OpenAIの事実上のNo.2であるGreg Brockman氏が年末まで長期休暇を取ると発表した。AIの開発競争は今、OpenAIの独走体制から、先頭集団が抜きつ抜かれつを繰り返す接戦状態に入った。また、OpenAIはまもなく次世代モデルGPT-5(仮)をリリースすると噂されている。この大事な時期に、なぜNo.2が長期休暇に入ったのだろうか。
Brockman氏は8月6日、X(旧Twitter)上に「年末まで休暇を取ります。9年前にOpenAIを共同設立して以来、初めてリラックスできます。ミッションはまだまだ完了にはほど遠く、安全なAGI(汎用人工知能)を構築することがまだ残っています」と投稿した。
OpenAIを代表する形でメディアやイベントに登壇することが多い同社経営陣は、CEOのSam Altman氏、CTOのMira Murati氏、会長兼社長のBrockman氏の3人。そのうちの一人がこの大事な時期に半年近くも休暇を取るという。いったいどういうことなのだろう。
過去に同社幹部で長期休暇を取ったIlya Sutskever氏は休暇明けに退職している。元同社幹部でテスラに転職したAndrej Karpathy氏も、テスラで長期休暇を取ったあと退職している。Brockman氏も、長期休暇のあと退職するのだろうか。
Brockman氏は、平均的なプログラマーの10人分の仕事を一人でできるという意味の「10x engineer」と呼ばれている人物。そんな天才プログラマーが長期休暇、もしくは退職すれば、OpenAIにとって大打撃となるはずだ。
また今回同時期にOpenAIの共同創業者の一人で、ChatGPT開発の中心人物だったJohn Schulman氏もX上で退職を発表した。
同氏はこのあとライバル社のAnthropicに移籍するという。
また米誌The Informationはこの二人に加えてプロダクトリーダーのPeter Deng氏もOpenAIを退職すると報じている。
このほかにも今年に入ってからOpenAIを退職する幹部のニュースをよく目にする。Perplexityに「今年に入ってOpenAIを退職した人物をリストアップして」と頼んだところ、14人の名前をリストアップしてきた。AIの安全性に関係する幹部が多いようだ。
OpenAIは過去にも多くの退職者を出した年がある。2021年にOpenAIがMicrosoftからの巨額出資を受け入れたときに、OpenAIの言語モデルチームのリサーチャー7人が同社を退社し、Anthropicを創業している。
OpenAIはもともと、AIを特定のテック大手に独占されたくないという思いの研究者たちが集まって作られた会社。AIの恩恵はすべての人類に開かれるべきだという思いでOpenAIという名前にしたようだ。
ところがMicrosoftから巨額の出資を受けることをCEOのSam Altman氏が決めた。これに反発して一部研究者たちが退社したようだ。
なぜAltman氏はテック大手からの出資を受け入れることに決めたのか。それはAIモデルを大きくすれば大きくするだけ性能が比例して向上するという「スケール則」の存在に気づいたからだ。最先端の半導体を大量に投入することがAIの進化に最も重要なことが判明し、そのためには大量の資金が必要になる。テック大手と組まざるを得ないと、Altman氏は判断したのだろう。
同氏のこのときの判断は正しかったと言える。どこよりも早くスケール則に気づいたおかげで、OpenAIはいち早く最新鋭半導体を買い集めることができ、AI開発競争の最先端に躍り出た。
前回はテック大手の資金を受け入れるかどうかで幹部の意見が分かれたが、今回はAIの安全性をめぐって幹部の意見が分かれているようだ。
AIの進化を遅らせてでもAIの安全性を重視すべきだという考え方と、安全性を重視する自分たちがどこよりも先にAIを進化させなければ、安全性を重視しない他社や外国企業に先を越されて危険なAIの利用が広がってしまうという考え方。どうやらこの2つの意見が、OpenAI社内に存在しているようだ。Altman氏の複数のインタビューの受け答えを見ていると、同氏は後者の意見のようだ。
どちらの意見が正しいのかは現時点では分からない。ただキーパーソンが抜けることでOpenAIの開発力が低下することだけは間違いなさそうだ。