生成AI でSaaSは不要になるのか、新しいSaaSの時代が始まるのか


AI新聞

「SaaSの時代は終わった」という意見が一部で広がっている。大規模言語モデル(LLM)をファインチューニング(微調整)することで、大企業は自社の業務に特化したシステムを自社開発するようになるから、というのがその理由だ。

 

米シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタルGreylockのジェネラルパートナーSaam Motamedi氏は、こうした見解に対して、真っ向から反論する。同氏は、生成AIの進化を受けて新たなSaaSビジネスが登場したり、そうしたビジネスに投資するのに最適な時代になる、と主張している。

 

例えばSaaSの代表格であるSalesforceの最大の強みは、営業担当者に加え、セールスマネジャー、チャネルパートナーなど、関係するすべての人が同じシステムを使っているというところにある。さらにはSalesforce上に乗るサードパーティ開発のツールでさえも、Salesforceの技術仕様に合わせて開発されている。業界に不可欠のプラットフォームを提供しているわけで、これに勝る仕組みを作り出すのは簡単ではない。

 

一方で問題点もある。「Salesforceは使いづらい」という意見を耳にした人も多いと思う。入社したらまずSalesforceの講習の受講を義務付けられている会社もある」と同氏は指摘する。講習が必要ということは、UI(ユーザーインターフェース、人間と機械の間の情報伝達の方法)が直感的でないので、使い方を学ばなければならないということだ。

 

ところが生成AIでUIが劇的に変わる可能性がある、と同氏は言う。「インターフェースそのものが不要になるかもしれない」とまで言い切る。「(これからは)セールス担当のAIエージェントが横について仕事を支援してくれるようになるだろう。AIエージェントが、セールスに関連するツールやシステムを操作してくれるようになる」。使い方の講習を受ける必要がなくなるわけだ。AIがSalesforceを操作してくれるようになれば「10年後にはセールス担当者はSalesforceのUIがどんなものかさえ知らなくなる可能性がある」と語っている。

 

しかしAIエージェントにだって分からないことがあるはず。「そういう場合は、AIエージェントは人間に質問してくると思う。ただそのやり取りも単純なテキストではなく、AIが生成したUIになるだろう」と同氏は言う。AIが生成したUIとは、例えば、ダッシュボード、入力フォーム、グラフなど、視覚的なデータや操作可能なツールのことを指しているのだろう。まったく別の情報伝達の方法が誕生するかもしれない。

 

さらに同氏はインターフェースだけではなく、データモデルも変化すると言う。Salesforceはセールスに関連するデータをすべて持つ巨大データシステム。なのでSalesforceは最強なわけだが、しかしそのデータを入力するのは人間。入力間違いも起こるだろうし、状況判断は主観的で属人的になりがちだ。

 

ところがこれからはAIエージェントがメールのやり取りやZoom会話の記録を直接取得し、それらのデータを解析して、見込み顧客と現在進行中の交渉がどの段階まで進展していて、成功確率がどの程度なのかを客観的に判断してくれるようになる。

 

またデリバリーモデルも変化するという。デリバリーモデルとは、そのツールやサービスの提供の仕方という意味だが、デリバリーモデルの中でも、特にプライシング(価格設定のあり方)が変わるとMotamedi氏は主張する。同氏によると、今はユーザーごとに料金を請求するシートベース(ユーザーベース)の課金モデルが一般的だが、今後は基本料金(シート)と使用量に応じた料金(ワーク)の組み合わせであるシートプラスワークモデルや、実際に何回サービスにアクセスしたかというAPIコール数や、処理データ量のみに基づく従量課金のワークオンリーモデルも増えてくるだろうという。

 

生成AIは日々進化している。AIの利用コストが半年間で半減するということが当たり前のように起こっている。コストの低下を受けて、より柔軟なプライシングに変更すれば、新規顧客にとっては魅力的なプライシングになるだろう。一方で既存顧客も彼らにとって有利なプライシングに移行するはず。そうなると既存顧客からの売り上げが低下する可能性がある。

 

そうした過去のしがらみやバッティングの可能性を気にすることなくプライシングを決めることができるという点を取っても、今の時代は新規参入組のほうが既存SaaSプレーヤーよりも圧倒的に有利だということだ。

 

インターフェース、データモデル、デリバリーモデル。この3つが今、大きく変わろうとしている。

 

この3つが変化しない時代であれば、既存プレーヤーが圧倒的に有利だが、この3つが変化しようとしている今、新規参入組にも大きなチャンスがあるはず。それが同氏の主張の根拠だ。

 

生成AI技術は驚くような速度で進化を続けている。一般企業が業界の最先端のインターフェース、データ活用方法にキャッチアップしながら、コスト削減も努力し続ける、ということが果たして可能だろうか。

 

技術進化が速くなればなるほど、専門のSaaS業者を活用するようになる。それがMotamedi氏の主張だ。

 

https://youtu.be/Z_dFIG-gXpI?si=sTEeRskqMYbA2a-N&t=968

Saam Motamedi: Why Series B Won’t Make Money & Why $1M ARR is a BS Milestone for Series A | E1177 – YouTube

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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