「ユートピアか消滅か——それは最後の瞬間まで接戦のバトンリレーになるだろう。人類は宇宙での存続資格を得られるかどうかの『最終試験』に挑んでいる」
1981年、アメリカの建築家・未来学者 Buckminster Fuller氏はそう語った。
いま、この言葉が再び現実味を帯びている。
米実業家 Peter Diamandis氏と、ベーシックインカムの提唱者として知られる Andrew Yang氏は最近の対談で、「AIによる社会変化に対処するために残された時間は1〜3年程度しかない」と警告した。
AIがもたらす生産性の爆発は、最終的には人類に豊かさをもたらす可能性がある。しかしその途中には、社会が崩壊しかねない危険な移行期があるという。
Yang氏は、この移行期を乗り切るための3段階の社会モデルを提示している。
第一段階は UBI(Universal Basic Income:ベーシックインカム)。
政府がすべての国民に一定額の現金を配る制度だ。AIによる雇用破壊が急速に進む中で、社会の安定を保つ「橋渡し」の役割を担う。
第二段階は UBS(Universal Basic Services)。
医療、教育、交通などの基本サービスを公共インフラとして広く提供する仕組みで、現金給付に依存しない生活基盤を整える。
そして最終段階が UHI(Universal High Income)。
AIとロボットがほとんどの生産を担い、人類全体が豊かさを享受できる社会である。
しかし問題は、この未来にたどり着く前に社会が壊れてしまう可能性だ。
すでにその兆候は現れ始めている。
AIが最初に消し去りつつあるのは、キャリアの入り口となるエントリーレベル職だ。
米メディア「Morning Brew」の共同創業者 Austin Rief氏によれば、ある大手プライベートエクイティ企業の社内会議で最初のスライドに掲げられたのは
「もう新人は必要ない」という言葉だった。
AIが新人の分析業務を代替できるようになったためだ。
同様の動きはテック企業でも起きている。
決済企業Block社は約4,000人を解雇したが、株価は逆に24%上昇した。
「人を減らすほど企業価値が上がる」というメッセージは、他のCEOにも強いインセンティブを与える。
ソフトウェア開発の現場でも変化は急速だ。
かつての組織構造は、シニアエンジニアの下に多数のジュニアがいる「ピラミッド型」だった。
しかしAI開発ツールの進化により、現在は「柱型」に変わりつつある。
シニアが1人、ジュニアが1人程度で十分になり、若手が経験を積むための入り口そのものが消え始めている。
つまり若者は、キャリアの最初の一段目にも登れないのだ。
Yang氏は、この状況がアメリカの若者の心理にも影響していると指摘する。
近年のアメリカでは、成功した起業家や富裕層に対して「成功者は誰かを踏みつけてきた人間だ」という感情が広がりつつあるという。例えば、2024年12月4日、ニューヨーク・マンハッタンでUnitedHealthcare社のCEO、Brian Thompson氏が射殺された事件で、ソーシャルメディア(特にX/TwitterやTikTok)では、Thompson氏の死を悲しむ声よりも、保険業界の事前承認を皮肉ったジョークが氾濫。容疑者「Time誌のPerson of the Year」に推す投稿が14,000以上の「いいね」を獲得したり、UnitedHealthcareの公式追悼メッセージに対して77,000件以上の「笑い」の反応が寄せられたという。
「真面目に働いて納税していれば幸せになれる」というこれまでの「社会契約」が崩壊の兆しを見せているわけだ。
では、この危機にどう対処するのか。
Yang氏は二つの可能性を挙げる。
第一は政府が動くことだ。
ただし本人も「可能性は高くない」と率直に語る。
80歳代の政治家が急速に進化するAIを理解し、数年以内に制度改革を実現するのは難しいからだ。
より現実的なのは、富裕層やテック企業が直接社会に資金を還元する動きだという。
例えば Michael Dell氏は、米テキサス州の低所得層の子どもたちの教育資金として約6億ドルを寄付した。
投資家 Ray Dalio氏もコネチカット州で類似の取り組みを進めている。
またAI企業AnthropicのCEO Dario Amodei氏は、
「AIは今後1〜5年でホワイトカラーのエントリーレベル職の50%を自動化する可能性がある」と認めた上で、AI企業が得る巨額の富の多くを社会に還元すべきだと公言している。
では個人はどうすべきなのか。
Yang氏とDiamandis氏は、いくつかの提案を挙げている。
個人はベーシックインカムの議論をSNSなどで広げ、政治家に無視できないテーマにすること。
富裕層は政府を待たず、自分の地域で直接給付を行う「Dell方式」を試すこと。
親は「大学→就職」という一本道のキャリアモデルに固執せず、やり抜く力や社会性、手で何かを作る能力を育てること。
学生はAIに宿題をさせるのではなく、「星間宇宙船を設計する」ような大胆な創造的なプロジェクトに使うこと。
そしてCEOは短期の株価だけでなく、社会そのものが存続できるかどうかを考えるべきだという。
AIは、人類にかつてない豊かさをもたらす可能性を持つ。
しかしその未来が天国になるか、地獄になるかは、まだ決まっていない。
そしてYang氏は言う。
「残された時間は、おそらく3年ほどしかない」と。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。