米データ分析企業Palantirのアレックス・カープCEOがこのほど、米VCのa16zが主催したAI関連イベントに登壇し、AI企業が最終的に国有化の議論にさらされる可能性があるとの見通しを語った。AIがホワイトカラーの仕事を奪う一方で、企業が米国の安全保障に十分協力していないと見なされれば、政治がその企業を問題視し、国家がより強く介入してくる可能性がある、という見立てだ。
Palantirはコロラド州デンバーに本拠を置く企業で、米国政府や米軍、情報機関向けのデータ分析・意思決定支援システムを手がけている。企業の生産性向上を主な価値としてAIを語ってきたシリコンバレーの主流企業とは異なり、PalantirはAIを国家安全保障や軍事の基幹システムとして捉えてきた。今回のイベントでもカープ氏は、戦争における技術優位の重要性を強調し、「この世界ではアメリカか中国かロシアのどこかが主導することになる」「決定的な発言権を持つのは軍事的優位を持つ国だ」と述べた。
この見方は、最近のAnthropicと米軍をめぐる摩擦によって、より広く理解されるようになった可能性がある。Anthropicは2026年3月、Claudeを自律兵器や国内監視に使わせない制限を維持した結果、国防総省から「supply-chain risk」と指定され、提訴に踏み切った。ここで表面化したのは、AI企業が国家安全保障にどこまで協力すべきかをめぐる、政府と企業の現実の衝突である。
一方で、米国民のAIに対する感情は厳しさを増している。背景にあるのはAI失業の顕在化だ。Blockは2026年2月、AIを軸にした再編の一環として4000人超を削減し、CEOのジャック・ドーシー氏は、AIによって小さなチームでより多くをこなせると説明した。Reutersの集計では、2025年11月以降のAI関連の人員削減は世界で6万1000人超に達している。米国では、Reuters/Ipsos調査で71%がAIによる恒久的な失業を懸念している。
その状況のなかで、AI企業が米国の安全保障に消極的だという認識が広がれば、カープ氏の指摘通り、世論や政治がAI企業への強い介入に傾く可能性はある。実際、こうしたシナリオは突飛な空想として片づけにくくなっている。AIが雇用を奪い、富を集中させ、しかも国家戦略とも切り離せないとなれば、AI企業は単なる民間企業ではなく、国家インフラに近い存在として扱われるかもしれない。
シリコンバレーのAI企業はこれまで、AIを豊かな未来を築く革新的技術として宣伝してきた。だが今、AIはその顔だけでは語れなくなっている。生産性向上のツールとしての役割よりも、軍事技術として地政学に深く関与する技術としての役割の方が、前面に出始めているのかもしれない。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。