クリエイティビティ、思いやりは生成AIでも持てる?

AI新聞


ここ何年も、クリエイティビティ、思いやり、志は、人間特有のものだと言われてきたし、僕自身もそう思ってきた。文章でも講演でも、そう主張してきた。

AIはパターン認識マシン。人間の作った文章や音楽、アートのパターンを認識して、同じようなものを真似して作るだけ。真似を超えたクリエイティビティは無理だと思っていた。


しかしそれは生成AIが登場するまでの話だった。普段何気なく生成AIという言葉を使っているが、このAIは本当に「生成」できる。文章のパターンを認識し、次に来そうな単語を予測して文章を作り出すことができるAIだ。これまでのAIはパターンを認識するだけ。次を予測し、新しいものを作り出すことはできなかった。それができるようになったのだから、すごい話だ。いままでに存在しなかった新たなAIの知性と言っていいだろう。


よく考えると、これってクリエイティビティそのものだと思う。アーティストは、既に存在するアートを鑑賞し、これまでにない次の時代のアートを作り出す。つまりパターンを認識して、その次を生成しているわけだ。これって生成AIがやっていることそのものなのではないだろうか。


一方、思いやりはどうだろう。最近の生成AIは質問に答えるだけでなく、思いやりのある言葉をかけてくれるケースが多い。特に有力AIベンチャーinflection.aiのパーソナルAI「Pi(パイ)」は、IQ(知能指数)を高めることよりEQ(感情知能指数)を高めることを目指して開発が続けられているという。感情知能は、相手の感情を認識、理解し、応答する能力のことだ。


でもAIは感情を持たないはず。思いやりを持っているような言葉を表面的に使っているだけで、本当に思いやりを持っているわけではないはず。表面だけのやさしさを持つ人に関しては「あの人は表面的にやさしく振る舞っているだけ。本当の愛はない」という批判を耳にすることがある。いわばAIも同じことをしているわけだ。

しかし表面的にやさしいだけの人は何が問題なのだろう。
多分、表面的にやさしいだけの人は、何か大変なことが起こったときに、表面を取り繕うことができなくなり、人に対して批判的になったり、やさしさのない行動に出る可能性があるからだろう。裏切られる可能性がある、ということが表面だけがやさしい人の問題であるわけだ。


でもAIはどうだろう。AIは、何があっても取り乱すことなく、思いやりのある発言を続けることができる。裏切られる可能性がない。一貫して思いやりのある発言を続けることだろう。


これって本当に思いやりがあることと、同じことではないだろうか。

本当は、AIのクリエイティビティや思いやりは、人間のクリエイティビティや思いやりとは、どこか異なるのかもしれない。しかし違っていたとしても、それを鑑賞する側、受け取る側の人間が違いに気づかずに満足するのであれば、それは一種のクリエイティビティ、思いやりと認めてもいいのかもしれない。

 

 

 

YouTubeインタビューから

 

◎AIによる人類絶滅のリスクと、それ以外のリスク
英語圏のAI研究者や起業家のインタビューを見ていると、最近はもっぱらAIのリスクについて熱心に議論されているようだ。


「日本人は、八百万の神的な伝統的な考え方やAIを友達と考え方が普及しているので、リスクについての議論があまりない」という人がいるけど、AIには2種類のリスクがあり、それぞれを別に議論する必要があると思う。


2種類のリスクに関する議論とは、AIが人類を敵に回し人類が絶滅するかもしれないリスクの議論と、それ以外のリスクの議論がある。


絶滅するリスクとは英語でexistential risk(実在的リスク)と呼ばれる。これは確かに文化の違いがあるようで、AIが人類を襲うと考える日本人は多くなさそうだ。


もう1つのそれ以外のリスク、例えば、悪人が生成AIを使って生物兵器の作り方を学んで生物兵器をばら撒く、などといったリスクは確実にある。こうしたリスクを考えてなんらかの手を打つ必要があると思う。


最近の英語圏の議論は、後者のリスクに関する議論なので、これは日本国内でも議論すべきだと思う。

 

 

◎生成AIの知られざる強みはコピー可能なこと

画像生成AIのStable Diffusionは、わずか2ギガバイトの大きさしかない。GPT-4でも、その大きさは100ギガバイトから200ギガバイトと推定されている。十分にコピーできるファイル容量だ。


一方でGoogleやMetaのAIサービスと同じものを作ろうとすると、巨大なデータセンターが幾つも必要になる。ところが生成AIは、ボタン一つでコピーが作れる。「これが生成AIのすごさの1つで、まだ多くの人がそのすごさに気づいていない点の1つだ」と有力AIベンチャーStable.aiのEmad Mostaque氏は言う。


生成AIは、たまにウソをつくこと(ハルシネーション)が問題だとされるが、「生成AIを100個作り、互いの作業をダブルチェックするようにすれば、ハルシネーションの問題は解決する」と同氏は指摘する。


ファクトチェックだけではない。機能の向上も期待できる。MetaのCeceroというAIは、生成AIを7つ連結し作業を手分けさせることで、ディプロマシーと呼ばれる戦略ゲームで、世界チャンピオンに勝つことができた。「三人集まれば文殊の知恵」ということだ。


「あと2、3年以内に、生成AIを複数繋げたAIツールがいろいろと登場してくることになると思う。1000体の家庭教師AIが一人の生徒に勉強を教える、というようなサービスが出てくるかも」とMostaque氏は語っている。(ソース YouTube 英語)

 

◎AGIはいつ完成するのか。数値化の難しさと現在のAIに欠如していること


DeepMindの3人の共同創業者のうちの一人Shane Legg氏の意見。

(1)汎用人工知能(AGI)がいつ完成するのかを科学的に予測するのは難しい。なぜなら人間のあらゆる認知タスクをすべて把握し、すべての人間のすべての認知タスクを測定することが困難だから。


まずは人間の認知タスクにどんなものがあるのかを把握し、それらを測定するテストを作り、すべての人がそれらのテストでどの程度の数値を出すのかを測定しなければならない。その上で、AIにもそれらのテストを受けさせて、すべてのテストで人間を超えるか、トップレベルの人間と同等の数字を出せれば、そこで初めてAGIが完成したと言える。果たして、人間のすべての認知タスクを把握し、それを計測するテストを作ることができるだろうか。

(2)最近のAIの進化には目を見張るものがあるが、それでも人間の脳と比べてまだまだ足らない能力がある。例えば動画のリアルタイム解析。人間は、動画を見ながらリアルタイムで動画の中で何が行われているのかを把握することができるが、AIは最近マルチモーダルになってテキストに加えて音声、動画を解析できるようになったばかり。まだまだ発展が必要。


また人間にはエピソード記憶と呼ばれる、短期記憶と長期記憶の中間のような記憶能力がある。エピソード記憶は、脳内では主に海馬と海馬傍回で処理される記憶で、過去の出来事をエピソードとして記憶。記憶されたエピソードをもとに人間は、人生の歩み方を学び、将来の行動を判断する。またエピソード記憶があることで人間は、少ないサンプル数でも効率的に学習することができる。


今日のAIモデルには、エピソード記憶を担う仕組みがない。エピソード記憶の欠如を、コンテキストウィンドウを大きくすることでカバーしようとしているが、エピソード記憶ほど効率的に学習できないでいる。(ソース YouTube 英語)

 

◎DeepFakeより怖いのはAIによる説得行為


生成AIによるウソの写真、いわゆるDeepFakeが問題視されているが、Sam Altman氏は DeepFakeよりもAIによる説得行為のほうが問題になる可能性があると指摘している。


「Deep Faceより怖いのは、AIによる一人一人に対する説得行為だ。明らかに分かるような形で説得してくるのではなく、知らない間に納得させられてしまっているような働きがけが可能。それが大きな問題になるのではないかと思う」(ソース YouTube  33:58 英語) 。

 

◎チャット型AIによるコンテンツビジネス再構築の可能性


ワールド・ワイド・ウェブは、ページ同士がリンクで繋がるという基本コンセプトで始まった。「情報が集まった紙」というビジネスモデルだった新聞業界は、リンクという仕組みのおかげでYahoo!が「情報が集まった場所」になり、自分たちはそこに情報を提供する立場に成り下がったことに愕然とした。なのでながらく「記事への直リンク禁止」というルールで、これに反発していたものの、ウェブの基本コンセプトにいつまでも逆らうことはできなかった。とはいうものの収益がどんどん悪化、最近アメリカでは、有料のサブスクモデルに切り替える新聞社が増えてきている。それでも業績が改善するわけはなく、前途が危ぶまれている。


そんな中、OpenAIのSam Altman氏は、チャット型AIが新たなメディアとして普及していく中で、 Webの黎明期に作られたコンテンツ業界のビジネスモデルが再考される可能性があるという。Altman氏によると、チャット型AIの価値は、何でも知っていることにあるのではなく、ユーザーの意図を推測する能力にあるという。「この推測する能力は今後ますます強力になり、(特定の分野でユーザーの意図の推測が得意な)モデルがいろいろと出てくるだろう。そのモデルごとに経済的な枠組みを決めることになるだろう」と語っている(14:22)。


仕事で情報収集するリサーチャーやビジネスパーソンは、チャット型AIが自分たちの意図を正しく理解して、質のいい情報だけを的確に教えてくれることを望むだろう。それができるのならそれ相当の料金を支払うはず。事実、ChatGPT Plusを始めとするAIツールの月額使用料は20ドル前後と、AIが搭載されていない平均的なモバイルアプリの10倍ほどの金額になっている。この機会に、新聞社のようなコンテンツ提供者にとっても納得のいくビジネスモデルが登場してくる可能性がありそうだ。(ソース YouTube 英語)

 

今週のその他のニュース

◎Forbesが生成AI検索サービス開始


米Forbesが、生成AIを使った同雑誌記事の検索サービスを始めたらしい。生成AIなのでキーワード検索ではなく、自然な対話形式で過去記事を検索できたり、記事の内容について質問できたりするそうだ。大手報道機関では初らしい。

これからすべてのウェブサイトがチャット型インターフェースになっていくのだろうと思う。(ソース Forbes 英語)

 


◎AIも「体系的な一般化」が可能に 言葉を理解?
人間は「猫が犬を追いかけた」という文の意味が理解できれば、反対の「犬が猫を追いかけた」という文の意味もすぐに理解できる。ところがAIは「猫が犬を追いかけた」という文章を大量のデータを使って学習したあとも、「犬が猫を追いかけた」を学習するためには大量の学習データを必要とする。人間が言葉の意味を理解すると、それをすぐに応用できるのに対し、AIはほかのことにはすぐに応用できないからだ。「AIは統計的に次の言葉を予測しているだけで、本当に言葉の意味を理解していない」と言われるのは、こうした応用ができないからだ。


人間のこうした能力は「体系的な一般化(Systematic generalization)」と呼ばれるが、このほど学術誌Natureに発表された論文によると、AIも体系的一般化能力を獲得したという。


体系的一般化ができるようになったことで、AIの言語能力はさらに向上することになりそう。Nature誌は「ブレークスルー」だとして絶賛している。(ソース Nature 英語)

 


◎クラウド競争でMicrosoft好調
Googleのクラウド部門の成長率が過去3年間で最低に。
一方でライバルMicrosoftのクラウド部門は好調らしい。MicrosoftのAIツールcopilotは米大手500社の約4割が採用しているし、月額30ドルのAI新サービスのローンチを来月に控えているので、さらに売上増を見込めそう。


Googleは出遅れ感が否めない。ただ次期AIモデルGeminiがまもなく発表される見通し。Geminiは言語モデルと計画エンジンを合体させた新モデルで、これまでのAIモデルよりも対話機能が優れていると言われている。Googleは果たして挽回できるか。(ソース ロイター 英語)

 


◎X(旧Twitter)はYouTube, LinkedIn, 発表文サイトを目指す
イーロン・マスクによるtwitterの買収から1年を記念して、イーロン・マスクが社内向けに今後の戦略を明らかにしたもよう。
それによると、Xは今後、YouTube、LinkedIn、発表文サイトPR Newswireのようなサービスを目指していくらしい。YouTube、発表文サイトはなんとなく想像できるけど、LinkedInってちょっと以外だった。
でも日本ではXって2ちゃんねるのような匿名サイトのイメージが強いけど、一方で英語圏でも研究者などが実名で利用しているので、確かに転職サービスにもなりえるかも、って思った。

 

 

新しいAIツール

◎法務アシスタントAI
英語の法的な文書を執筆したり、完成した文書を瞬時にチェックしてくれる。


こういうのが出てくるだろうなって思ってた。機能も予想通り。(ソース YouTube 英語)

◎自動切り抜きツール
YouTubeには長い動画のエッセンスだけを切り抜いたショート動画がたくさんあるけど、この切り抜きを専門にするだけで収益を上げている人がいるみたい。そうした人のためのツール。アップロード先の主要SNSに合った内容の箇所を自動的に切り抜いて、ショート動画を作ってくれるみたい。(ソース 製品のサイト 英語)

 

◎チャットボットのクリエーターで稼げる仕組み登場
YouTubeって広告収入やサブスク収入の一部をクリエーターに支払うエコシステムになっているけど、チャットボットの領域でも同じような仕組みが登場した。


Poeというチャットボットを簡単に作れるプラットフォームがあるんだけど、人気のチャットボットのクリエーターにサブスク収益の一部を分配する計画を発表した。


今後PoeがYouTube並みの大きなサービスになれば、クリエーターに入るお金もそれなりに大きくなるだろうけど、Poeがどれだけ人気になるのか現時点では不透明。ただ6月のAIツールアクセスランキングではPoeは5位にランクインするほどの人気サービス。


でも5位のPoeよりも2位のcharacter.aiが収益分配の仕組みを作ったほうがいいように思う。いや、多分すぐにでも同様の仕組みを作ってくるんじゃないだろうか。だってcharacter.aiってアクセス数がChatGPTに迫る勢いで伸びているらしいし、1回のセッション時間が平均30分らしい。YouTubeで平均視聴時間が20分と言われてるので、若い世代にとってチャットボットとの対話がYouTube以上の娯楽になっているもよう。(ソース Quora Blog 英語)

 

◎しゃべるアバター作成アプリ
スマホの中の写真を選んで、話させたいセリフを入力するだけ。写真の中の人物の口が動き出し、そのセリフをしゃべってるように見える。人物の写真はもちろん、銅像などにもしゃべらせることができる。120言語でしゃべらせることができるし、「叫ぶ」「ささやく」などトーンを選ぶこともできるらしい。
 
実際に試したら、うまくいかなかった。まだバグが多いのかな。しばらく放置してから、また試してみよう。(ソース 製品HP 英語)
 
 
 

おまけ

◎生成AIのビジネスモデル生成AIで新しい事業を作る上で、まず大事なのは生成AIで今何ができるのか、ということ。そして世界中にどんな製品、サービスが既にあるのかを調べることも大事。また、今の生成AIにはできないけれど、多くのユーザーに求められている機能や、今後登場が見込まれる機能、まだ多くの人が気づいていないような機能などを、スライドにまとめました。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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