社員18人、顧客数万社。始まったエージェントAIの時代

AI新聞

「ChatGPTの最終形はチャットではない」。OpenAIの元技術広報担当のLogan Kilpatrick氏は2024年2月24日の自身のX(旧twitter)上でそう呟いている。チャットでなければ何になるというのだろう。同じく元OpenAIのLeopold Aschenbrenner氏は「2027年までにチャットボットではなく、同僚のようなエージェントAIが実現するだろう」と語っている。エージェントAIとは、命令されると、それを実現するためにタスクをサブタスクに分解し、どの順番で取り組むのかを計画してすべて単独で実行する自律型AIのこと。

 

実はそのエージェントAIが既に存在する。エンジニアAIのDevinだ。

 

米シリコンバレーの著名投資家Brad Gerstner氏のポッドキャストによると、エンジニアAIの「Devin」を開発したCognition Labsは、従業員数が18人しかいない。それなのに、数万社の仕事を受け持っているという。なぜそんなことが可能なのかCEOのScott Wu氏に聞くと、「エンジニアAIが100体いるので」と語ったという。


Cognition Labsは2023年11月に、ハーバード大学の学生だったWu氏が設立(現在は休学中らしい)。Peter Thiel氏率いるFounders Fundなどから2100万ドル(約31億円)の資金調達に成功しているほか、5月にはMicrosoftと戦略的パートナー契約を締結。Microsoftのクラウドサービス Azure上でもDevinを利用できるようにしている。


DevinはLLM(大規模言語モデル)と強化学習の組み合わせで開発されたエージェントAIで、プログラミングの一部を受け持つだけでなく、プロジェクト全体を単独で引き受けることもできるという。例えば「東京都内のラーメン店を地図上に表示するサイトを構築して」と命令すると、Devinはネットを検索してラーメン店を見つけ出し、住所と電話番号を取得。それらの情報を表示するサイトを構築し、公開するという。こうした一連の作業をすべてこなすわけだ。

 

こうしたエージェントAIを開発するには、LLMが論理的思考、自律性、計画力などの能力が必要。ところが今のLLMには、こうした能力が乏しい。こうした能力は、ネット上の情報を大量に学習させれば勝手に身に付くわけではない。論理的に考えたり計画したりという行為は普通、頭の中で行うもので、そのプロセスを言語化してネット上で公開されているケースがほとんどないからだ。

 

そこで有力LLM「Cohere」のAidan Gonzalez氏は、思考のプロセスが言語化されている珍しいデータを探し出して、それを強調し、補完し、合成データを作るという作業に注力しているという。OpenAIのSam Altman氏も、次の同社のLLMを論理的思考面で大きく進化させると語っている。

 

OpenAIの次のLLMは今年夏中にリリースされると言われている。次のLLMを利用して、いろいろなエージェントAIが誕生するかもしれない。

 

Greatner氏は、エージェントAIを活用することで、大量の業務を少人数で受け持つスタートアップがこれから台頭してくるという。Altman氏は、一人のCEOが大量のエージェントAIを活用して、一人で大企業並みの業務を遂行できる「一人ユニコーン(時価総額10億ドルの未上場スタートアップのこと)」が誕生するだろうと予言している。


大企業はどうなるのだろう。経済はどう変化するのだろうか。どのような社会になるのだろうか。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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