自己学習力を備えたAIエージェントの可能性

AI新聞

AIエージェントにおける自動化は、API型とRPA型という二つのアプローチが存在する。この現状について、米ITサービス大手ZapierのMike Knoop氏は、現時点ではAPI型が主流であるものの、将来的にはRPA型が主流になる方向で技術革新が進んでいると述べている。しかしそのためには、AIが自己学習能力を獲得することが不可欠だという。

Zapierは異なるウェブサービスを結びつけるプラットフォームだ。例えば、Googleカレンダーに登録されたイベントをトリガーにして、Slackに自動的に通知を送るといった処理が可能である。このようなAPI型の自動化では、各サービスが提供するAPIを利用することで、プログラムがそのサービスと直接的にやり取りを行う。

APIとは、Application Programming Interfaceの略で、異なるソフトウェア間のコミュニケーションを可能にする仕組みである。具体的には、ウェブサービスの機能の一部を外部から操作するための窓口といったものである。例えば、天気情報を提供するAPIを使って、その日の気温や降水確率を自動的に取得し、他のアプリに組み込むことができる。

API型の自動化は、提供されているAPIを通じて正確なデータをやり取りできるため、信頼性が高い。しかし一方で、APIが提供する範囲が限られており、サービスの一部の機能しか操作できないという制約がある。例えば、あるサービスで利用可能なAPIがユーザーデータの取得にのみ対応している場合、そのデータの更新や削除などの操作はできない。

一方、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、まるで人間がPCを操作するかのように、マウスやキーボードを使って画面上の操作を自動化する技術だ。APIが提供されていない場合でも、人間のユーザーの手作業を模倣することで、ほとんど全てのPC操作を自動化できる。ただし柔軟な対処が難しく、スケーラビリティも限られていることから、複雑なワークフローの自動化には向いていない。例えば、「データ容量がいっぱいになりました」などといった、滅多に起こらない警告メッセージがポップアップウインドウに出た場合、RPAは対応できずに立ち往生してしまう。

Knoop氏は、将来のAIエージェントの自動化はRPA型に進化すると見ている。AIが人間と同等の論理的思考能力を持つようになれば、PC上のあらゆる表示に正確に対応できるようになり、RPAの弱点も解消されるからだ。ただこれを実現するためには、AIが新しい状況に適応するための自己学習力を身につける必要があると同氏は指摘する。

今日のAIは、膨大なデータからパターンを学習し、そのパターンに基づいて動作しているに過ぎない。言葉の概念を完全に理解しているわけではなく、新しい環境や予想外の状況には対処しづらい。しかし人間は、未知の問題に直面したときでも、過去の経験を基に解決策を考え出すことができる。これがAIに求められる「自己学習」の力だ。

この自己学習能力の萌芽として、Google DeepMindが開発した「AlphaProof」が注目されている。AlphaProofは、言語モデルである「Gemini」と、チェスなどで成果を挙げた「AlphaZero」の強化学習アルゴリズムを組み合わせたモデルだ。これにより、AlphaProofは検索機能とテスト時のファインチューニング能力を持ち、自分自身で改善し続けることができる。ただし、現時点では数学定理の証明に使用される形式言語「Lean」のみに適用されている。この技術が他の領域にも広がれば、RPA型のAIエージェントがより賢く、自律的に進化していく可能性がある。

AIは、単なるチャットボットから、より高度な自己学習型の自律エージェントへと進化しようとしている。人間のように学び、適応するAIエージェントが登場すれば、私たちの日常生活やビジネスのあり方も大きく変わることだろう。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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