ヒューマノイド競争で中国Unitreeが先行する理由

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人型ロボット、いわゆるヒューマノイドの競争というと、米Teslaの「Optimus」や、米Figure、米Agility Roboticsの名前が浮かびやすい。生成AIの進化と結びつけば、ロボットが工場や倉庫で人間の仕事を担う時代が来るのではないか。そんな期待から、米国勢に注目が集まっている。

だが、半導体・AIインフラ分析で知られる米SemiAnalysisは、別の企業に注目している。中国のロボット企業Unitreeだ。

SemiAnalysisが6月8日(米国時間)に公開した記事「China’s Unitree Will Dominate Global Robotics」は、Unitreeを「新たな中国ハードウェア巨人」の誕生として描いている。その象徴として記事冒頭に置かれているのが、数週間以内に1万台目のヒューマノイドを出荷する見込み、という一文だ。西側勢がまだ試作段階で足踏みしているなかで、量産の桁がそもそも違うことを一発で示している。

主張はかなり明快だ。Unitreeの強さは、単にロボットを安く売っていることではない。重要部品を自社で押さえ、低価格で市場を広げ、量産を通じて改良を重ねる。その循環が、同社をヒューマノイド市場の有力企業に押し上げている、という見立てである。

経営の数字も勢いを裏づけている。SemiAnalysisによれば、Unitreeは売上を前年比3倍に伸ばし、粗利率約60%の製品ラインを抱え、AI関連の研究開発に約3億ドルを投じる計画で、上海証券取引所への上場準備も進めている。市場で最も安いヒューマノイドを売りながら、これだけの利益率と投資余力を確保しているところに、同社のコスト構造の強さがにじむ。

四足歩行から始まった会社

Unitreeは、もともと四足歩行ロボットの会社だった。創業者のWang Xingxing氏は、もともと中国のドローン大手DJIの社員で、2016年に修士論文として低コストの四足歩行ロボット「XDog」を開発したのが出発点だ。その延長線上で立ち上げたのがUnitreeである。

四足歩行ロボットの価格推移を見ると、同社の戦略がよくわかる。2018年に発売した「Laikago」は4万5000ドル、2020年の「A1」は1万5000ドル、2021年の「Go1」は2700ドルからだった。現在の「Go2」は地域や仕様にもよるが1600〜2800ドル程度から買える。SemiAnalysisは、エントリーモデルの価格が6年で94〜96%下がったと説明している。

この価格低下には大きな意味がある。ロボットが一部の大企業や研究機関だけのものではなく、大学の研究室やホビイストにも手が届く製品になったからだ。Unitreeは、そうして生まれた市場で販売台数を増やし、実機から得られる経験をもとに、部品、制御、サプライチェーン、生産工程を磨いてきた。

BYDやDJIと同じ戦略

SemiAnalysisがUnitreeを中国のEV大手BYDや、同じく中国のドローン大手DJIになぞらえるのは、そのためだ。

BYDは電池というEVの中核部品を押さえた。DJIはドローンの飛行制御装置を押さえた。どちらも、製品の中で高価で難しい部品を自社で磨き、そこから低価格化と市場拡大を進めた企業である。

Unitreeの場合、その中核部品はアクチュエーターだ。アクチュエーターとは、ロボットの関節を動かす駆動部品のことだ。SemiAnalysisによれば、ヒューマノイドの部品表の50〜70%をアクチュエーターが占める。つまり、ここを安く、強く、量産しやすくできるかどうかが、ロボット全体の競争力を大きく左右する。

当初は「使えない」ロボットだった

もちろん、Unitreeのヒューマノイドが最初から実用的だったわけではない。SemiAnalysisは、初期の「G1」は、まだかなり未成熟だったと率直に書いている。腕を伸ばした状態では、2リットルのペットボトルほどの2キログラムの荷物を数秒持つのが限界で、腕を曲げた状態でも2〜3キログラムを2〜3分持つと、モーターが過熱して冷却が必要になった。しかも一度過熱すると、復帰までにおよそ30分かかったという。SemiAnalysisは「5分働いて残りの時間は冷却にあてる、ではとても生産的なロボットとは言えない」と突き放している。これでは、実際の労働力として使うには厳しい。

問題の中心にあったのが、Unitreeが採用したQDD、つまり準ダイレクトドライブ方式の関節機構だった。これは、従来の高価で複雑なロボット関節に比べて、安く、シンプルで、量産しやすい。一方で、モーターに負荷がかかりやすく、熱を持ちやすいという弱点があった。

それでもUnitreeは、この方式を改良してきた。SemiAnalysisによれば、モーターの磁気設計の見直し、銅線をより密に巻く工夫、冷却構造の改善などにより、現在のG1は腕を曲げた状態なら5キログラムの荷物を10〜15分ほど運べるようになっている。SemiAnalysisは、以前と比べて荷重は約2倍、作業時間は約5倍に伸びたとしている。

この改良によって、Unitreeのヒューマノイドは研究用の実験機から、限定的ながら現場で使えるロボットへ近づき始めている。SemiAnalysisは、Unitreeの歩みをDJIの初期ドローンになぞらえる。最初から完成度の高い製品を出すのではなく、研究者やホビイストが買える価格で市場に入り、販売台数を増やしながら、世代ごとに用途を広げていくという戦略だ。

すでに一部の現場に

実際、Unitreeのヒューマノイドは、すでに一部の現場に入り始めているという。SemiAnalysisは、研究・ホビイスト用途とは別に、2025年時点で最大250台程度のUnitree製ヒューマノイドが、産業用途の試験導入や実運用に使われている可能性があると推定している。

用途は、いきなり高度な作業ではない。倉庫や物流現場で、軽い箱やトートを運ぶような作業だ。完全自律ではなく、遠隔操作によるケースも多いと見られている。それでもSemiAnalysisは、一定の条件では人間の時給30ドルを下回る経済性が見え始めていると試算している。

研究開発の世界では、すでにデファクトの地位を築きつつある。SemiAnalysisによれば、米Nvidia、米Apple、米Metaがいずれも数百台規模でG1を購入しており、ヒューマノイドAI研究の主力プラットフォームになっているという。Unitreeを取り巻く中国の裾野も厚く、いまや中国国内にはヒューマノイド企業が約200社あるとされる。

コスト構造という武器

Unitreeの最大の武器は、やはりコストだ。SemiAnalysisの試算では、Unitreeはヒューマノイドの税引前価格を直近12〜18か月で5万ドル超から2万7300ドルへ引き下げ、それでも主力のG1で粗利率67%を確保している。一部の案件では2万ドルを切る価格も提示しているという。そして部材コストは世界最安級の8976ドルと見積もられている。安さの源泉は、値引きではなく構造そのものにあるわけだ。

まだ「完成形」ではない

もちろん、Unitreeがすぐに人間の仕事を全面的に置き換えるわけではない。G1の腕はまだ非力で、器用な手作業にも限界がある。安全設計、倉庫管理システムとの連携、自律制御など、実用化に必要な層も十分とは言えない。米Agility Roboticsのように、現場運用に必要なソフトウェアや安全設計を深く作り込んでいる企業とは、別の課題を抱えている。

それでもUnitreeの動きが重要なのは、ヒューマノイド競争がAIモデルだけでは決まらないことを示しているからだ。ロボットには賢い頭脳だけでなく、安く、壊れにくく、量産できる身体が必要になる。どれだけ高度なAIを載せても、関節が高すぎる、熱ですぐ止まる、量産できない、修理に時間がかかる、ということでは普及しない。

中国には、EV、ドローン、モーター、ギア、バッテリーなどの厚い製造業サプライチェーンがある。試作品を短いサイクルで作り、部品を安く調達し、設計変更をすばやく反映できる。Unitreeはその環境を生かしながら、研究用ロボットから軽作業の実用領域へ進み始めている。

SemiAnalysisの記事を読む限り、ヒューマノイド競争の主役は、最も派手なデモを見せる企業とは限らない。勝負を決めるのは、AIの賢さだけではなく、関節をどれだけ安く、強く、速く改良できるかかもしれない。その地味だが重要な競争で、中国Unitreeは先行しつつある。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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