生成AI、インパクトは顧客対応の領域へ

AI新聞

ChatGPTに代表されるような生成AIの価値が、社員の生産性向上にあると思っている人が多いようだが、実際には生成AIの進化と産業界への影響は始まったばかり。今年は生成AIがカスタマーサポートやコールセンター業務を激変させそうだし、ロボティックスの進化も加速させそうだ。来年から再来年には人型ロボットが発売となり、倉庫や家庭に人型ロボットが広く普及し始めるようになるかもしれない。

 

 

IT業界にとって2023年は、ChatGPT旋風が吹き荒れた一年だった。日本企業も社員向けにChatGPTを導入するところが増えたように思う。そんな中、聞こえてくるのが「社内での利用が期待していたほどに広がらない」という話だ。

 

今のところ生成AIは、プログラマーやクリエイター、デザイナーに非常に大きな影響を与えている。私自身は、リサーチが主な仕事だが、最近の生成AIの進化とリサーチ関連ツールの登場で、リサーチ業務が激変した。難解な論文もチャット型AIに質問しながら読んでいると効率よく理解できるし、インタビュー動画などの検索、理解も格段にしやすくなった。

 

ところが、業種によっては、あまり利用価値を感じないというビジネスパーソンが多いのかもしれない。今後ほとんどの業種ごとに関連するツールがいろいろ登場したり、社内文書にもアクセスできるようになれば、利用価値が大きく向上すると思うが、しばらくは利用が思ったほど広がらないのも仕方がないことだと思う。

 

社内向け生産性向上ツールとしての生成AIの現状はそんな感じだろうが、今年から生成AIが顧客対応の領域にも利用されるようになると思う。その理由は、AmazonがAIセールスアシスタント 顧客向け言語AIの開発競争の幕開けという記事に書いた通りだが、Amazonが生成AIを搭載したチャット型のセールスアシスタントを米国内でリリースしたからだ。

 

顧客対応領域で成功する事例も出始めた。

 

スイスのフィンテック大手Klarnaが、カスタマーサポート・チャットボットで1月に230万件の問い合わせ対応したと発表した

 

24時間体制、35言語対応で問い合わせを処理したという。問題解決にかかる時間は人間対応だと平均11分かかっていたのが、チャットボットでは平均2分以下に短縮できた。また同じ質問で再び連絡してくる人の数が25%削減できたという。

 

同社は2022年に700人の人員を整理したが、今後エンジニア以外は採用する考えがないとしている。また、2024年は4000万ドルの売り上げ増を見込んでいるという。

 

一方、この発表を受けて、ライバル社のTeleperformanceの株価が急落した。同社はフランスに本社を置く多国籍企業で、コールセンター業務のアウトソーシングの最大手だ。

 

スイスのKlernaがカスタマーサポート業務にチャットボットを導入して大成功しているという報道を受けた日に、Teleperformanceの株価が29%も下落。1日で約17億ドルを失ったことになる。

 

こうした事例を見ても、もはやゆっくりと様子見している余裕はない。今後ますます生成AIの利用が広がるものと思われる。

 

次回の原稿では、生成AIの進化がロボティックスの分野を大きく進化させている現状について解説したい。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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