Amazonが提唱する脱炭素宣言「the Climate Pledge」に賛同する大企業が増えてきた。同宣言は企業のすべての業務にかかわる二酸化炭素排出量を推計し、二酸化炭素を排出しない企業運営を達成しようというもの。Amazon自体は、電気自動車ベンチャーに対し宅配トラックを10万台発注するなど、脱炭素に本気で取り組んでいるもよう。同宣言に賛同する大企業が増えることで、経済全体が脱炭素社会に向かいだす可能性が出てきた。
この宣言の特徴は、科学的に裏付けられた計算手法で、ビジネスの各業務が関与する二酸化炭素排出量を非常に細かく推計することを宣言していること。Amazonでは5つの数理モデルを組み合わせることで、どの業務のどのようなやり方が二酸化炭素排出量を増やしているのかが、手に取るように分かるようになっており、最も排出量の多い業務から順に業務プロセスの見直しを始めている。
同宣言のホームページによると現在、コカコーラ、メルセデスベンツ、シーメンスなど世界的大企業31社が同宣言を採択。2020年末にはユニリーバや、マイクロソフトなども参加したことで話題になった。
Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は、「大企業が脱炭素を目指すことで、取引業者も脱炭素を目指さざるを得なくなる。宣言に参加する大企業が増えることで、カーボンゼロ社会の実現は可能だ」と語っている。
Amazonで同宣言の関連業務を担当するDave Clark氏は「電動宅配トラックの大量発注を発表したその日に、脱炭素に関連するベンチャーからの連絡が数多く寄せられた。われわれが見せかけではなく、本気だということに気付いたのだろう」と語っており、大企業が動けば経済全体が動く可能性があることを示唆している。
さてでは二酸化炭素排出量を推計する数理モデルを詳しく見てみよう。これらのモデルを見れば、Amazonを始め31社にとって、脱炭素が単なるお題目の努力目標ではなく、本気の数値目標であることが分かるからだ。
【財務モデル】
財務モデルの基礎になっているのが、the Economic Input-Output Life Cycle Assessment (EIO LCA)という手法。
EIO LCAというのは、1つの製品やサービスを、部品やプロセスに細かく分けて、その製造から廃棄までの全プロセスを細かく逆算する手法で、例えば1万ドルのコンピューターを製造するには、1466ドルのストレージ部品、491ドルの回路基盤をそれぞれの専門メーカーから購入しなければならない。専門メーカーも、それぞれの製品を構成する部品を、別の部品メーカーから購入している。その部品メーカーはまた別のメーカーから部品を購入している。こうしたプロセスを全部逆算し、それぞれの部品の製造、組み立て、運搬、廃棄の際に、どれくらい二酸化炭素を排出しているかを計算する。
二酸化炭素排出量を計算するために必要なのが、製造、運搬、廃棄などの過程における二酸化炭素排出量の統計データだ。米環境庁は統計データから、産業別の金額ベースの排気量の係数を計算して発表している。例えばトラックによる輸送では、運搬費一ドル当り1556gの二酸化炭素を排出するという計算になっている。
Amazonでは、財務データをEIO LCAの手法で細かく分類し、それぞれの製品や部品の金額に環境庁の係数を掛け合わせて合計することで、それぞれの支出項目ごとの排気量を推計できるようにしている。
例えば宅配業者に、荷物の配達を依頼した場合、支出額1ドル当りに224gの二酸化炭素が排出される。荷物を入れるパッケージを製造すると、一ドル当り807gが排出されるという具合だ。
二酸化炭素排出量を発表している大企業の多くは、このIO LCAモデルを利用して、排出量を計算しているという。
【運輸モデル】
運輸モデルには、配達する際の二酸化炭素排出量の計測するモデルと、消費者がAmazonのリアル店舗に出向く際の排出量を計測するモデルの2つがある。
排出量は、交通手段や、目的、効率、タイミング、その土地土地の事情によって大きく異なってくる。取得できるデータの量や質も異なる。そこで、どのレベルのデータでも対処できるようなモデルを構築しているという。
運輸にかかわる二酸化炭素としては、自動車の排気ガスや、自動車の製造、石油のサプライチェーンにかかわるものがある。自動車に関しては、製造、維持、廃棄の過程での排出量を計算する。石油に関しては、精製、運搬、流通、消費の、それぞれの段階での二酸化炭素排出量を計算している。
自動車による運輸の石油の消費量に関しては、米国の環境庁、エレルギー局、EU、国連などのデータを基に算出する。
自動車の製造、維持、廃棄に関しては、市販されているLCAソフトを利用する。自動車が廃棄されるまでの総走行量は国連の国際リソース委員会が発表しているものを利用し、各国のAmazonが所有する自動車からのインパクトを推計している。
石油に関連する二酸化炭素排気量に関しては、Greenhouse Gases, Regulated Emissions, and Energy Use in Transportation (GREET) と呼ばれるモデルを使って計算する。
消費者が来店する際の二酸化炭素排出量に関しては、消費者が、Amazon GoやWhole Foods Marketなどのリアル店舗が都市型か郊外型か、また交通手段は自家用車か、公共交通機関か、などというように分類。どの手段でどれくらいの距離を行き来したかを推計し、そこから二酸化炭素排出量を推計している。今は米高速道路管理局のアンケート結果を利用しているが、今後は来店客へのアンケート結果に変えていく計画だという。
そして、それぞれの地域の店舗ごとに、来客数を元に排出量を推計している。
【パッケージモデル】
Amazonは数百種類のパッケージで商品を梱包しているが、それぞれの紙や段ボールを製造、流通、廃棄する際に排出する二酸化炭素量を地域ごとに推計。ベースとなるのは、材質、重量、面積、リサイクル率などのデータ。市販のLCAソフトウェアを使って計算する。
【電力モデル】
倉庫やデータセンター、リアル店舗、オフィスなどでの電力使用量をベースに、それぞれの地域の電力会社の発電方法を考慮して二酸化炭素排出量を計算する。
【自社製品モデル】
AmazonはAmazonエコーや、kindle電子ブックリーダーなどいくつかの電子機器を自社で開発、製造している。それらの製造にかかわる二酸化炭素排出量も、部品やプロセスごとに細分化して計測する。またユーザーがこれらの製品を使用する際に消費するであろう電力量からも排出量を計算する。
こうして細かく計測して二酸化炭素排出量を推計すると、意外な業務プロセスの排出量が高いことが分かるという。
例えば、通常配達便とお急ぎ便では、一見するとお急ぎ便の方が二酸化炭素排出量が多いようにみえるが、実際には通常配達便の方が排出量が高いことが分かったという。
お急ぎ便で翌日配達を実現するには売れ筋商品を都市部の倉庫に在庫しておく必要があり、消費者の近くに大量の在庫を用意しておくことのほうが、メーカーから消費者に個別に直送するよりも、二酸化炭素排出量が少ないのかもしれない。
ここまで細かく二酸化炭素排出量を計算し、業務プロセスの改善を進めるには、納入業者の協力が不可欠。Amazonは今後ますます脱炭素に熱心な業者を優先するようになるだろう。
同様の影響が、この宣言を採択した大企業の周辺の企業にも、これから起こっていくことだろう。
この動きに日本の大企業も加わっていくのだろうか。注目したい。