不可能とは「あなたの持つ絵の値段は1ビットコイン。私の持つ絵の値段も1ビットコイン。値段は同じだけど、図柄が違うので取り替えっこはできません」というようなことだ。なのでブロックチェーンに代替可能トークンの機能しかなかったときは、暗号通貨という使い道しかなかった。そこに代替不可能トークンを発行する機能が追加されたため、これまでコピーし放題だったデジタルアートが代替不可能になり希少性が生まれた。希少性が生まれたので、デジタルアートが価値を持つようになったわけだ。

 

そして今年になって新しく提案されたのが譲渡不可能トークンのSBTだ。譲渡不可能とは具体例で言うと「私の運転免許証は、私以外の人が持っても使えません」というようなことだ。

 

個人の経歴や特技、スキル、所属グループなどを示すデータは、ほとんどがSBTにできる。例えば、卒業証書や技能研修の修了証、社員証などの職歴データ、論文やブログ記事、アート作品などをSBTとして、アプリの中に格納しておくことができる。

 

チーム予測アンケート方式にSBTを導入することで、チームメンバー一人ひとりの経歴や専門性というデータを考慮に加えることが可能になる。例えば経済に関する予測市場では、経済学の学位や、経済に関する仕事に関するSBTを持っているメンバーの票の重さを自動的に重くすることが可能になる。もしくは関連するスキルを持つメンバーで、予測チームを構成することも可能になる。そうすることで予測精度のさらなる向上が期待できるとしている。

 

▼1つの巨大汎用AI モデルから無数の個人向けAI モデルへ

 

予測市場以外の方法で、未来を予測するもう一つの有力な科学的手法といえば、もちろんAI である。

 

先に述べたように、GPT-3は、ウィキペディアやニュース、ブログ記事、ツイッターの投稿などネット上の約45テラバイトという膨大なテキストデータを使って学習している。膨大なデータを使って学習しているので、生成される文章は人間の書いたものと見分けがつかなくなっている。文書自動生成、文書要約、翻訳、通訳などといったアプリケーションが今後、GPT-3のような巨大AI の恩恵を受けて、大きく性能を伸ばしていくことになるだろう。

 

文書データだけではない。これから健康データ、金融データなど、ありとあらゆるものがデータ化されていく。こうしたデータが科学の研究などに利用されることになれば、科学技術や経済が大きく発展し、社会が大きく進展していくことだろう。

 

例えば癌にかかるのかどうかは、生活習慣に左右されることは分かっている。何を食べて、どんな生活をすれば、癌にならなくてすむのか。そうした研究は続けられているが、被験者数が限られているためデータが少なく、まだまだ分からないことが多い。

 

もし地球上のほとんどすべての人が研究に協力し、食事、運動、労働環境、ライフスタイル、DNAデータなど、発癌に関連するすべての要因のデータを提供するようになればどうだろう。そのうちのだれが癌になったかというデータと照合すれば、AI が発癌パターンを認識し、癌研究が一気に進むはずだ。どういう遺伝子を持った人は、どのようなライフスタイルにすれば癌の発症を防げるのかがより正確に分かり、癌患者の数が激減するに違いない。

 

癌だけではない。痴呆や鬱病、幸福感など、地球上のほとんどすべての人のデータを集めてAI で解析するできるようになれば、人類は多くの苦しみから解放されて、より豊かで幸福な人生を送ることができるようになるに違いない。

 

そうした時代への鍵をAI は握っているのだが、問題はデータである。多くの人のデータが必要になるわけだ。

 

多くの人のデータを集めるためには、もちろんセキュリティが万全でなければならない。個人情報の捉え方が変化して、個人情報を提供してもいいという考え方の人が増える必要もある。またデータ提供することで何か得をするというインセンティブ設計も必要になってくるだろう。金銭的インセンティブでもいいと思う。

 

セキュリティに関しては、SBTを使って個人データをユーザー本人で管理することで、セキュリティが向上すると考えられている。なぜならハッカーにとってみれば、何万件もの個人データを一箇所に集めている事業者のサーバーを攻撃するほうが、一人ひとりのユーザーからデータを盗むよりも圧倒的に効率がいい。SBTを使って個々人が自分のデータを自分で管理するようになれば、ハッキングが面倒になるわけだ。

 

新たなセキュリティ技術の開発も必要になってくる。多くの人が安心して自分の健康データなどの個人情報を共有できるように、オープンソースのセキュリティ技術を開発しようというエンジニアたちの集団が存在する。OpenMinedというボランティア集団で、開発された技術は次々とインターネット上で公開されているし、そうした技術を導入するためのオンラインコースなども開講している。

 

一方、個人情報の捉え方は、少しずつ変化の兆しが見え始めた。ニューヨーク大学のHelen Nissenbaum教授は、Privacy in Contextという本の中で、個人情報を秘匿するよりも共有すべきだと考える人が増えてきていると指摘している。

 

同教授は、個人情報を個人の私的財だと捉えるところに問題がある、と主張する。私的財という捉え方だと、他人に盗まれないように、しっかり守っておきたい、という考え方になってしまう。盗まれないためにネット上での共有を拒んだり、中には紙のデータで保存するケースもある。盗まれないようにすることを重視し過ぎて、使い勝手の悪いシステムが世の中に溢れている状態だ。

 

ところが実際には、完全な私的財のデータなど存在しない。メールのやり取りの記録は、やり取りしている相手にも所有権がある。ECサイト上での購入記録は、ECサイト側の販売記録でもある。ほとんどのデータは、だれかとの共有財ということになる。

 

データが共有財であるという認識に立てば、大事なのは共有の仕方になってくる。現実社会の中では、会社や、医療機関、学校、友達、家族といった異なる状況の中で、情報をどのように共有すべきかという共通認識が既に存在している。だれもがそれぞれの状況の中での共通認識にしたがって情報を共有している。オンラインの世界でも同様に個人情報の共有を拒むのではなく、状況ごとに共有のルールをSBTで細かく規定しておき、自動的にそのルール通りに実行されるようにしておけばいいだけのことだ。

 

最後に、情報公開のためのインセンティブの設計も重要になってくる。これまでのWeb3の先行事例で明らかになったことの1つが、お金のインセンティブの強力さだ。

 

STEPNというWeb3のアプリがある。毎日歩いたり、走ったりすることで、トークンを稼げるというアプリだ。これまでにもジョギングの習慣を促進するためのアプリが数多くあったが、運動することでトークンを稼げるという機能を追加したことで、STEPNはサービス開始からわずか2、3ヶ月で熱心なユーザーを数十万人集めることに成功。ジョギングアプリの最人気レベルに登り詰めた。

 

Web3という領域に、世界中のトップレベルの人材が集まり始めたのも、Web3の応用事例の1つが暗号通貨であり、暗号通貨市場が少し前まで高騰していたことが理由の1つだと言われている。

 

個人情報を共有することでトークンを稼げる仕組みができれば、多くの消費者が積極的に個人情報を提供するようになる可能性は十分にあると思われる。

 

といっても、消費者一人ひとりが自分でデータを管理し、AI を使う事業者と交渉するのは大変なことだ。この論文では、事業者と交渉するために消費者が消費者データ管理組合のような組織を形成することになるだろう、と予測している。

 

消費者データ管理組合の運営は、クワドラティック投票などのWeb3的な手法で行われるようになるだろう。またSBTでデータ生成者の属性が分かるので、「50代男性の生活様式と発癌リスクの関係」などといった研究テーマだと50代男性のデータだけが集計されるようになると見られている。

 

データを利用したい事業者はデータ管理組合と交渉しなければならず、事業者と消費者のパワーバランスは消費者側に傾くことになりそうだ。

 

事業者にとっては、消費者がデータ共有に積極的になるおかげで、データが大量に入手できるようになる。GPT-3のような巨大汎用AI モデルに頼らなくても、十分なデータがあるので特定の分野に特化したAI モデルでも十分に賢くなる。例えばSBTを使って、医療関係者の論文やブログ記事、SNS投稿だけを集めて自然言語処理のAI モデルを作れば、医療問題に特化したAI モデルが誕生する。

 

同様に「1990年代生まれの男性に特化したAI モデル」や「IT業界の20代女性に特化したAI モデル」などといった細分化、専門化が進んでいくことだろう。

 

SBTに含まれている専門分野、勤務先、出身校などといった領域のデータを集め、さらには個人データを加えると、自分自身に特化した秘書AIのようなものもできてくるだろう。

 

ユーザーの出すわずかな公開データをテック大手が勝手に利用して汎用的な巨大AIモデルを1つ作る時代から、ユーザーの協力を得て豊富なデータから多様なAIモデルが無数に誕生する時代へ。この論文は、ユーザーが自ら個人情報を管理し共有することで、そういったAIのパラダイムシフトが起こると主張している。

 

ここまでは何となく想像がつく未来予測なのだが、この論文のおもしろいところは、このAIのパラダイムシフトに予測市場の流れが合流していくと予測するところにある。

 

予測市場が、チーム予測アンケート方式に進化し、さらにはWeb3的なクワドラティック投票でさらなる進化するとこの論文は提唱しているが、さらにはクワドラティック投票に参加するのは人間ではなく、秘書AIになる、というわけだ。

 

予測市場とAIという未来予測モデルの両巨頭が合体するわけだ。予測精度はさらに向上することだろう。

 

消費者が消極的に公開するデータをかき集めるだけでも、テクノロジー大手は巨額の富を手にすることができた。これから消費者がトークン収入の見返りにデータを積極的に公開し、秘書AIに予測市場に参加させるようになる。そうなれば、これまでと比較にならない規模の富を形成できるようになる。そしてその富は、できるだけ平等に人類すべてで分散されるようになる可能性がある。少なくとも、そうした未来に向けた技術開発が継続されることになるだろう。

 

これがこの論文が予測するWeb3時代のAIの未来だ。

 

果たしてそういう未来が本当に来るのかどうか。現時点ではよく分からない。もしそういう未来がくるのであれば、仕事にならないことでも自分の好きなことに没頭する、という生き方でも、十分に生活費を稼げる時代になるのかもしれない。なぜなら人と違うデータの方が希少価値が高く、データ提供報酬が大きくなるかもしれないからだ。

 

ビタリック・ブテリン氏の目指しているのは、単なる理想に過ぎないのかもしれない。この理想の実現には、まだまだ多くのイノベーションが必要なのだと思う。ただ多くの人がこの理想に向けて動き出せば、現実化する可能性が大きくなる。そのことだけは間違いない。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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