GPT-5は、本当にこの夏リリースされるのか?

AI新聞

 

OpenAIの次世代大型バージョンアップがこの夏リリースされると報道されている。OpenAIの幹部Romain Huet氏も「7月か、8月にリリースになる」と語っている。ただ直近のCEO、Sam Altman氏のインタビューで同氏は、どういう形でリリースするのか迷っているという主旨の発言をしている。果たしてGPT-5という名称でリリースされるのか。どのようなモデルになるのだろうか。

 

6/19付のBLEEPINGCOMPUTERの記事によると、同氏の発言は次のようなものだったという。

 

「いつになるか正確には分かりません。私たちが行ったり来たりしていることの一つは、新しいモデルで大きな数字をどれだけ上げるべきか──それとも GPT-4o でやったように、ただただより良くしていくべきか──という点です」

 

「行ったり来たりしている」というのは、迷っている、社内で議論している、という意味なのだろう。では「大きい数字をどれだけ上げるべきか」とは、どういう意味なのだろうか。

 

新しいモデルのパラメーター数や、半導体数、学習データ量を、どれだけ増やすべきか、という意味なのだろうか。それともGPT-4からGPT-5に大きく数字を上げるのではなく、GPT-4o turboや、GPT-4.1、GPT-4.2などのようなGPT-4シリーズを続けるべきか、という意味なのだろうか。

 

前者の意味だと、「スケール則」を継続すべきかどうかで議論している、ということになる。スケール則は、モデルの大きさ(パラメーター数)、計算資源(半導体数)、学習データ量を増やせば増やすほど、モデルの性能が向上する、という経験則のこと。これまでこの経験則が有効で、大手AI企業の間で、NVIDIAの半導体の買い占め競争が続いていた。

 

ところがこの経験則もそろそろ終わりだという見方が広がっている。この見方を決定づけたのがGPT-4.5の失敗だ。GPT-4.5は、同社内でOrionというコード名で開発されていたモデルで、Orionは当初GPT-5としてリリースする予定だったと言われている。

 

GPT-4.5はパラメータ数でGPT-4oより数段大きくしたモデルだが、モデルが大きくなりすぎて推論コストが4oの15〜30 倍と極端に高くなったものの性能はSWE-benchというベンチマークで21%しか向上しなかった。このため開発者の間で不評となり、2月のリリース後わず約4か月半で API 廃止が決まったロイター通信は「(モデル巨大化の)ゴールドラッシュが終わった」と報じている。

 

ただスケール則が完全に否定されたわけではない。規模はそのままでも、使っていないパラメーターを眠らせる手法や、アルゴリズムの効率化RAGやToolformerなどといった外部ツールを使うことで推論コストを上げずに性能を向上させることが可能だとも指摘されている。事実GoogleはGemini 2.5 Pro で推論コストそのままで数学系のベンチマークの首位を獲得。モデルを大きくしても推論コストを上げずに精度を向上させることが可能なことを実証した。

 

スケール則が終わったと言われるものの、多くの企業にとってスケール則の投資対効果が合わなくなっただけ。開発競争の先頭に立つために金に糸目はつけない企業は、引き続き巨大化戦略を推し進めるのかもしれない。Altman氏の「大きい数字をどれだけ上げるべきか」という発言がスケール則のことを言及しているのだとすれば、OpenAI社内で巨大化戦略の是非が議論されている、ということなのだろう。もしそうであるとすれば、7月、8月に次世代モデルをリリースするのは時間的に難しそう。リリース時期が遅れる可能性が高い。

 

それか巨大モデルを含む幾つかのモデルが既に完成していて、どのモデルを出すのか迷っている。という可能性もある。スケール則を追求したモデルとは別に、論理的思考やマルチモーダル性能に特化したモデルも開発済みである可能性は十分にある。



もしくはどのモデルを出すのかは既に決まっていて、その名称をどうするのか迷っているということもあるかもしれない。GPT-5のリリースに関しては、AI業界だけではなく、一般産業界も大きく注目している。性能面での大幅向上が期待されているわけだ。その期待に応えられなければOpenAIのブランド力が一気に低下し、今後の資金調達も困難になるかもしれない。

 

どんなモデルをいつ出すのか、今OpenAIは迷いに迷っていることだろう。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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