2025年9月 データセンターを制するものはAIを制す

AI新聞

急速に進化するAI。その進化に伴ってAI業界の「常識」も変化する。1年ほど前までは、スケール則がAI業界の常識だった。AIモデルを大きくすればするほど、学習に半導体を多く使えば使うほど、学習データを大きくすればするほど、AIは賢くなるという経験則がスケール則だ。AI大手は半導体の買い占めに走り、AI半導体最大手のNVIDIAの株価が高騰した。

 

ところが、近年は単純な規模拡大の費用対効果に限界が見え始めた。一方で、ユーザーからの質問に答える際に**推論(Reasoning)**の計算配分や手順を工夫することで、回答精度が大幅に向上するケースが増えている。つまり、「学習時の巨大計算」一辺倒から、「推論時の最適化やデータ品質、訓練設計」を含めた総合的な改良の段階に入ったわけだ。

 

これにより、半導体需要が減ったわけではないが、NVIDIA依存を緩和する動きが目立つ。Googleは第7世代TPU「Ironwood」を発表し、推論向けに電力効率とコストパフォーマンスを高めた大規模ポッド(最大規模の構成が案内されている)を打ち出した。AmazonはAnthropicと組み、学習(Training)用途の中核として独自開発のTrainium2を大規模展開する計画を進めている(推論ではTPUを含む他基盤の活用も続く)。OpenAIはBroadcomと半導体の共同開発で提携し、2026年から量産が始まると報道されている

 

半導体供給がAIの進化を制限する“唯一の足枷”ではなくなりつつあるわけだ。

 

一方で重要になるのが電力だと、Googleの元CEOのEric Schmidt氏は言う。AI革命を最大限開花させるためには米国だけでも92ギガワットが必要という試算がある(2025年7月の発言とされる)。ちなみに原子力発電所1基で発電できる電力は1ギガワット程度。同氏は「核融合技術と核分裂技術もAIの需要の急速な高まりに間に合わない。300メガ級の小型発電機にも期待が集まっているが、完成するのは2030年以降になりそう」と語っている。

 

もちろん既存の電力網からの給電だけに頼るのは難しい。そこでAIデータセンターの敷地内(オンサイト)に発電設備を設ける取り組みが進む。

 

イーロン・マスク氏が5月にテネシー州に立ち上げたAIデータセンターColossus 1では、敷地内で多数のガスタービン使用が外部資料で指摘され、許認可を巡る議論も生じている。また、「数週間以内に初期稼働」するとの発言があるColossus 2は、再利用水システムと浄化施設による冷却の仕組みを備え、1ギガワット級の電力で稼働する巨大AIデータセンターになる見込みだ(正式な確定日程は未公表)。

 

特筆すべきは同氏のデータセンター建設のスピードだ。NVIDIAのJensen Huang氏は、イーロン・マスク氏の仕事を「超人的(superhuman)」と評し、122日で施設を準備し、19日で学習を開始した前例のないスピードを称賛している。

 

半導体調査サイトSemiAnalysisによれば、AmazonのクラウドサービスAWSも驚異的なスピードでAIデータセンターの建設を前倒ししている。最終建設段階に入った複数キャンパス合計で1.3ギガワット超学習向けIT電力が確保されつつあるとの分析で、今秋以降に順次の立ち上がりが見込まれる。

 

一方、OpenAIはOracleと組んでAIデータセンターを建設するStargateプロジェクトを進めており、4.5ギガワットの追加拡張を公式発表した。テキサス州アビリーンの第一号施設は段階的に建設中で、公式の稼働開始時期は未公表(報道では2026年見込みとされる)。これらを合わせ、計画中の容量は累計で5ギガワット超と見込まれる。なお、資金・事業面ではソフトバンク等が関与している。

 

AI大手はどこも巨大AIデータセンターの建設に躍起になっているが、調達環境は逼迫している。とくにディーゼル/ガスタービン等の発電機調達の難しさが指摘され、資金力だけでは勝てない局面になっている。

 

では、巨大AIデータセンターを持つことが、AIモデルの性能向上にどの程度有効なのだろうか。年内には、イーロン・マスク氏のxAIAnthropicから大規模学習クラスターで訓練された新モデルが出てくる可能性が高い。果たして、大規模クラスターで訓練された新モデルは、OpenAIのGPT-5に圧勝できるのだろうか。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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