「エネルギーがタダになる時代へ」DeepMindの新AIモデル「GNoME」

AI新聞

「ことの重大さを完全に理解できていないんだと思う」「あと2、3年でAIがひどい病気の治療薬を見つけるんだ」「エネルギーもほとんどタダになる。そうなると突然、お金の質が変わるんだ」。GoogleのAI研究のトップになった英 DeepMindの創業者Demis Hassabis氏の直近インタビューの中での発言だ。 

 

ちょっと誤解を生みそうなので少し解説すると、あと2、3年でAIが発見するのは、治療薬になる可能性を持つ化合物を発見する、ということ。それが薬として認可されて市販されるようになるまでは、通常通り、臨床試験など時間のかかるプロセスを得なければならない。エネルギーに関する新素材も同じで、新たな電池に使えるような新素材はあと2、3年で発見されるかもしれないが、その安全性を確認した上で、それを量産するための設備などを作るのにやはり10年くらいの時間が必要になるかもしれない。あくまでも新素材は、まもなく発見されるだろう、という話だ。

 

Hassabis氏がそう語る根拠になっているのが、Google DeepMindが昨年11月末に発表したGNoMEと呼ばれる新しいAIツール。新素材の安定性を予測できるツールで、従来の科学的手法では発見が困難であった220万種類もの新しい結晶構造を発見したことで、材料科学分野に大きな衝撃を与えている。

 

具体的には、グラフ・ニューラル・ネットワークと呼ばれるAI技術を活用することで、膨大な化学空間を高速かつ効率的に探索し数百万もの候補を生成。さらに生成した候補構造の安定性を量子化学計算によって検証し、理論的に安定している構造のみを抽出するという。

 

DeepMindは、発見した220万種類の結晶構造のうち、より安定性の高い38万種類の結晶構造を学会のデータベースに提供した。このデータベースには過去10年間で人類が通常の実験方法で発見した結晶構造2万種類と、これまでに他の計算手法で発見された2万8000種類が含まれている。GNoMEのおかげで、素材候補が一気に広がった形だ。

出典:Millions of new materials discovered with deep learning

 

38万種類のうち、超伝導の可能性のある新素材が5万2000種類、リチウムイオン導体になる可能性のある新素材が528種類あるという。これを絞り込んでいけば、より効率的な太陽電池やバッテリーの開発が期待されるほか、高速処理が可能な次世代半導体材料や、新しい医薬品や医療材料、環境問題解決に貢献する触媒や材料、などの開発が期待されている。

 

エネルギーが無料もしくは限りなく低コストになる時代が2、3年後にくるわけではないが、10年スパンでみれば、十分にその可能性はある。エネルギーが無料になれば、どんな世の中になるのだろうか。私自身、ことの重大さを十分に理解できていないように思う。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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