Metaが生成AIでMicrosoftと提携した理由

AI新聞

米Microsoftが、ChatGPTを開発したOpenAIのみならず、Meta(Facebook)とも手を組んだ。AIをめぐる業界勢力図はどう変化するのだろうか。なぜMetaはMicrosoftと手を組んだのだろう。

 

Metaの発表によると、同社開発の大規模言語モデルLlama2の優先的パートナーとしてMicrosoftが選ばれ、MicrosoftのクラウドサービスAzure上でLlama2をオープンソースライセンスで一般企業に無料で提供するという。(情報ソース 発表文 英語)オープンソースライセスンスで一般企業も利用可能になった意味合いは確かに大きいが、しかしそれ以上にMicrosoftが優先的パートナーになったことがIT業界の注目を集めた。クラウドサービスでは、Amazon、Microsoft、Googleがしのぎを削っている。今回の提携で、Microsoftが一歩先に出たのではないか、という憶測が飛び交っていた。

 

しかしMetaのAI研究所のYann LeCun所長はこの件に関し「Llama-v2 は(Amazonのクラウドサービスの)AWSや、(AIのライブラリーとして有名な)Hugging Faceなどからも利用できるようになる」とツイート。今回の提携が独占契約ではないことを明言している。(情報ソース LeCun氏のtwitter 英文)

 

一方でなぜMetaは、Llama2を一般企業にも利用できるオープンソース契約にして、Microsoftのクラウド上で提供することにしたのだろうか。

 

一般的に企業がオープンソースを推進する理由は3つある。1つは優秀な研究者を雇用するため。優秀な研究者にはオープンソース信望者が多いので、オープンソースを推進することで優秀な研究者を集めようという考えだ。事実、MetaのAI研究所のLeCun所長も、オープンソースの熱烈な支持者だ。

 

2つ目は、オープンソースにすると世界中の技術者が寄ってたかって改良してくれるので、セキュリティなどの機能が向上するから。MetaのCEOのマーク・ザッカーバーグ氏はYouTube上のインタビューで、オープンソースで公開した同社のサーバーソフトは、世界中の技術者が改良してくれたおかげで、セキュリティが大きく向上したと語っている。(情報ソース YouTube「Mark Zuckerberg: Future of AI at Meta, Facebook, Instagram, and WhatsApp | Lex Fridman Podcast 英語)

 

3つ目は、オープンソースのソフトを中心としたエコシステムが誕生し、影響力を行使できるようになるからだ。有名なオープンソースのエコシステムとしては、Googleが開発したスマートフォン基本ソフト「Android」がある。Google自体はAndroidで一銭も儲けていないが、AndroidのおかでGoogleはスマホ業界に圧倒的な影響力を持っている。

 

ザッカーバーグ氏も、インタビューの中で、オープンソースを推進する理由としてこの3つのポイントを挙げている。

 

特に3つ目のエコシステムの構築という理由に関して同氏は、Llama2がAIエージェントのエコシステムの中核になる可能性がある、と語っている。

 

AIエージェントは、ユーザーに代わって何らかのタスクを実行してくれるチャットボットで、対話型AIの次の進化とみなされている技術だ。

 

対話型AIの次の進化がエージェントだと考える人の間でも、1つのエージェントがありとあらゆるタスクをこなすようになるという考えと、1つのタスクに特化した無数のエージェントが誕生するという考えの2つの意見がある。

 

ChatGPTの有料版上でサードパーティ開発のプラグインを多数揃えているOpenAIは、前者の意見を持っていると言えるだろう。プラグインはスマートフォンで言うところのアプリのような存在で、ChatGPTはプラグインにアクセスすることで、いろいろな機能を実装できるようになっている。日本企業では、食べログやヤフーが既にプラグインを提供しているが、こうしたプラグインを多数揃えることでChatGPTは何でもできる一人の有能な秘書のようなエージェントになろうとしているわけだ。

 

ザッカーバーグ氏によると、同氏は後者、つまり1つの機能を持つエージェントが多数存在するようになるという意見。Metaは、インスタグラムの他にも、WhatsAppというSNSを持っているし、このほどTwitterのようなSNSである「Threads」というサービスを開始したばかりだが、ザッカーバーグ氏はこうしたSNS上に今後いろいろなタスクを実行する無数のエージェントが誕生するという。「WhatsApp上で会話できるアシスタントや、インスタグラムのクリエイターの代わりにファンと会話できるエージェント、中小企業にとってのカスタマーサポートのエージェントなど、いろんなエージェントが登場するだろう」と語っている。



同氏はまた「Llamaがこうしたエージェントを動かすエンジンになる」と言う。

 

つまり今回MetaがMicrosoftやAmazonのクラウド上でLlama2を無償で提供するのは、多くの企業にエージェントを開発してもらうためだと言える。逆に言えば、インスタグラム、WhatsApp、Threads上にエージェントを提供したければ、Llama2を使うしかない。

 

ザッカーバーグ氏は「Llama2はこうしたエージェントを生むエコシステム、ビジネスのインフラになっていく可能性がある」と語る。スマホ時代にGoogleがAndroidで築いたエコシステムを、AI時代にMetaはLlama2で構築しようと考えているわけだ。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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