AI時代の広告の姿が見えた=GPT-5は新たな広告モデルへの布石

AI新聞

 

OpenAIの新モデルGPT-5の評判が絶賛と酷評に2分されている。米AI調査会社SemiAnalysisは、「GPT-5は多くの有料ユーザーにとって期待外れ」としており、その理由はユーザーの9割を占める無料ユーザーのためのバージョンアップだったからだとしている。OpenAIはこのバージョンアップを通じてAI時代の新たな広告のプラットフォームを構築し、7億人とも言われる無料ユーザーを収入源にする考えだという。

 

SemiAnalysisのレポート「GPT-5 set the stage for ad monetization and the SuperApp」によると、今回のバージョンアップの最大のポイントは、ルーターと呼ばれる機能が搭載されたこと。GPT-5は実は大きさや性能が異なる数個のモデルが裏側で動いており、ルーターはユーザーからの質問の意図を理解し、質問の複雑さで適切なモデルに振り分ける仕組みになっている。簡単な質問なら、小さなモデルが素早く回答し、複雑な質問ならリーズニングモデルと呼ばれる「考えるAI」が時間をかけて調査し、慎重に回答することになっている。時間をかけて考える行為には電力や半導体使用料などのコストが余計にかかるので、リーズニングモデルは有料ユーザーにのみ解放されたモデルだった。今回質問件数などの制限はあるものの、無料ユーザーでもリーズニングモデルが利用できるようになったことで、多くの無料ユーザーはその性能向上に驚き、絶賛したわけだ。一方で有料ユーザーは、質問内容によっては小さなモデルに振り分けられ、以前と比べると性能が落ちたように感じたのかもしれない。

 

さて多くの無料ユーザーが喜んだルーター機能だが、同レポートはこのルーター機能こそが広告プラットフォームへの布石だという。

 

例えば①「空はなぜ青いの?」、②「飲酒運転で捕まりました。飲酒運転の弁護の経験豊富な有能な弁護士を探してきて」というプロンプトを入力した場合、ルーターは①には小さなモデルを割り当てるだろうが、②には高性能リーズニングモデルを割り当ててくることだろう。同レポートは「ChatGPTはこの質問(②の質問)に答えられるだけでなく、これが非常に価値のある質問であることを認識し、人間レベルの回答をすることができます。50ドルの計算コストを投じることも可能でしょう。なぜなら、この取引には数千ドルの価値があるからです」という。この案件を紹介してもらった弁護士事務所は、紹介料としてそれなりの手数料を支払う可能性があるし、ChatGPTはそのことを理解するようになる。そこでChatGPTは、飲酒運転に関する情報をできるだけ多く集め、地元の弁護士を調査、吟味し、誰が最も早く返答しそうかを検討し、ユーザーに回答することになるという。

 

さらには、ユーザーに代わってブラウザを操作できるエージェントと連携。このエージェントがユーザーに代わってメールで弁護士と交渉することも技術的に可能になることだろう。

 

まとめると、GPT-5のルーターがユーザーの意図を理解し、一番コストパフォーマンスがいいAIモデルを割り振る。複雑なプロンプトならば、リーズニングモデル(考えるAI)が割り当てることになる。リーズニングモデルはいろいろな情報を検索できる機能を通じて収集し、回答としてまとめる。その回答に関連して何らかのアクションを取る必要があれば、AIエージェント(行動するAI)がユーザーに代わってパソコンを操作し、メールを送ったり、購入手続きを行ったりする。

 

こうした一連のプロセスでユーザーを紹介してもらった製品・サービスの提供者は、紹介・取引手数料をOpenAIなどのプラットフォームに支払うようになる。それがAI時代の広告の形になる、というのがこのレポートの主張だ。

 

今回のGPT-5へのアップグレードでは、モデルを割り振り、リーズニングモデルが割り振られればネット上を検索できる機能を通じて情報収集する、というところまでしか実現していない。しかしChatGPT Agentと呼ばれるエージェント機能がリリースされたばかり。いずれGPT-5と連携し、ChatGPT Agentがメールを送ったり購入手続きをしたりといったアクションを取るところまで可能になるのだろう。

 

ネット広告のこれまでの歴史を振り返ると、最初に出てきたのがバナー広告だった。次に登場したのが検索連動型広告。検索キーワードに関連した広告を検索結果のページに表示するというもので、検索結果に表示する権利を巡って広告主がオークション形式で入札するという仕組みになっている。この検索連動型広告のプラットフォームを構築し、急成長したのがGoogleだった。

 

そしてAI時代。AIに対するユーザーの質問の意図を理解し、適切なモデルを割り当て、そのモデルが情報を収集し、どのようなアクションを取るべきかを計画する。そしてその計画通りにAIエージェントが行動する。そうすることで消費者と製品・サービス提供者が繋がる。まだ発展途上ではあるものの、ChatGPTのようなチャット型AIを使う人が急増する今、検索連動型広告の次の時代に入ろうとしているのかもしれない。

 

同レポートは「OpenAIはそのユーザー数で、明らかにキャズムを超えた。もしOpenAIがMetaやGoogleに先駆けて、エージェント購買ソリューションをリリースすれば、Meta、Googleの両社にとって大きな脅威となることだろう」と結んでいる。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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