
米AI関連の有力ポッドキャストLatent Spaceは、AnthropicのModel Context Protocol(MCP)が、GitHubの評価の星の数の急速な伸びを見ても、エージェントのプロトコル(通信規約)の業界標準になる臨界点に達したと判断。「過去3年間のAIエージェントの標準規格争いの勝者と言って間違いない」と宣言した。AIエージェントにおけるプロトコルとは、大規模言語モデル(LLM)が、検索エンジンや計算機などの各種ツールやデータベースとやり取りするための共通言語のようなもの。標準プロトコルが誕生することで、いろいろな機能を持つAIエージェントの開発が容易になり、今後AIエージェントの社会実装に一層拍車がかかりそうだ。一方でこれまで業界をリードしてきたOpenAIとの力関係はどうなるのだろうか。
Latent SpaceのWhy MCP Won(MCPが勝利した理由)というエッセイによると、MCPが勝利した理由は6つ。1つは、以前からあるアイデアをAIネイティブにしたこと。Latent Spaceによると、できることはOpenAPI、OData、GraphQL、SOAPなどといった過去のプロトコルとほぼ同じ。しかしソフトウェア開発のベンチマークSWE-Benchで1位になったClaude Sonnetの開発経験を生かして、AIエージェントの開発において、共通して現れるパターンをMCPというプロトコルとして具体的に落とし込んだのだという。
LangChainやLlamaIndexなどの初期のフレームワークは異なるLLMをフレームワーク上で容易に切り替えたり、連携させたりすることに重点を置いた。しかし、今のアプリケーション開発者は、APIゲートウェイを利用することで必要なLLMを柔軟に選択・切り替えできるようになっており、フレームワーク側で複雑な相互運用性処理を担う必要性は薄れてきている。
後発であるMCPは、LLM相互運用のような「解決済み」の課題ではなく、コンテキストアクセスを最重要課題と捉え、その解決に特化した。コンテキストアクセスとは、AIエージェントがタスクを実行する際に状況に応じて変化するコンテキスト(文脈、背景情報)に柔軟かつ効率的にアクセスし、活用する方法のことだ。
今の課題に重点を置いたことで、広く支持されるようになったとしている。
2つ目の理由は、大手がバックアップするオープン規格であるということ。小さなスタートアップが提唱するオープン規格だと、そのスタートアップが倒産すれば技術革新が止まる恐れがある。また普及する力という点においても資金力、技術力、ブランド力を持つ大手AIのオープン規格の方が有利だ。なのでLatent Spaceは「LangChainなどにも勝利する」と断言している。
3つ目の理由は、Anthropicが最高の開発者向けAIブランドだからだ。確かにコード編集スキルに関するベンチマークで、Claude Sonnetは過去9カ月間首位を独走中だ。Latent Spaceによると、AnthropicはOpenAIよりもツール連携を重視。100万トークンのコンテキストレングスがあるので、250を超えるツールを安心して処理できるという。一方でOpenAIは実際には5〜10のツールしか処理できないとしている。
4つ目の理由は、普及済みのプロトコルであるLSPをベースに開発されたから。LSPは、プログラミング言語サーバーとエディター/IDE間の通信を標準化するためのプロトコルで、Microsoftが開発し、既に広く普及している。コード補完、エラーチェック、定義ジャンプなどの機能を、様々なエディターで共通して利用できるようにするために設計されており、技術的な完成度が高い。MCPを一から開発せずにLSPを基盤として利用したことで、MCPも最初から完成度が高く、CursorやWindsurfなどのエディターへの統合が容易にできるようになっているのだという。
5つ目の理由は、Anthropicが必要なツールを自社開発し、自分たちでもそれを利用して改良を続けたから。同社が開発したツールは、次の通り。
Client: Claude Desktop
Servers: 19 reference implementations, including interesting ones for memory, filesystem (Magic!) and sequential thinking
Tooling: MCP Inspector, Claude Desktop DevTools
SDKs: Python and TS SDKs, but also a llms-full.txt
documentation
また最近リリースされたClaude Codeも、テキストベース・インターフェースのMCPクライアントになっているという。自分たちも利用するので、問題点や課題の早期発見、早期対処が可能だという。
6つ目の理由は、小さく始めて、その後活発な開発を続けたから。初期段階ではシンプルさを重視し使いやすくしたことで早期の普及を促進したが、その後は継続的なアップデートによって機能を追加。常に最新のニーズに対応し、コミュニティを活性化させ、長期的な勢いを維持しているのだという。直近のワークショップでも、公式MCPレジストリの開発計画を発表している。
AnthropicのMCPがエージェントの業界標準プロトコルになることで、業界勢力図にどのような影響を与えるのだろうか。
これまでAI業界をリードしてきたOpenAIは、Function Callingと呼ばれる技術で、LLMと各種ツールを連携させてきた。Function CallingもMCPもツール連携という目的は同じだが、Function CallingがLLMのAPIレベルでの機能拡張なのに対し、MCPはより上位のプロトコルレベルでの標準化を目指している。またFunction CallingはOpenAIのエコシステム内での標準化を目指し、MCPはより広範なAI業界における標準化を目指している。
今後2つの規格が対立して市場の奪い合いが始まるのか。Function CallingがMCPと連携したり、MCPがFunction Callingのような個々の機能実装を包含するようになるのか。未来は読めないが、OpenAI一強だった業界勢力図は確実に変化し始めているようだ。

湯川鶴章
AI新聞編集長
AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。