世界はシンギュラリティの入口に入った!?

AI新聞
コンピューター技術が指数関数的に加速度を増して進化し、2045年ごろには今の常識では想像もできないような時代に突入する、というのが未来学者レイ・カーツワイル氏が2005年に出版した本の中で予言したシンギュラリティの概念。一方で、どんな技術も一度は盛り上がるものの、その後幻滅期を迎える、というのがハイプサイクルの概念。
 
果たしてAIの進化はこの後このまま加速度を増して、人類はシンギュラリティに向かうのか。それとも今回のAIブームも、ハイプサイクルで言うところの幻滅期を迎えるのか。
 
去年から、それが僕の最大の関心事だったんだけど、最新鋭のAIモデルClaude3を発表して現段階でAI業界の最先端を走るAnthropic社のDario Amodei氏は、社会からの規制がなければ、指数関数的進化のフェーズに入っていくだろうと語る。(ソース YouTubeビデオ 英語
 
AI関連用語でスケーリング則というのがある。AIのモデルを大きくすれば、性能が比例して向上するという経験則だ。正確にはモデルの予測精度が、計算リソース、データセット規模、モデル規模という3つの変数のべき乗則に従う、というもの。過去のモデルの性能を比較すると、こうした傾向が見て取れるという経験則で、自然法則ではないので、いつまで続くか分からない。ただしばらくは続きそうだというのが業界関係者の主流意見だと思う。
 
ところがAmodel氏によると、この正比例の直線のグラフがここにきて少し上向き出したという。「既にスケーリング法則が曲がり始めたようだ。複数の社が出したAIモデルを見ても、それは明らか。だれもが気づいていることだ」と同氏は言う。シンギュラリティの概念が提唱するような指数関数的な進化のフェーズに入ったというのだ。
 
なぜ進化が速度を増してきたのか。最大の要因は、AIに対する投資額が増えているからだと同氏は指摘する。なのでシンギュラリティが提唱するように、半導体の性能が2年で2倍に進化するというシンプルな理由ではない。
 
とはいうものの、半導体が高速になっているし、AIのアルゴリズムも改良されている。そういった複合的な理由で、AIの進化が加速しているのだと言う。
 
ではこの傾向がこのまま続き、シンギュラリティの提唱者が言うような未来に向かうのか。
 
同氏は「安全性の問題や、政府の規制もあるだろうから、進化がこのまま加速し続けるかどうかは分からない」としながらも、「ただ(もしそうした減速要因がなければ)AIの進化は加速し続けていくことだろう」と指摘している。
 
シンギュラリティのフェーズに入るには、幾つかの技術的なブレークスルーが必要だという意見があるが、これに対してAmodel氏は、「多くの研究者がいろいろなブレークスルーに挑戦している。(今回の生成AI並みの)発明が再び起こる可能性がある」とする一方で、「ただそうした発明が起こらなくても、AI研究開発は既に、急勾配の軌跡に乗っている。発明が起こればさらに加速するだろうが、既にものすごい速度で進化しているので、発明があっても進化の速度にさほど違いはないかもしれない」としている。
 
ただシンギュラリティに入ったかどうかに関しては、同氏は慎重だ。「シンギュラリティの概念が提唱するような指数関数的な法則が存在するのかはどうかは懐疑的だ」としている。AI技術が単純に指数関数的に進化するのかどうかは分からないが、多くの資金が投入され、AIの進化を受けて半導体のような他の領域の技術が進化し、それらの領域の進化が回り回ってAIの進化に貢献するかもしれない。そうしたいろいろな領域の進化が合わさって、「俯瞰してみれば確かに指数関数的な進化に見えるかもしれない」と言う。シンギュラリティという表現の扱いには慎重になっているものの、社会の規制がない限りAIが指数関数的に進化を続ける、という考えのようだ。
 
シンギュラリティに突入すれば人間社会は、どのように変化するのだろう。シンギュラリティとは、もともとは物理学の用語で、「これまでの物理学の常識が通用したい時空間」というような意味。ブラックホールなども、地球上の物理法則が一切通用しないシンギュラリティの領域だ。AIが引き起こすシンギュラリティも「これまでの常識が通用しない」社会になるわけなので、まったく想像できないというのが、もともとの定義なのだが、一般的には次のような社会になると言われている。
・人間の仕事をAIが代替し、失業が拡大する
・AIとロボットが富をうみ、人間はベーシックインカムで生活する
・人間の能力を超えたAIが開発され、人類の未来に大きな影響を与える
・人間とAIの境界が曖昧になり、新たな生命体が誕生する
 
そんな時代に向かうフェーズに入ったのだろうか。これからもAIの進化から目を離せない。
 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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