o1リリース後のSam Altman氏の頭の中

AI新聞

AIに関するいろいろな情報が飛び交う中で、私がどういった情報を重視するのか、という質問をいただくことがある。その答えは「技術系CEOが技術者に語った内容」というものだ。

 

OpenAIの新モデル「OpenAI o1(リリース前は一般的にGPT-5と呼ばれていた)」がリリースされる前、メディアの「新しいAIモデルの特徴は?」という問いに、CEOのSam Altman氏は「全般的に賢くなります」とだけ答えた。その言葉は実に曖昧で、多くの推測を生んだが、真の意図を見抜くのは難しかった。だが、Microsoft創業者のBill Gatesのポッドキャストで、Altman氏は「論理的思考がよくなります」と明かした。技術に詳しい相手には、曖昧な受け答えで誤魔化せないのだ。

 

そうした意味で、o1リリース後の開発者向けイベント「OpenAI DevDay 2024」でのAltman氏の発言は、彼が今何を考えているのか知る上で非常に価値のあるものとなっている。公式の動画も文書もないが、参加者の一人がスマートフォンで撮影した動画が限定公開でYouTubeにアップされていた。その中には、今後のo1とAGI(汎用人工知能)に対する彼の考え方が詰まっていた。

 

AGI時代の到来は静かにやってくる

 

Altman氏は、AGIの到来は一つのAIモデルの登場で突然始まるのではなく、連続的な進化の結果として、気がつけばAGI時代に入っているという形になると語った。今すでに、その連続的な進化のフェーズに入っているという。

 

彼の話から浮かび上がるのは、AGIの実現が「はっきりとした瞬間」ではなく、「徐々に気づく」ものだということだ。AGIの進化を指数関数的なグラフとして捉えるべきであり、突然のマイルストーンなど存在しない、と言う。

 


数年前まではAIがいつチューリングテストに合格するのかが、AI関係者の最大の関心事だった。チューリングテストとは、人間とAIが対話している際に、そのAIが人間かどうかを判別できないかどうかを評価するテストのこと。今は多くの人がAIはチューリングテストに既に合格したと思っている。しかしそれがいつだったのかを問われても明確な答えを持っている人はいないし、ほとんどの人はそのことに対する関心さえない状態だ。同様に、「AGIの達成も後から見ればいつからか分からないが、いつの間にか到達していたというものになるだろう」とAltman氏は言う。

 

再びリサーチ重視のフェーズへ

 

Altman氏はまた、OpenAIの社風がリサーチ重視から製品作り重視に変わったのかという問いに対して「今まで以上にリサーチが重要になった」と語っている。以前はモデル規模の拡大を追い求めることが最も重要な時期があり、大量のGPUを購入するなどの取り組みをしてきた。しかし今回のo1のリリースはモデル規模の拡大の結果ではなく「大きなリサーチのブレークスルー」だと言う。規模の拡大はこれからも重要だが、AI研究は再びリサーチが重要なフェーズに入ったと指摘している。

 

リサーチのフェーズに戻ったという言葉は、今年6月にリークされたOpenAIの元研究者Leopold Aschenbrenner氏のレポート『Situation Awareness』とも一致している。そこでは「AIを進化させるのは計算資源の拡大、効率化、そして事後学習(unhobbling)の3つだが、これからは特に事後学習などのリサーチの貢献が大きくなる」と述べられている。

 

OpenAIの強みと次の方向性

 

Altman氏によると、OpenAIは基礎研究に力を入れており、どんな製品を作るのかはサイエンス(リサーチの結果)次第だと言う。その姿勢がライバル社との違いであり、同社の強みだと言う。

 


「AIが今後どんな能力を持つのかに関して我々の予測が当たることもあるが、多くの場合は予測が当たらない」と同氏は言う。「予測が外れたときはすべてを捨ててピボットするしかない。サイエンスの言う通りに動くしかない」と言う。

 


「2年前、今のo1モデルの開発計画がスタートしたときに、o1の論理的思考がここまでうまく機能するとは誰にも分からなかった」と語っている。

 


AIが今後どのような機能を持つのかは早い時点での予測は不能。なのでそれに対する安全策も、機能完成の兆しが見えてからでないと開発できないと言う。

 

 

エージェントの時代が切り開く未来

 

 

Altman氏は「エージェント」が次のAI進化であると指摘する。エージェント時代になると、AIが環境や人間との複数回のやり取りを通じて、より高度な答えを提供するようになる。このことで、優秀な人間でも数日かかるような作業を短時間でこなせるようになる。

 

o1は今後急速な進化を遂げ、エージェント開発に最適なモデルになるという。2030年ごろには、われわれは仕事にエージェントを多用するようになり、職場環境は激変するという。

 

「多くの人がエージェント時代が次に来ると語っているが、その凄さを実感できている人はまだ少ない」とAltman氏は言う。多くの人が想像しているものを遥かに超えるインパクトがあるとでも言うのだろうか。

 

今後、OpenAIはo1をどう進化させ、どのようなエージェントを可能にするのだろうか。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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