StepNが見せるWeb3の可能性

AI新聞

出版社に勤める友人によると、今年後半はWeb3関連の書籍の出版ラッシュになるという。政治家の中には「Web3は日本再生のチャンス」と言う人もいるので、「Web3とは何ぞや」ということで注目が集まっているのだと思う。

Web3とは、ビットコインのベースになっているブロックチェーンと呼ばれる技術を中心とした、インターネット及び産業界のパラダイムシフトだと言われている。

凄そうな話なので、Web3に関する記事を読んだり、セミナーに参加された方も少なくないのかもしれない。それでも今ひとつピンとこない。そんな方が多いのではないだろうか。

というのは、Web3がネットのインフラに関する地味な話なので、一部技術者はともかく、われわれ一般人にとっては分かりづらい話だからだ。

われわれ一般人が理解するには具体例が必要で、具体例としては今のところ挙げられているのが、仮想通貨や、メタバース(仮想空間)、NFTアート(仮想通貨に紐づいたアート作品)など。NFT アートなどは期待値が高まって価格が高騰しているようだが、それがネット及び経済界を激変させるとは信じがたい。

つまり社会を変えるような事例を示してくれない限り、Web3が分かりづらいのは当たり前。現状でその可能性を理解できなくて当然だと思う。われわれ一般人には、Web3の可能性を示しているような具体例が必要なのだ。

そんな中、そのWeb3の可能性を示す具体例が少しずつ出始めた。

その1つが、StepNと呼ばれるアプリだ。StepNは、歩いたり走ったりすればお金が稼げるというサービスで、move to earn(動けば稼げる)と呼ばれるジャンルのサービスの先駆者的存在だ。

動けばお金がもらえる。どうしてそんなことが可能なのだろう。それはメンバーになるには仮装スニーカーを数万円相当で購入しなければならず、その購入代金が原資となり、運動した人に運動量にほぼ比例する形で分配される形になっている。

つまり運動すればお金が稼げるというシステムが機能するには、新規メンバーが止まることなく次々と入り続けなければならない。賢明な読者のみなさんならお気づきだと思うが、最初は人気殺到のアプリでも、新規加入が永遠に続くわけはない。いずれ新規加入のペースが減速し、運動した人に入会金を分配できなくなる。マルチ商法と同じ結末になることは目に見えている。

ただStepNがマルチ商法と違うのは、トークンをベースにしているところだ。仮想スニーカーはしばらく使っているとゴム底がすり減るので買い替えなければならないし、マラソン大会に参加するにもトークンを購入しなければならない。そうしたトークンが原資となって、人よりも多く運動した人に、多く支給される。

またStepNのトークンは仮想通貨市場でだれでも売買できるようになっている。StepNの仕組みが有望で今後も利用者が増えると予想する投資家がStepNのトークンを購入しており、サービス開始から半年弱にも関わらず、時価総額は5月22日現在で8億6000万ドルにも達している。ものすごく期待されていることが分かる。

なぜ成長が期待されているかというと、運動するだけでお金が稼げるので多くのユーザーが次々と加入しているからだ。

わたしの友人は4月ごろに、一日10分間ほど走っただけで7000円ほど稼げたと言っていた。米TechCrunchの記事によると、条件が揃えば最高で1日数十万円を稼げるそうだ。

こうした話が口コミで伝わり、私の友人の間でも5月になってからStepNを始める人が増えている。

また別の友人によると、最初は小遣い稼ぎのつもりでやっていても、運動することが習慣になり、StepNのコミュニティ内での情報交換やイベントが楽しくなり、たとえトークン価格が下がっても運動を継続する人が多いのだという。

つまりお金というインセンティブを使って、ユーザーの行動変容を促進しているわけだ。

StepNを運営するFind Satoshi Labによると、健康的な生活を習慣化するという行動変容こそがこのアプリの目的で、今後は脱炭素に向けた行動変容にまでつなげていきたいとしている。

この行動変容がWeb3の可能性の1つで、move to earn(動けば稼げる)の次はlearn to earn(学べば稼げる)が流行ると言われている。お金というインセンティブで習慣化させて、学習を楽しめるところまでの行動変容を促進しようというものだ。

またこの行動変容の仕組みをいろいろ社会課題解決に使えるのではないか、という議論も始まっており、トークンを活用した行動変容の取り組みがX to earnもしくはX2Eと呼ばれるようになっている。

例えば次のようなX2Eが次々と生まれてきている。

Learn to Earn  例 RabbitHole

Create to Earn 例 SandboxDeRace

Sing to Earn  例 SeoulStars

Drive to Earn. 例 Laqirace

Sleep to Earn  例 SLEPN

Meditate to Earn  例 BudaCoin

 

とはいうものの直近の仮想通貨市場の暴落を受けてStepNのトークンの価格も今は低迷している。しかしユーザーの行動変容が起こっていれば、トークン価格が低迷していてもユーザーの活動量は減らないはず。

X2Eのビジネスモデルが有効なのかどうか。X2EがWeb3のモーブメントをけん引していくのかどうか。StepNの今後を見守っていきたいと思う。

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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