ブロックチェーンからポスト資本主義まで。米の富豪たちがスマートシティを砂漠の真ん中に作りたがる理由
AI新聞

 

米の富豪たちによるスマートシティ建設計画が幾つか浮上してきている。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏がアリゾナ州に約100㎢の土地を購入したほか、仮想通貨の大富豪Jeffrey Berns氏はネバダ州に約270㎢の土地を購入、小売大手Walmartの元幹部のMarc Lore氏は、米西部で800㎢の土地を物色中だ。彼らはどうして新しい街を一から作りたがるのだろうか。

 

街を一から作るべきかどうかの判断は、恐らく家をリフォームすべきか、新築すべきかの判断に似ている。改良するだけで十分ならリフォームのほうが建築費が少なくて済む。しかし根本部分を作り直さないとならないのなら、新築したほうがいい。

 

上に挙げた富豪たちは、新しい技術を最大限に活かすためには、都市を根本部分から作り直すしかないと考えているのだろう。

 

では彼らは、どのような技術を使って、どのような思いで、都市を根本的に作り直そうとしているのだろうか。

 

▼ゲイツ氏の都市は、自動運転車天国?

実はビル・ゲイツ氏は、同氏のスマートシティ構想を正式に発表しているわけではない。アリゾナ州Belmont地域で広大な土地を購入した不動産投資会社Belmont Partnersが、同地域でのスマートシティー構想を発表。不動産ジャーナリストの調査で、ゲイツ氏の資産を管理する投資会社が、Belmont Parnersを通じて約97㎢の土地を8000万ドルで購入したことが2017年に明らかになった

 

Belmont Partnersが当時、ネット上で公開した発表文には、次のように記載されていたという。

 

「Belmontは、高速デジタルネットワーク、データセンター、新しい製造技術と流通モデル、自動運転車と自動流通センターなどの最新技術でコミュニケーションとインフラをバックボーンにした、未来志向のコミュニティーになります」

「3800エーカー(約15㎢)は、オフィスや店舗などの商業施設。470エーカー(約1㎢)が学校。そのほかは約8万世帯の住宅地になります」

「なんの特色もない土地が、柔軟なインフラと目的を持った最先端都市のモデルになります」

 

発表文にはまた「今回の投資は、Belmontを最先端インフラを使って持続可能な街を作るためのテンプレートにするでしょう」と書かれている。世界のスマートシティーのモデルケースにしたいという思いもあるようだ。

 

シリコンバレーのあるカリフォルニア州と比較すれば、隣接するアリゾナ州は人口密集地域が少ない。そういうこともあってか、アリゾナ州は自動運転の実証実験には協力的で、自動運転に取り組むテクノロジー大手の多くは、アリゾナ州での実証実験を繰り返している。なので自動運転車をスマートシティーの交通インフラとするのであれば、アリゾナ州が最適。ゲイツ氏はそういうことも考慮して、アリゾナ州を選んだのかもしれない。

 

その後もゲイツ氏からの正式発表はないが、2019年に隣接する土地をさらに約11㎢買い増しているらしい。

 

この計画に対しアリゾナ州のテクノロジー企業の業界団体であるArizona Technology Coucilは「ついにアリゾナ州は、イノベーションの土地として認識されるようになる」と歓迎のコメントを出している。

 

▼ブロックチェーンをベースにした街作り

 

弁護士で連続起業家、現在ブロックチェーン関連ベンチャーBlockchains社のCEO、Jeffrey Berns氏も、砂漠の中に巨大都市を作ろうとしている一人だ。

 

同社のサイトによると、2018年にネバダ州Storey郡に6万7000エーカー(約270㎢)の土地を1億7000万ドルで購入。そこに「境界線のないハイテクコミュニティーを作る」としている。

 

ほかのスマートシティー構想同様に、スマートシティー内でビジネス、教育、生活がすべて簡潔するように設計されており、約1万5000世帯、3万6000人が住み、約1㎢の商業施設を利用することになるという。

 

この計画の最大の特徴は、ブロックチェーン技術がスマートシティーの核になっていることだ

 

ブロックチェーンは仮想通貨のベースになっている技術で、すべてのプロセスを参加するプレーヤーが相互監視できるようにすることで、絶対的な権限を持つ中央組織が不要になる技術だ。

 

ブロックチェーンで本人認証することで、行政や医療、金融サービスの無駄がなくなる。事務コストを最小限に抑えることができるほか、各種サービスをスピーディーに提供できる。また成りすましを防ぎ、プライバシーを保護できるとしている。

 

その上、ブロックチェーンをベースにすることで、新しい技術を使った起業や商業活動が盛んになり、スマートシティー内の年間生産総額は46億ドルになる見通し。住民の生活は豊かになる、という。

 

▼不平等をなくす経済理論をベースにした街

 

米小売大手Walmartの米Eコマース部門の元CEO、Marc Lore氏は今年9月に、スマートシティーを一から作る計画を発表した。場所はネバダ、ユタ、アイダホ、アリゾナ、テキサス辺りを現在物色中で、2030年までに250億ドルをかけて5万人が生活できる約6㎢の街を作り、最終的には40年かけて500万人が住む約800㎢のスマートシティーを作る計画だという。

 

空には空飛ぶタクシーが飛び交い、ビルの上にはソーラーパネルや貯水タンク。野菜はビルの中の植物工場が作る。地上は、自転車と歩行者、ゆっくり走る自動運転車。典型的なスマートシティー構想だが、Lore氏の計画の最大の特徴は「equitism」と呼ばれる新しい経済理論をベースにしているところだ。

 

その経済理論によると、住民は建物を建て所有することができるが、土地自体はスマートシティーの共有財産になる。スマートシティーが発展すれば土地の価値も上昇し、総額で1兆ドルの価値が出れば、利息だけで500億ドルになる。その500億ドルであらゆる行政サービス、教育、医療、交通システムが無料で利用できるようになるという。

 

Lore氏によると、今日の米国経済の最大の問題は不平等で、今の資本主義は成長は可能にするものの、その一方で不平等を拡大しているという。equitismは、不平等を解消する新しい資本主義の形になる、としている。

 

都市デザインは、AppleやGoogleの本社をデザインしたデンマークの設計会社BIGが担当。ほかにもジョージア工科大学都市設計のEllen Dunham-Jones教授や、環境問題の専門家やクリエーターなど、今日の資本主義の不平等を解消するために、賛同した人たちが多数このプロジェクトに参画している。

 

▼画期的なアイデア?金持ちの道楽?

 

カナダのMcGill大学の地理学のSarah Moser准教授によると、世界中に1からスマートシティーを構築するプロジェクトが約150件もあるという。以前は独裁的な政権が推進するプロジェクトが多かったが、最近のプロジェクトの特徴は、テクノロジー業界で財を成した人たちが提唱していることだという。

 

テクノロジー富豪たちの考え方はハイリスク・ハイリターンで、まるでベンチャー企業を急成長させるようなやり方で都市開発を進めようとしている、と同准教授は指摘する。急成長するベンチャー企業のことが「ユニコーン」と呼ばれることから、同准教授はこうしたハイリスク・ハイリターンの都市開発計画を「ユニコーン・プランニング」と呼んでいる。

 

しかし、たとえだれも住んでいない荒野であったとしても、その土地はどこかの行政区域に属している。その行政システムの中で、開発計画を進めなければならない。

ユニコーン・プランニングの推奨者たちは、先端技術がすべてを解決できるという技術理想主義の人たちが多い。一方で、地元の自治体の政治家たちは、技術に精通しているわけではなさそう。技術主導で、現状の政治や行政、民主主義の仕組みをないがしろにするのではないだろうか。同准教授は、その部分を疑問視しており、「(成功する確率は)ほぼゼロ」と手厳しい。

 

Blockchains社の計画の場合、同社が政治献金で支持しているネバダ州のSteve Sisolak知事の了解は得ている。しかし同知事が提案したイノベーション特区法案は、議会や地元自治体の反発を受け、今年は廃案となった。引き続き調査、議論を継続するということだが、行政に権限を持たせないというブロックチェーンの考え方が今日の行政システムに受け入れられるのだろうか。

 

引き続きウォッチしたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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