生成AIが変える営業とマーケティングの未来

AI新聞

営業とマーケティングの世界は、生成AIによって大きく変革されようとしている。この変革の鍵となるのは「目的」と「ガードレール」だ。生成AIは、人間が定めた目的を達成するために、ガードレール(つまり、制約や基準)に従って最適な判断を下す力を持っている。この2つを組み合わせることで、生成AIが最も価値を生むと見られている。「目的」と「ガードレール」を定めたAIエージェントで、営業やマーケの効率化が今まで以上に加速する可能性を秘めている。

マッキンゼーの調査によると、生成AIが生む経済価値の75%は、営業・マーケティング、顧客業務、ソフトウェアエンジニアリング、研究開発の4つの分野で創出されており、特にマーケティングは4630億ドル、営業は4860億ドルの規模で価値が生まれると予測されている。(The economic potential of generative AI, Mckinsey Digital)

 

マーケティングにおいて、生成AIの価値は、コンテンツ制作、非構造化データの統合分析、SEO最適化、商品開発とパーソナライズなど多岐にわたる。例えば、AIを活用することで大量のデータを効率的に処理し、より精度の高い消費者インサイトを得ることが可能になる。また、パーソナライズされた広告やコンテンツを生成することで、ターゲットへの効果的なアプローチが実現できる。

営業分野でも、生成AIは顧客分析の精度向上を通じて成約率をアップさせたり、リード開発の改善をサポートする。AIが顧客のニーズを把握し、適切なタイミングでパーソナライズされた提案を行うことで、営業担当者の活動が大きく支援される。

生成AIをマーケティングに取り入れるプロセスは段階的に進む。まずは市販の生成AIツールを使い、少しずつ効率化を図るフェーズから始まる。例えば、ChatGPTを使ってメールの草案を作るなどのシンプルなタスクだ。次に、生成AIの基盤モデルと追加プログラムを組み合わせたカスタマイズフェーズに移行する。ここでは、AIが生成した広告コピーや画像を人間が確認し、さらにABテストや機械学習を通じて、ユーザー一人ひとりに最適なものを提供する。

最終的には、AIエージェントによる自動化が目指される。人間は「目的」と「ガードレール」を設定し、結果をモニターするだけで、AIが独自に判断し行動する世界だ。例えば、住宅リフォームの提案を行うアプリにAIを組み込み、ユーザーにパーソナライズされたプロジェクトを提案するような応用が考えられる。最終形としては、自社で開発したエージェントが競争優位をもたらすことになる。ここでのキーポイントは、早く取り組んだ者が大きなメリットを得るということだ。

営業テクノロジーの分野でも、AIが変革をもたらしている。これまでのSales Techは、人間の活動を人間がデジタル上に記録するものだったが、これからのSales TechはAIが人間の活動を支援し、あらゆるデータを記録し、さらには人間に代わって行動するようになる。例えば、Zoomでの商談中に必要な書類をAIが提示したり、セールス担当者に適切なアドバイスを提供したりする。また、見込み客に対してパーソナライズされたオファーを自動で生成するAIも登場している。アメリカでは既に営業用エージェントの時代が始まりつつあるのだ。

生成AIの導入は営業やマーケティングの働き方を根本から変え、これまでにない新しい可能性を切り拓く。「目的」と「ガードレール」を明確に設定し、AIを最大限に活用することで、企業は競争力を大きく向上させることができる。企業がこの変化にどう対応し、いかにして競争力を維持するかが、今後の大きな鍵となるだろう。

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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