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「医療にイノベーションを」米Amazonという巨人が動き出した

  • 2021.1.10

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米Amazon.comは何の会社?

 

多くの人はEコマースの会社だと思っている。テクノロジー企業に勤めている人にとってAmazonは、クラウドコンピューティングの会社というイメージでもある。最近アメリカの投資家向けメディアの記事を読んでいたら、Amazonはもはや宅配業者であるという表現を見かけた。Amazonはまた、倉庫業でもあるし、ストリーミングビデオの会社でもある。そしてそれぞれの領域で市場シェア首位か上位に位置している。

 

もともとの中心業務であるEコマースに必要なデータセンターや倉庫管理、宅配などを自社で運営。その中で、業界最高レベルにまでノウハウが積み上がったので、それを他社に有償で提供し始めた、ということなのだろう。多くのビジネス書が説く「選択と集中」という経営の極意と、真逆のことをする会社なのである。

 

最近読んだニューヨーク大学のScott Galloway教授の「Post Corona」という本によると、Amazonはヘルスケア企業にもなろうとしているという。そしてコロナ禍によってその歩みが一気に加速されたという。

 

2020年4月の四半期決算の記者発表で、AmazonのCEOジェフ・ベゾス氏は「イスにしっかりと座ったほうがいいかもしれません。われわれは小さなことは考えてませんから」と語ったという。同氏は同四半期の営業利益の40億ドルをすべて、従業員を守るためにコロナ対策に投じると発表した。Galloway教授によると、決算発表でベゾス氏が「イスに座ったほうがいい」というような発言をしたことは、過去に2、3度のみ。ベゾス氏の決意の強さが分かる発言だ。

 

具体的には、従業員が感染しないための設備を揃えるほか、倉庫などの洗浄を徹底するという。

 

Galloway教授は、Amazonがこれを機に、まずは従業員向けにヘルスケアの仕組みを作り、それを外部にも販売していくことになると予測する。

 

Amazonがヘルスケアの会社になれば、どのようなことに取り組むのだろうか。

 

まずはこれまで以上にAIやロボットを多用し、従業員同士のソーシャルディスタンスを保てるような職場にするだろう。40億ドルという巨額の資金を使うわけだ。かなり大胆な施策を打てるだろう。これでAmazonは、今回のコロナ禍が長引いても影響を受けないどころか、近い将来に同様のパンデミックが発生しても、まったく動じない企業になる。パンデミックの根本的原因が世界における急速な経済発展であるというのなら、これからもパンデミックの危機は何度となく訪れるはず。その際にAmazonは競合他社に比べて圧倒的な優位に立てるわけだ。【関連記事】コロナ禍の根本原因は配慮なき経済発展

 

Galloway教授は、Amazonが健康保険に乗り出す可能性があるという。「Amazonはユーザーがゲーム機を購入したのか健康器具を購入したのかを知っている」と言う。ウエアラブル機器で生体データを集めるかもしれない。一人一人のユーザーのことがよく分かれば、ユーザーの健康リスクも予測できる。競合の保険会社に比べて圧倒的に有利になるわけだ。

 

またユーザーに各種検査キットを送付し、ユーザーの健康を包括的に管理し、都市部なら薬を一時間以内で配達するような会員制サービスに乗り出す可能性もあるという。Amazonプライムのヘルスケア版というわけだ。

 

「この程度の予測なら昔から未来学者などがしてきたが、これまで実現しなかった。それは医療業界には規制が多く、また大規模なサービスを提供するには莫大な資金が必要だったからだ。ところがコロナ禍でいろいろな障害物が一気に取り去られ、株価の高騰で巨額の資金が手に入るようになった」と同教授は指摘する。確かに米国では医療に関する各種規制が緩和され始めているようだ。電話やスマートホンを使った遠隔診療が急増しており、2020年4月には外来診療の35%を遠隔診療が占めるまでになっている。

コロナ禍でテック大手にだけ投資マネーが集まり出しているのも事実だ。【関連記事】コロナが引き連れてきたGAFA独占時代

 

さて同教授の新刊「Post Corona」が発売されたのは2020年11月26日。ということは原稿の執筆は秋口には終わっており、それ以降の情報はこの本の中に掲載されていないということになる。

 

同教授の予測通りに、Amazonは昨年後半にヘルスケア事業を加速させているのだろうか。Amazonの取り組みを調べてみた。

 

同社は7月14日、医療クリニックを倉庫近くに開設する計画を発表。発表文によると、まずは米国内の5都市21ヵ所に開設。最終的には全米の倉庫や拠点の近くに設置し、米国内の全従業員とその家族の初期診療を担当する計画という。いわゆる「かかりつけの医者」というイメージで、日頃から医師との接点を持ち健康的な生活を送ることで、救急医療などの高額な医療費を削減できるとしている。

 

まずは社員向けだが、先に書いたように同社は、社内向けのプロジェクトを業界最高レベルに引き上げたあとで、社外向けに事業化することを得意とする。果たして医療クリニックを事業化するつもりはあるのだろうか。

 

12月16日付のBusiness Insiderは、Amazonの関係者の話として医療クリニック事業を大企業クライアント向けに展開していく計画があると報じた。患者はスマホアプリを通じて医師とのアポを取れたり、看護師に往診してもらうことも可能だという。

 

11月17日には、Amazonがオンラインの調剤薬局事業に乗り出したという記事が出ている。

 

10月8日には、薬やワクチンを冷蔵車で運搬する業者と提携したと発表。12月22日には、企業が社員に対しコロナ検査を実施できる体制作りを支援する企業アライアンスを、Amazonなど数社が率先して設立したと発表している。

 

また8月にはフィットネスバンド「Amazon Halo」を発表。活動や睡眠に関連するデータを収集できるというウエアラブルデバイスで、声のトーンからも健康状態を推測する機能もついているようだ。日本ではまだ発売されていない。米国でも人気で、在庫切れの状態らしい。

 

そうしたデバイスから入手した生体データはAIで解析する必要があるのだが、12月には、生体データを解析するため、データの前処理をするサービスを開始したというニュースが流れている。

 

つまりAmazonはGalloway教授の予測通り、ヘルスケア企業として着々と前進しているわけだ。まだ実現していない予測は、生体データの収集、解析から遠隔診療、薬の配達、保険業務まで一気通貫でやってくれる会員制サービスくらい。正式発表こそまだだが、会員制サービスに必要な部品は、ほとんど揃いつつある。

 

Galloway教授は、Amazonが会員制サービスなどでヘルスケア事業に本格参入すると発表すれば、その日のうちに同社の時価総額が1000億ドルほど増えることになると予測する。1000億ドルを使って一気に医療、ヘルスケア、保険の領域に変革を起こすことができるわけだ。またテクノロジーを使って無駄を省き、コストを下げることが実証されば、Amazonのやり方は日本を含む先進国に大きな影響を与えることになるだろう。

 

コロナ禍が時代の針を先に進めようとしている一例だ。

 

 

 

 

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。