Amazonらの3社合同健保組合、解散へ

AI新聞

 

日本ではほとんど話題にならなかったが、AI新聞だけは詳細に報じたAmazonの健康保険組合Heaven Healthcareが、2月末で解散することに決まったようだ。1月5日付で同組合のウェブサイトに短い発表文が掲載されたようだが、今アクセスしてもアクセスエラーと表示されてしまう。何があったのだろうか。

 

3年前にAmazon、Berkshire Hathaway、JPMorgan Chaseの3社が共同で、3社の社員のための健康保険組合を設立すると発表したときは、米国中のメディアが大騒ぎした。Amazonが参加しているのであれば、最新のテクノロジーを使うはず。そこに医療やヘルスケア業界の未来があるはずだと、注目を集めたわけだ。

 

しかし組織を作ったという発表だけで詳細が明らかにされなかったため、いろいろな憶測が飛び交った。そうした憶測をまとめて「21世紀最大のビジネスチャンス「ヘルスケア」に挑むAmazonの可能性」という記事に書いた。Amazonが巨大総合病院の経営に乗り出すのではないかという憶測まで飛び出したが、①ウエアラブルデバイスを配布し従業員の健康状態をリアルタイムで計測②デバイスから集められたデータをAIで解析し、一人一人に合った健康管理方法を推薦③一人一人の生活態度、生体データをベースにした保険料金額の設定、などといったことが可能な、斬新な健保組合を作り出すのではないか、というような話が多かった。

 

3社共同の健保組合の解散を告げる発表文には「簡単に利用できる初期医療、シンプルで分かりやすい保険、安い処方箋薬など、われわれは広範囲に渡るヘルスケアのソリューションを検討してきたが、2月末で健保組合を解散することになった」とだけ書かれていたという。

 

ニューヨークタイムズが関係者の話として報じたところによると、健保組合に対する取り組み姿勢やゴールが、3社の間で微妙に異なったようだ。

 

Amazonは3社の中で最も積極的で、2020年5月の四半期決算の記者会見の際にAmazonのCEOのジェフ・ベゾス氏は、該当四半期の営業利益の40億ドルの全額をすべてコロナ対策に費やすと発表した。具体的には米国内のAmazonのすべての倉庫やオフィスの近くに医療クリニックを設置し、パートタイマーを含む米国内の65万人の全従業員の健康を管理するほか、倉庫内で十分なソーシャルディスタンスを保てるように、施設やその運用方法を改善するという。また従業員とその家族全員がPCR検査を受けらえるような体制を築く計画という。

 

個人的には、同健保組合の解散は残念である。3社の従業員は合計で約100万人。その家族を合わせると約500万人の巨大健保組合が、最新のテクノロジーを使って高騰する医療費の問題にどう取り組むのかを見てみたかった。しかしベゾス氏の気持ちも分からないではない。コロナ禍に素早く対処したいベゾス氏にとって、ほかの2社と足並みを揃えて進む時間的余裕がなかったのだろう。

 

巨大総合病院の経営には乗り出さなかったが、米国内の全従業員とその家族の初期治療を担うクリニックを全米各地に設置することにはなった。営業利益40億ドルすべてをパンデミックに負けない企業体制作りに費やすのだという。具体的にどのような施策を打ってくるのだろうか。それを通じて、医療、ヘルスケアの未来が見えるに違いない。

 

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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