月額3000円が当たり前──AI時代のアプリは最初から売り上げ急上昇

AI新聞

 

モバイル時代、アプリの多くは無料、もしくは一括購入で300円前後という価格帯だった。ところがAI時代のアプリは、初期段階から月額3000円前後が当たり前となり、使い続けるには継続的な支払いが必要だ。アプリのビジネスモデルそのものが大きく様変わりしている。

 

AI時代のアプリの最大の成功例はなんと言ってもChatGPTだろう。有料版のChatGPT Plusは月額20ドル(約3000円)で、ChatGPT Proは月額200ドル(約3万円)。有料会員数の公式発表はないものの、『The Verge』が経営陣の話として報じたところによれば、2024年春には600万人だった有料会員が、秋には1100万人、年末には1550万人、そして2025年春にはついに2000万人に到達したという。

 

ChatGPT以外だと最近注目を集めているのがコーディングツールのCursor(カーサー)だ。Proユーザーは月額20ドル(約3000円)、Businessユーザーは月額40ドル(約6000円)で、Bloomberg通信によると無料ユーザー数が約100万人とされる中で、有料ユーザーが36万人というのは、非常に高いコンバージョン率といえるだろう。

 

一方で音声生成AIのElevenLabsは、月額5ドルから1320ドルまで5段階の有料プランがある。有料ユーザー数は公開されていないが、30万人から40万人ほどと推測されている。

 

モバイル時代のアプリは、最初は無料で提供し、人気が出れば有料版を展開するものが多かったが、AI時代のアプリは早い段階から有料版を提供。短期間で売り上げが急増しているケースが多い。

 

例えばCursorの年間経常収益(ARR)はわずか6ヶ月で1億ドルから5億ドルに伸びたという。急成長企業の代表格であるGoogleでさえ、2000年の収益は1億9900万ドル。そこから3億5000万ドルに達するのに2年を要した(This Week in Startupsより)。対照的にCursorは、わずか半年でARR(年間経常収益)を1億ドルから5億ドルへと5倍に伸ばしている。時代の違いはあるにせよ、異例の成長スピードだ。

出典:16 Changes to AI in the Enterprise: 2025 Edition

シリコンバレーの老舗ベンチャー・キャピタルのAndreessen Horowitzのポッドキャストによると、同社が支援するC向けAI系スタートアップの創業12ヶ月目の年間経常収益(ARR)を調べたところ、その中央値は420万ドルだったという。モバイル時代のB向けスタートアップの12ヶ月目のARRは約100万ドル、AI時代のB向けスタートアップのARRは約200万ドルなので、C向けAIスタートアップのARRがずば抜けていいことが分かる。

 

この急速な成長の理由としてAndreessen HorowitzのC向け投資担当者は、AIモデルの運用コスト(推論コスト)が高いため最初から課金せざるを得なかったことに加え、課金しても使いたいと思うほどAIネイティブな製品が優れているからだと分析している。またC向けで成功した製品は、すぐにB向けアカウントを提供しても成功することが多いと言う。

 

モバイルアプリよりも高額なのにもかかわらず、ここまでAIアプリが受け入れられているのは、何よりもAIを搭載することでこれまでにないような付加価値を提供できているからだろう。

 

高価格にもかかわらず急速に普及するAIアプリ。その背景には、AIがもたらす圧倒的な付加価値がある。これからも、AIネイティブな発想で構築された新しいアプリが、次々と市場に登場してくるだろう。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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