
OpenAIによってほぼ同時期にリリースされた2つの技術、Sora2とChatGPT Pulse。Sora2の方は、多くの人が動画を生成してSNSに投稿して大きな話題になっている。一方のChatGPT Pulseは能動的に情報を提供してくれる技術で、今は有料のProユーザーしか使えないこともあって、ほとんど話題になっていない。
でも社会により大きな影響を与えるのはChatGPT Pulseの方。このことに気づいている人はまだほとんどいないと思う。
この能動的ということろがミソ。これまでのChatGPTは「呼びかけに応じて答える」受動的なAIだった。Pulseはその逆で、状況を理解して先に提案する能動的AIだ。つまり、ユーザーの問いを待たずに、行動の文脈を読み取って声をかけてくる。
今は、ユーザーの嗜好を理解して朝にニュースダイジェストを表示することぐらいしかできないけれど、この技術はOpenAIが来年発売を予定しているポータブルデバイスに搭載されることになると思う。新デバイスは、常に周りの状況を把握して、タイムリーな情報を能動的に提供してくれるようになると言われているが、まさにPulseがその中心技術になるのだと思う。
例えば予定表を把握しているので、午後から歯医者のアポがあることを知っていて、ユーザーが朝、会社へ行こうとして玄関を出ようとすると「月初めだから保険証がいるよ。保険証持った?」と聞いてくれるようになると思う。
このデバイスについてはまだ詳細が明らかになっていないが、OpenAIのSam Altman氏のこれまでの「スマートグラスでもウェアラブルデバイスでもない」といった発言から、ポケットに入れたり、机の上に置けるような小型デバイスになる可能性が高い。また「タッチスクリーンとアプリというパラダイムとは異なるパラダイム」という発言から、音声で指図するデバイスになるもよう。
このほか搭載されるパーツとしては、マイク、カメラ、加速度計、GPS、環境センサー(光、温度)、スピーカーなどが有力。触るとカチカチという触感のあるハプティックダイヤルという技術も搭載される可能性があると言われている。ディスプレイはついてなくて、画面表示が必要なときには近くのスマホやPCと連動するようになると見られている。用途としては、能動的個人秘書、スマートホームコントローラー、ウエルネスモニター、通訳、相談相手などになりそうだ。
つまりこのデバイスは、秘書のような存在になり、スマホを単なるスクリーンデバイスの地位に追いやる可能性があるわけだ。
また今はまだデジタル環境の中で活躍することが多いAIを、リアル環境に持ち出す役割も果たす。リアル環境の学習データを集めるデバイスになり、AIがさらに進化することにもなる。
Sam Altman氏は、過去発売されたどのデバイスよりも短時間で1億台を売り上げるだろうと予測している。またSam Altman氏は2025年春の社内ミーティングで、社員に向けて「このプロジェクトはOpenAIの歴史の中で最大のチャンスだ」と語ったという。過去最大?ChatGPTの時よりも大きなインパクトを社会に与える可能性があるとAltman氏は考えているのかもしれない。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。