「生成AIは幻滅期」米ガートナーが宣言

AI新聞


今の生成AIのブームはバブルで、これからハイプサイクルでいうところの幻滅期に入るのか。それともシンギュラリティという概念が提唱するように、このまま加速度を増して社会を激変させるのか。このテーマは過去にも何度か取り上げたことがあるが、そのときの結論は「今の段階では分からない」というものだった。そんな中、ハイプサイクルの概念を提唱した米調査会社ガートナーが今年のハイプサイクルレポートを発表してきた。それによると生成AIは幻滅期に入ったという。一方でAI研究者の間で数年以内にシンギュラリティに入るという論調も増えてきた。いったいどっちなんだろうか。


ガートナーによると、「生成AIは、過大な期待のピークを過ぎ、ビジネスの焦点が基盤モデルへの興奮から費用対効果を重視するユースケースへと移行している」という。大規模言語モデル(LLM)への期待の盛り上がりがひと段落し、生成AIをビジネスにどう活用できるのかという検討が始まった、ということだ。


確かに最近は、LLMの話題よりもSLM(小規模言語モデル)やプログラミング支援ツールなど自律エージェントと呼ばれるAIモデルの話題の方が多くなっている気がする。生成AIが幻滅期に入ったのかどうかは分からないが、少なくともLLMに対する一般ビジネスパーソンの関心は少し薄れてきたのかもしれない。


しかし一方で、研究者やエンジニアの間では生成AIはまだまだ話題だ。AI関連技術の進化は、衰えるどころか、ますます勢いを増しているからだ。


今年6月に発表されたSituation Awarenessというレポートによると、2019年のAIは、未就学児並みの知能レベルだった。2020年には小学生、2023年には優秀な高校生になった。この傾向が続くと2024年は大学生、2025年か2026年には大学院生になり、2027年ごろには最も優秀な人間レベル、つまり汎用人工知能(AGI)に到達するのだという。この考え方はこのレポートを書いたLeopold Aschenbrenner氏個人の見解というより、今ではAI業界の主流意見と言っていいだろう。


そして興味深いのはAGIが誕生するころには、AIが自分で自分を改良できるようになり、AIが勝手に急速な進化を始め、科学技術が急速に進化し、経済が爆発的に成長するようになるという。つまり2027年ごろにはAIは幻滅期に入るどころか、シンギュラリティに入るというわけだ。
一方同氏によると、AIの進化の推進力となっているのは、計算資源の増加、計算式の効率化、追加機能の開発の3つの要素。計算資源の増加とは半導体の質と数のことで、計算式や追加機能を向上させるには優秀な研究者を集める必要がある。


計算資源の増加に関しては、イーロン・マスク氏がテキサス州に大規模なデータセンターを構築中で、世界最大の半導体クラスター(集積)になるとしている。Facebookの親会社のMetaは35万台の高性能半導体H100を購入したし、Amazonは原子力発電所の隣に1ギガワットのデータセンター用の土地を購入した。MicrosoftとOpenAIは1000億ドルをかけてデータセンターを建設する計画があると報道されている。


また大手AIプレーヤーは優秀な研究者の雇用を急いでおり、MicrosoftはInflection.aiのCEOを始めとするほとんどの幹部を、Googleはcharacter.aiのほとんどの研究者をヘッドハントしている。ヘッドハントにどの程度の資金が投入されたのかは不明だが、inflection.aiもcharacter.aiも非常に勢いのあるAIベンチャーだったので、相当の資金をかけて人材を獲得したのだと思う。


半導体も人材も十分に集まった。この体制なら、今後数年はAIが進化し続けるだろう。Aschenbrenner氏は、「この傾向が続かない、進化が鈍化すると主張するのなら、その根拠を示してほしい」と語っている。2027年末までにAGIが誕生することに相当の自信を持っているようだ。
一方で同氏は、AGIが誕生しなくてもAIが自分で自分を改良することは今の技術でも可能だとも指摘している。同氏によると、AI研究者の仕事は比較的単純で、機械学習の文献を読んで、新しい問いやアイデアを考え出し、それらのアイデアをテストするための実験を実施し、結果を解釈する、というもの。これらの作業はすべて2027年末までにAIが進化することで自動化が可能になるようなレベルの作業だとしている。


このレポートが発表されたのが今年6月。そのわずか2ヶ月後にsakana.aiというベンチャー企業がこの自動化の仕組みAI scientistを発表。業界を激震させた。


この仕組みを簡単に説明すると、
アイデアの生成: 与えられたコードとタスクの説明に基づいて、新しい研究アイデアを生成する。こうしたアイデアを生成するのは、生成AIが得意とするところだ。
新規性チェック: 次にそのアイデアに新規性があるかをAIの検索機能を使って調査する。
実験の実行: 他に同様の論文が見当たらない場合は、そのアイデアを使った実験計画を立てて、その計画通りにコードを書いて、結果を確認する。こうした実験を繰り返す。
結果の可視化と論文執筆: 図表を作り論文を生成する。
論文のレビューと改善: AIが書いた論文をAIが読み返して改善点を提案し、それを基にAIが論文を書き直す。

そして実際にこうした自動化で既に論文が何本か執筆されている。

ただ今のAIは論文の中の表やグラフを正確に読めないなどの課題はある。しかしそうした課題は確実に克服されつつある。これからAIが執筆した大量の論文が発表されることになるだろう。

AI研究の急速な進化が、ビジネスや経済の発展につながるまでにはタイムラグがある。なので一時的にLLMが幻滅期に入る可能性はある。しかしもしその後AIが指数関数的に進化し、科学技術を指数関数的に進化させるようになれば、そのときにガートナーはどのようなハイプサイクルレポートを出してくるのだろうか。ハイプサイクルという考え方が過去のものになりはしないだろうか。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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