日本ではLGBTQの人たちの婚姻が法律で認められていない。だが法律を変えなくてもWeb3技術で婚姻届と同等の恩恵を受けられるかもしれない。そう思わせてくれるのが、ブロックチェーン技術を活用し家族関係証明書を発行している一般社団法人Famieeだ。法律を変えなくてもビットコインという世界通貨ができたように、法律を変えなくても新しい結婚制度が可能かもしれない。Web3の社会実装の1つの事例になりそうだ。
法的な婚姻が認められていないために、同性カップルが受ける不都合は幾つかある。例えば、住宅ローンを組むときにカップルとしての収入合算が認められない。生命保険の受取人になれない。家族として認められないので手術の同意書に署名できない。会社の福利厚生を受けられない。ほかにもいろいろあることだろう。
国が同性婚を認めないので、婚姻同等のパートナー関係であることを認めるパートナーシップ証明書を発行する自治体が増えてきている。
Famieeのパートナーシップ証明書は、スマホのアプリから申請し、発行の事実をブロックチェーン上に記載する仕組みだ。ブロックチェーンは、仕組み的に改ざんがほぼ無理だし、未来永劫残る。政府、自治体よりも、証明書の優れた記録方法かもしれない。
記録するだけでは意味がない。結婚同等の恩恵を受けられなければ意味がない。Famieeでは既に70以上の企業、保険会社、病院、自治体などがFamieeの取り組みに賛同。Famieeが発行する家族関係証明書(現在は同性パートナーシップ証明書のみ)を提示する同性カップルに対し、夫婦と同等に扱うことを宣言しているという。Famieeのホームページには賛同し導入している組織のリストが掲載されている。賛同する組織が十分に増えてくれば、法律が改正されなくても婚姻と同様の恩恵を受けることができる。賛同する組織が今後どの程度増えるのかが重要なのだと思う
ただいくらブロックチェーンに記録されるからといって、「われわれ結婚します」と宣言しただけの同性愛カップルを、夫婦同等と認めてもいいものだろうか。婚姻関係には、財産分与、扶養、貞操などの義務が伴う。「権利と義務」の「権利」だけを求めるカップルに悪用されないだろうか。Famieeの発起人で代表理事の内山幸樹氏に聞いてみた。
内山氏によると、自治体が発行する同性パートナーシップ証明書には、世田谷区型と渋谷区型の2種類がある。世田谷区型は、二人が署名し宣誓するだけで発行する。一方、渋谷区型は、結婚と同等の義務を含むパートナー契約を結び、公証人役場で公正証書を発行してもらう必要があるという。「例えば生命保険会社だと、生命保険の受取人になるのに渋谷区型の証明書を要求してくるかもしれません。一方、会社の福利厚生なら世田谷区型で十分というケースもあると思います」と内山氏は説明する。
Famieeは現在、世田谷区型の証明書を発行しているが、今後はアプリ上で権利と義務が記載された契約を結べるようにし、契約を結んだカップルに渋谷区型の証明書を発行していく準備を進めているという。
技術的にどうなのだろう。パートナーシップ証明書をブロックチェーン上に記載することが、技術的には一番単純で簡単だ。しかしだれでも閲覧できるブロックチェーン上に、本名などの個人情報を記載するのって危険じゃないだろうか。
内山氏によると、個人情報はFamieeのサーバー上やブロックチェーン上には保存しないという。ブロックチェーンに載せるのは、個人情報をハッシュ値にしたもの。ハッシュ値とは、ハッシュ関数とよばれる数式に入力すると出力される数字のことで、同じデータを入力すれば毎回必ず同じハッシュ値が出力されるが、逆にそのハッシュ値から元のデータが何であるのかは分からないというもの。
証明書を提出された企業が真贋チェックしたいときは、証明書に記載されているQRコードを読み込むと検証サイトに飛び、そこで証明書に記載された個人情報や証明書番号を入力してハッシュ値に変換。そのハッシュ値とブロックチェーン上のハッシュ値が同じであるかどうかをチェックすることで、証明書が本物であるのかどうかが分かる仕組みになっている。
Famieeは非営利団体が運営しているが、たとえ数百年後にこの非営利団体がなくなったとしてもブロックチェーン上のハッシュ値は残る。また検証サイトでは検証コントラクトの呼び出し方法の公開を予定しており、第3者が検証用のウェブサイトを自由に立ち上げられるようにするという。非常によく考え抜かれた仕組みだと思う。
内山氏によると、今後はLGBTQだけではなく、同じシェアハウスで暮らすシングルマザー同士でも家族関係を結べるようにFamieeの用途を拡大していきたいと話す。
家族って何なのだろう。社会制度を変えなくても、時代に合った家族の形を模索することができるようになってきた。