2024年、AI業界4つの注目ポイント

AI新聞

【編注】イラストはChatGPTで生成

 

仕事でAI業界の動向を追っていて思うのは、もはや未来予測は不可能だということ。技術革新とその結果の時代変化はあまりに速く、これまでのトレンドの延長線上に未来があるようには思えなくなってきたからだ。

 

そこで今回は、2024年のAI業界がどんな年になるのかという予測ではなく、個人的に産業界に大きな影響を与えそうなAI業界の重要ポイントを4つ挙げたいと思う。

 

まずは2024年AI業界2大トレンドは、チャットボットと基盤モデルの進化という記事に書いたように、私自身チャットボットの領域がどう広がっていくのかとても興味がある。

 

2023年、ChatGPT以外で大きく躍進したAIツールと言えばcharacter.ai。だれでも簡単にチャットボットを作れるプラットホームで、英語圏の若者が熱狂しているサービスだ。インスタグラムが同様の機能を今年は搭載してくる予定なので、それが日本の若者にどれくらい受け入れられるのかに注目したい。character.aiは滞在時間でYouTubeを超えるほどの娯楽になっているので、同じような熱狂がインスタグラム上でも起こるのかどうか。

 

またOpenAIのチャットボットのアプリストア「GPT Store」も1月9日オープンなので、それがどの程度の事業になるのかも気になるところ。ビジネス向けのチャットボットはOpenAI、エンタメ系チャットボットはインスタグラムという2強体制になるのか。日本企業はどの程度、このチャットボットの波に乗ってくるのか。今年1年、注目したいと思う。

 

2つ目の注目ポイントは、OpenAIの次期モデル。分かっているのはコード名が「Q*(キュースター)」ということと、OpenAIのCEO、Sam Altman氏が「来年、AIは誰も予想しなかったレベルにまで大きくジャンプして進化する」と語ったということだけで、どのようなAIモデルになるのかはまだ正式に発表されていない。(関連記事 OpenAIが開発中の次世代AI「Q*(キュースター)」とは

 

AI研究者の間では、言語モデルに計画エンジンが搭載されたモデルになるのではないか、という憶測が飛んでいる。言語モデルに計画エンジンが搭載されると、ユーザーとの対話をどのように進めていけばユーザーを説得できるのかという観点で、チャットボットが計画を立てて対話を進めてくるようになる。これまでの言語AIは、質問に答えるだけの質疑応答チャットボットだったのに対し、Q*(キュースター)ではセールスマンのようなチャットボットを開発できることになるかもしれないわけだ。

 

3つ目の注目ポイントは、業界勢力図がどう変わるのか。2023年はOpenAIが首位独走した感があったが、年末のCEO解雇騒動の影響でOpenAIの減速は避けられず、その間に競合他社がどの程度追いついてくるのかが興味深い。(関連記事 Altman氏が語る解雇騒動の真相とAI開発の考え方の変化

 

Googleは年末に新しいAIモデルのGeminiを発表してきたし、Inflection.aiは175B(1750億パラメーター)のAIモデルInflection-2を11月末に発表してきた。どちらも性能はOpenAIのGPT-4と同等レベルに達しているという。さらにInflection.aiは、半年後にはその10倍、その半年後にはさらにその10倍の規模のAIを発表すると宣言している。今年はOpenAIの独走から、少数社の先頭集団という状況になり、来年はさらに多くの企業が先頭集団に入るのではないかと見られている。そうなればAIモデルはどこも似たり寄ったりのコモディティ化が進み、競争優位性はデータになりそうな気がする。特に、生成AIを使って学習用データを合成しようという研究が進められているので、AIモデルを開発した企業より、データ合成技術を確立した企業の方が影響力を持つようになるかもしれない。(関連記事 AI時代の次のチャンスはデータ合成

 

4つ目の注目ポイントは、AIブームが幻滅期に入るのかどうか。個人的には、この4つ目のポイントに一番注目している。

 

米調査会社ガートナーによると、社会に影響を与えるような技術革新は、最初は熱狂的に受け入れられるが、その後幻滅期に入る。それでもゆっくりとした進化を続け、最終的には成熟期に入り、社会に広く普及するという。ハイプとは期待のピークという意味で、この世間の需要度の変化のサイクルをハイプサイクルと呼んでいる。これまでのほとんどすべての技術革新は、このハイプサイクル通りに需要度が推移してきたという。

 

一方でハイプサイクルと真逆の考え方を提唱するのが、未来学者レイ・カーツワイル氏だ。同氏によると、長期的視点で見るとAIの技術革新は指数関数的に加速度を増していく。そしていずれは、これまでの社会常識では想像できないような社会になると予測している。同氏は、全く想像できない未来社会になる時点のことをシンギュラリティと呼んでいる。

 

果たして今回のAIブームは、ハイプサイクルの幻滅期を迎えるのか。それともこのまま進化が加速度を増していき、シンギュラリティに向かうのか。個人的には、去年中にAIブームは幻滅期を迎えるのではないかと考えていた。でもその予測は外れて、AIブームの熱狂はいまだに続いている。さすがに今年は幻滅期に入るのではないかと思うのだが、ひょっとするとわれわれは既にシンギュラリティの入り口に差し掛かっているのかもしれない。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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