再び「Google最強説」、ただし根拠は別

AI新聞

今年2026年の幕開け、日本のビジネス界やテクノロジー愛好家の間で、ある種の「確信」が共有されていた。

AI競争は、Googleの圧勝で終わるのではないか。

その見立てには十分な根拠があった。Googleには、トップレベルのAIモデルGeminiがある。Gmail、Googleカレンダー、Google検索、Android、YouTubeといった巨大なサービス群もある。検索、メール、動画、スマートフォンという、人々の日常に深く入り込んだ接点を押さえている以上、AIが本格的に普及すれば、Googleが最も有利になる。そう考えるのは自然だった。

だが、そのシナリオは少なくとも短期的には外れた。

空気を変えたのは、米Anthropicだった。同社の開発者向けAIエージェント「Claude Code」が、企業のソフトウェア開発現場で急速に広がったからだ。Claude Codeは単なるチャットボットではない。コードを書き、修正し、テストし、開発者の作業環境の中で実際に仕事を進めるAIとして受け入れられた。

ここに、Google最強説の誤算があった。

第一の誤算は、AI市場の重心を消費者向けサービスに置いていたことだ。

Gmailや検索、YouTubeにAIが組み込まれれば、Googleが圧倒的に有利になる。これは、AIが個人向けサービスの競争として広がるなら、かなり説得力のある見立てだった。

しかし実際に大きなお金が流れ込んだのは、企業の生産性を直接引き上げる業務向けAIだった。

消費者は、少し便利になったからといって高額な利用料を払い続けるわけではない。一方で企業は違う。開発速度が上がり、人件費を抑えられ、製品投入が早くなるなら、AI利用料やトークンコストを十分に正当化できる。

実際にAnthropicの売り上げは、2025年末の年換算90億ドルから、2026年2月に140億ドル、3月に190億ドル、4月には300億ドルへと急伸した。わずか数カ月で、すでに大手ソフトウェア企業並みの売上規模に達したのである。

第二の誤算は、競争の中心がモデル単体の性能から、モデルを仕事に変える仕組みへ移ったことだ。

最先端モデルの性能差は、以前ほど分かりやすい差別化要因ではなくなってきた。すると問われるのは、「どのモデルが一番賢いか」ではなく、「その知能をどう業務の中で使える形にするか」になる。

ここで重要になるのが、いわゆるハーネスだ。モデルを現実の作業につなぐ道具立て、操作環境、権限管理、実行基盤のことである。

Claude Codeは、このハーネスの競争で先行した。Anthropicはモデルそのものを売ったのではなく、開発者が日々使う作業環境の中にAIを組み込んだ。企業が買ったのは「賢いAI」ではなく、「開発現場の生産性を上げる仕組み」だった。

この点で、Googleの強みは少しずれていた。消費者向けサービス群は巨大でも、企業の現場で具体的な作業を進める仕組みとしては、Claude Codeほど直接的ではなかった。

Google最強説が外れたのは、Googleが弱かったからではない。AI市場の重心が、想像よりも早く企業の現場へ移ったからだ。

しかし、ここで話は終わらない。

Google最強説が色あせ、Anthropicの快進撃が注目を集める中で、まったく逆の賭けをする企業がある。著名投資家Warren Buffett氏が創業した投資会社Berkshire Hathawayが、Googleの親会社であるAlphabetに100億ドルを投じる決断を下したのだ。

米有力ニュースレターStratecheryのBen Thompson氏は、BerkshireによるAlphabetへの投資を、単なる大型株投資ではなく、AI時代のインフラへの賭けとして捉えている。

同氏の見立てはこうだ。AI競争は、いまはOpenAI、Anthropic、Googleといったモデル企業同士の戦いに見える。だがAI需要が膨らみ続ければ、最終的に不足するのはモデルではなく計算資源になる。

Anthropicの成長も、十分な計算資源を確保できたからこそ可能になった。企業顧客が増えれば、モデルを動かすためのGPUやTPU、データセンター、電力が必要になる。需要がさらに拡大すれば、勝負は「誰のモデルが優秀か」だけではなく、「誰が最も多くの計算資源を用意できるか」に移っていく。

その意味でGoogleは、独特のポジションにいる。

同社はGeminiを持つモデル企業であり、同時にGoogle Cloudを運営する巨大クラウド事業者でもある。さらに独自AIチップTPUを持ち、自社サービスだけでなく、外部のAI企業にも計算資源を供給できる。

Ben Thompson氏が注目したのは、この供給能力だ。Berkshireが評価したのは、AIモデルの短期的な勝ち負けではなく、AI時代に必要な計算資源を大量に建設し、運用し、販売できるGoogleの資本力だったのではないか。

これは、かつてのGoogleの成功物語とはかなり違う。

Googleは長年、検索広告という極めて利益率の高い事業で成長してきた。広告主がクリック単価を競い合い、Googleはその市場を取り仕切ることで巨額の利益を得てきた。いわば、非常に軽い資産で大きな利益を生む事業だった。

だがAIインフラは違う。データセンター、半導体、電力、冷却設備に巨額の資本が必要になる。利益率は広告ほど高くないかもしれない。それでも市場全体が巨大化すれば、絶対額としてはより大きな利益を生む可能性がある。

Thompson氏は、ここでBerkshireの歴史を重ねる。

Warren Buffett氏は、菓子メーカーSee’s Candiesが生み出したキャッシュを使い、後に鉄道会社BNSFのような資本集約型の事業へ投資した。See’s Candiesは高利益率の優良事業だった。一方、鉄道は巨額の設備投資を必要とする。それでも社会の基盤として長期にわたって収益を生む。

今回のGoogle投資も、それに似ているのではないか。

検索広告は、GoogleにとってのSee’s Candiesだった。そこから生まれるキャッシュを使い、GoogleはAI時代の鉄道とも言えるデータセンターと計算資源を築こうとしている。Berkshireは、そこに賭けたのかもしれない。

Anthropicの躍進は、モデルとハーネスを一体化した企業向けAIの強さを示した。

一方でBerkshireのGoogle投資は、そのさらに奥にある戦いを示している。AI需要が増え続けるなら、どのモデル企業が勝っても、膨大な計算資源は必要になる。

バークシャーがGoogleに見たのは、次のAnthropicではなかった。

AI時代の鉄道会社だったのである。


ソースURL: https://stratechery.com/2026/the-google-capital-company/

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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