目指すはASI。もはやAGI実現は当たり前?

AI新聞

ソフトバンクの孫正義氏はこのほど開催された同社の株主総会で、ASI(人工超知能)の実現が自分の人生の意味だと語った。一方OpenAIの元幹部のイリヤ・サツキバー氏は、安全なASIの開発を目指すベンチャーを立ち上げた。少し前までは、いつAGI(汎用人口知能)が実現するのかという議論が盛んだったのに、AGIが数年以内に実現するのは当たり前という認識が広がっているのかもしれない。

 

AGI、ASIの細かな定義は人によって違うものの、AGIは人間と同程度の知能、ASIは人間をはるかに超える知能というのが、AI研究者、AIビジネスパーソンの間での一般的な捉え方だと考えていいだろう。

 

AGIは人間と同程度と言っても、人間の中にはアインシュタインのような天才も存在する。そうした天才とも同レベルの人工知能ということになる。

 

一方でASIは、あらゆる人間の叡智をはるかに超えるというのが定義なのだが、孫正義氏はASIを人間の一万倍の賢さの人工知能と定義している。今回の株主総会で同氏は、AGIが数年以内、ASIが10年以内に実現すると予測した。

 

昨年秋の同社のイベント「ソフトバンクワールド」で同氏は、AGIの実現を10年以内、ASIの実現を20年前と予測していたのだが、わずか半年で予測を大幅に前倒ししとことになる。それだけ昨今のAIの進化が加速度を増しているということなのだろう。

 

OpenAIの元研究者のLeopold Aschenbrenner氏は6月に発表したレポートの中で、これまでのAIの進化の過程を人間の知能に例えてまとめている。それによるとOpenAIが2019年にリリースした言語モデルGPT-2は未就学児レベルの知能だったのに対し、2020年にリリースされたGPT-3は小学生レベル、2023年にリリースされたGPT-4は優秀な高校生レベルにまで進化したという。

 

この進化のペースが続けば今年リリース予定のGPT-5は優秀な大学生レベル、来年なら大学院生レベルになり、3年後ぐらいには世界のトップレベルの天才と同レベルにまで進化するかもしれない。つまり数年以内にAGIが実現する可能性があるわけだ。

 

ただ問題は、この進化のペースが今後も続くのかということ。

 

Aschenbrenner氏のレポートによると、AIを進化させている要因は3つ。1つは計算資源。半導体の性能が向上し台数が増え続けているということだ。2つ目は計算式の効率化、3つ目は追加機能の拡充だとしている。

 

有力AI企業はどこも、半導体やデータセンターへの巨額投資を発表しているので、計算資源が少なくとも今後数年の間伸び続けるのは間違いない。また有力AI企業への巨額投資が続いているので、AI企業は優秀な研究者やエンジニアを高額で雇用し続けている。計算式の効率化、追加機能の拡充も少なくとも今後数年は順調に進化しそうだ。

 

こうしたことから、少なくとも今後数年間は進化のペースが減速することはないと、Aschenbrenner氏は主張している。

 

レポートの中で同氏は、各種データを掲載して進化が一定の割合で継続していることを示している。ここまで進化の継続を示すデータが揃っているのに、それでも進化しないと懐疑派が主張するのであれば、懐疑派の側に「その根拠を示す説明責任がある」と主張しているほどだ。

 

また同氏はAIがAGIレベルにまで進化すれば、AI自身によるAIモデルの改良さえも可能になると指摘する。同氏によると、AI 研究者の仕事は、実は単純。機械学習の文献を読んで、新しい問いやアイデアを考え出し、それらのアイデアをテストするための実験を実施し、結果を解釈する。それの繰り返しだという。同氏は、これら一連の作業はAGIレベルのAIであれば可能になるはずだと言う。

 

つまりAIがAIを進化させることができるようになるわけで、その後AIはどんどん進化を続け、人間を遥かに超える知能になっていくわけだ。つまり超知能がそれほど遠くない未来に実現するという話だ。

 

こうした考えがAI研究者やビジネスパーソンの間で広がっているので、議論の中心がAGIからASIに移行し始めているのだと思う。

 

こうした考えは、まだ広く理解されていない。Aschenbrenner氏によると、こうした可能性を理解しているのは世界にまだ数百人程度しかいないと言う。

 

ASIの時代になれば、科学は大きく進化し、経済も急速に拡大し続けることだろう。一方で軍事利用されたり、悪用される懸念もある。

 

ASIの登場で社会はどのように変化するのだろうか。その大変化の時代がすぐそこまできているのかもしれない。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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