SearchGPTってOpenAIのマーケティング施策?

AI新聞

OpenAIが開発中の実験的なAI検索機能「SearchGPT」を発表してきた。世間一般的には大きなニュースとして取り上げられているが、不可解な点がいくつかある。これまでの情報を統合すると、この発表は同社のマーケティング戦略の一環ではないかと思われる。勘ぐり過ぎだろうか。

 

SearchGPTは、ChatGPTのチャットインターフェース上で、Web検索を実行し、最新の情報を参照しながら質問に答えるという機能で、人気AIツールPerplexityのように、回答の根拠となるWebページへのリンクを表示するのが特徴らしい。

 

これがGoogleへの挑戦のように言われているが、ChatGPTは以前からブラウザ拡張機能を通じて最新の情報にアクセスし、質問に回答できるようになっている。検索結果がまだ完璧ではないかもしれないが、引き続き精度向上を目指そうというのは当然の機能強化であり、誰もが予想していたことのはず。

 

なので今回の発表で目新しい点は、Perplexityのように引用元の情報を表示する機能を追加することと、「SearchGPT」という名称にしたという2点のみ。引用元の情報を表示するという機能は、Googleも同社のチャット型AI「Gemini」で実装済みの機能で、いわば業界標準になりつつある機能。OpenAIもいずれ同様の引用情報表示機能を搭載してくるものと見られていた。つまり予想外だったのはSearchGPTという名称を採用してきた、ということだけだ。

 

名称だけで、大騒ぎしているわけだ。

 

個人的な思い出になるが、人は名称だけで大騒ぎする、ということを随分前にも目撃したことがある。当時私は新聞記者をしていたのだが、インターネットの黎明期にYahoo!のことを「電子新聞」と形容したアメリカの雑誌があった。日本の新聞業界はそれまでYahoo!のことを自分たちとは無縁の存在だと考えていたのだが、電子新聞と形容されたことで私の周りの業界人は大騒ぎし始めた。本質を理解するのではなく、うわべの表現に反応する人が多いということをそのとき知った。

 

今回も、Search(検索)という言葉を使ってきたことに多くの人が驚いているわけだ。

 

しかし、ChatGPTのようなチャット型AIがGoogle検索のようなキーワード検索の競合になることは以前から指摘されていたこと。Perplexityは早くからGoogleの対抗馬と目されていた。

 

多くの人は、そういった事実を知らないので、OpenAIがGoogleに挑戦する姿勢を見せたということにびっくりしたのかもしれない。

 

電子新聞のときのように、世論とは言葉の表現一つで割と簡単に操作されるものなのかもしれない。

 

問題はなぜOpenAIがSearchという名称をこの時期に使ってきたのかということだ。これは実験的な施策で、最終的にはSearchという言葉をやめてChatGPT本体の機能として統合するかもしれないという。そうであるのなら、何もSearchという言葉を使う必要などなかったのではないか。

 

このニュースを受けてGoogleの株価が下がったというから、OpenAIによるGoogleへの牽制とも取れなくもないが、実際にはGPT-5発表前のガス抜き的な発表ではないかと思う。

 

従来のIT業界では、インパクトのある発表がマーケティング効果が高いと考えられてきた。スティーブ・ジョブズの「One more thing」などはその典型で、リークを一切許さない完全情報統制の後、発表会の一番最後に「もう一つ発表があるんだ」と言って、サプライズ発表を持ってくる、というのがジョブズ氏の常套手段だった。このサプライズの効果は絶大で、発表会の会場は驚きと歓喜の声で沸いたものだ。この手法を真似た発表を何度か見かけたこともある。

 

しかし、Sam Altman氏は「ことAIに関しては、サプライズは逆効果だということに気づいた」と過去のインタビューで語っている。AIは急速な進化を遂げ、社会を激変させる可能性を持つ技術。ただでさえ世間を驚かせるような話なのに、サプライズの演出をすると、その衝撃が大き過ぎて、社会からの反発を招く恐れがあるというのだ。なので1年に1回大きな発表をするのではなく、新機能は少しずつ小出しにして発表していきたいと述べていた。実際にGPT-4の発表以降、GPT-4 Turbo、GPT-4o、GPT-4o miniと、1、2カ月に一度のペースで新しい名称とともに新機能を発表するようになっている。

 

今回のSearchGPTは、特に大きな新機能ではないし、技術的な進化があったわけではないが新名称で発表してきた。そして世間はその名称に愕然としたわけだ。今回の発表で、AIの進化は検索エンジンさえも飲み込む可能性があるということを社会が理解した。

 

今年の夏中に発表になると言われている次期バージョンのGPT-5の衝撃を抑えるために、ガス抜きの効果を狙ったというのが今回の発表の本質なのではなかろうか。

 

ということは、いよいよGPT-5の発表が目前に控えている、ということなのかもしれない。Searchという表現で驚いている場合ではない。もっと大きな津波が押し寄せようとしているのだ。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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