最先端のAIモデルに対する巨額投資が続いている。果たして投資額に見合うリターンを得ることは可能なのだろうか。巨額投資に警鐘を鳴らすレポートが相次いで発表された。
イーロン・マスク氏はテキサス州に巨大データセンターを構築中で、そのデータセンターにはNvidiaの最新半導体H100が10万個集められるという。マスク氏はX(旧twitter)上で「他が追いつけない世界最大のクラスター(半導体の集合)になる」と語っている。
H100の価格は一個平均3万ドルと言われているので、半導体だけでも30億ドル(約5000億円)で、そこに電気代などが加わることになる。
一方でAnthropicのCEOのDario Amodei氏は、現在の最高峰のAIモデルの訓練コストは約1億ドルで、現在訓練中の次期モデルには約10億ドルのコストがかかる見通しという。また2027年ごろには、100億ドル、1000億ドルのコストがかかるようになるだろうと予測している。
それだけ投資をして、投資に見合う収益を得ることはできるのだろうか。
米著名ベンチャーキャピタル(VC)のSequoia Capitalはこのほど、投資額と収益の差が拡大しつつあると警鐘を鳴らすレポートを発表した。同レポートによると、データセンターなどのAIインフラへの巨額投資が続く一方で、AIから十分な収益を挙げているのはOpenAIぐらいだという。投資と収益の差額は、昨年末には2000億ドルだったのが、今年の年末には6000億ドルに拡大する見通しで、同レポートはAIの可能性を認めながらも、「AIバブルがピークに到達しようとしている」と警鐘を鳴らしている。
また大手証券会社のGoldman Sachsは「Generative AI – Too Much Spend, Too Little Benefit?(生成AI 投資対効果がよくない?)」と題したレポートを発表。巨額の投資が続いているのは、半導体の数を増やせば増やすほどAIが賢くなる「スケール則」が存在すると見られているからと指摘。同レポートではスケール則に懐疑的な見解を持つマサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授の「AIが今後10年間で米国経済に与える影響は限定的。AIで自動化できるタスクの数は限られている」という意見を紹介している。
AIへの巨額投資に対して警鐘を鳴らすレポートが偶然にも2つ続けて登場したわけだ。これを受け、シリコンバレーの投資家の間でAIはバブルかどうかの議論が起こっている。
著名投資家のBill Gurley氏とBrad Gerstne氏が運営するポッドキャスト「Bg2 Pod」では、Gurley氏が「AIはバブルだ」という意見。一方のGerstne氏は、AmazonがクラウドサービスのAWSに総額1000億ドルほどを投資したが、投資額を回収できるまでに8年かかったという事実を指摘。テック大手が自分たちの裁量で投資するのだから問題ない、と主張している。
またMIT教授の悲観的予測に関してGerstne氏は、「イーロン・マスクを始め優秀な経営者が現場の判断として投資を決めた。象牙の塔の上から見ている学者の意見よりも、私は現場の意見を信じたい」と語っている。
一方、人気ポッドキャスト「All-in Podcast」では著名投資家のChamath Palihapitiya氏が「これだけの投資を回収し、さらに利益を得るために、どれくらいの収益を上げる必要があるのか。それだけの収益を上げることのできる事業を作り出すことができるのか」と巨額投資に対して疑問を投げかけている。同氏の意見に対しDavid Sacks氏は「Chamathの意見は正しい。テック大手は投資対効果を考えているわけではない。これは(冷戦時代の)軍拡競争のようなもの。負けるわけにいかないから投資を続けている」との見解を語っている。
確かに軍拡競争のような一面はあるのかもしれない。イーロン・マスク氏は、「(同氏が率いる企業の)運命は、(AIの開発競争で)最先端にい続けられるかどうかで決まる」と語っている。社運を賭けた投資競争が繰り広げられているわけだ。
先頭を走っているのは、イーロン・マスク氏に加えてOpenAI、Anthropic、Google、Facebook、Microsoftといったところ。果たしてこの投資競争は、どういう形で決着することになるのだろうか。