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次の価値観変化は「ティール」=ケン・ウィルバーの時代認識

  • 2020.4.13

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昨年、日本の知識層の間で広く読まれた本に「ティール組織」というものがある。実は、この本の考え方の基礎になっているのが米国の現代思想家ケン・ウィルバーが提唱する発達心理の学説。そのウィルバーが、世界共通の価値観がまもなく次の段階へと変化すると予測している。

ティールとは、日本語で「鴨の羽色」と呼ばれる深い緑のこと。

ウィルバーは、人間の精神の発達段階を色で表現しており、頭脳明晰で合理的な考えの人を「オレンジ」と呼ぶ。「オレンジ」の人の考えは、すべて整合性が取れていて、すきがない。意見に違いがあるのは思慮が浅いためで、しっかりと考え抜くことができれば誰もが同じ結論に達することができると、「オレンジ」の精神段階の人は考えている。

一方で、物事を相対的に考える人は「グリーン」。国や地域、人種、時代、宗教ごとに、それぞれの「真実」があると考える人たちだ。異なる意見の存在は認めるが、やはり自分の意見を中心に物事を見る意識状態だ。

「ティール」は、異なる意見が存在することを認めるだけではなく、異なる意見の対立を少し引いた視点から理解し、双方の意見に共感できる意識レベルになる。

宗教が正しいのか、科学が正しいのか。どちらかが正しくて、どちらかが間違っていると考える意識状態は「オレンジ」。自分は科学を信じるが、宗教を信じる人がいてもいいと考えるのが「グリーン」。科学で証明されたことを信じるし、宗教のように科学で証明されていないことも感覚的に理解できる、という意識状態が「ティール」になる。

さてウィルバーはこの人間の精神の発達理論を、時代変化にも応用し、世界は間もなく次の価値観の時代へと移行しようとしていると、次の動画で主張している。

それによると、人類の共通価値観は次のように進化してきた。

まず原始時代には、太陽や山、木、など自然を神として信仰することで共同体が形成されていた。

次に、仏教、キリスト教、イスラム教などの宗教が生まれ、宗教という共通の価値観が、人々をまとめてきた。

近代になって科学万能主義、合理主義が次の共通の価値観になり、中世を暗黒の時代と呼び、宗教的な価値観を否定した。今日でも西側の先進国のほとんどの人は、この価値観で生きている。途上国の中には宗教が共通価値観である国があるが、それは彼らがまだ発展途中だから。今後彼らが成長してくれば、先進国と同じ合理主義になる。そう考えているので、発達心理学的には「オレンジ」の段階ということになる。

一方ウィルバーによると1960年代ごろから、西側諸国の教育レベルの高い人たちの間で、こうした合理主義に代わって、相対主義が広まってきたという。西側先進国、特に米国の合理主義の価値観が、本当に正しいのだろうか。グローバリズムと言っても米国の価値観を世界に広めようとしているだけなのではなかろうか。相対主義者は「オレンジ」的な考え方を否定し、「異なる価値観の存在を認めよう」と主張している。相対主義者は「グリーン」ということになる。

相対主義者が使う主なキーワードは「多様性」「インクルージョン」。日本でも、知識層を中心にこうした表現を使う人を見かけるが、彼らば「グリーン」ということになる。ウィルバーによると、西側諸国の人口の25%ほどが、相対主義者ではないかと言う。

ところがここにきて多様性を推進する相対主義が行き詰まりだした。欧州での移民受け入れが、国民の反発を買い、民族間の対立がかえって深まっている。コロナ騒ぎの中、米トランプ大統領が、マスクや呼吸器の輸出を制限しようとしている。正しいのは自分たちの価値観であり、自分たちだけを守り、異質なものを排除する。グリーンだった価値観が、オレンジの価値観に圧倒されているわけだ。

ウィルバーによると、頭で多様性の重要性を理解しているだけで、思考以外の部分で異質なものを受け入れられていないのが今日の相対主義の問題だと言う。

思考以外の自分の感覚を取り戻す。現代人の多くは、思考がノンストップで頭の中を駆けめぐっているので、思考以外の「自分」と言われてもピンとこないかもしれない。しかしヨガや瞑想を習慣にしている人は、雑念がなくなっても自分は存在する感覚を日々感じている。サウナや銭湯が好きな人は、「ととのった」という感覚のときには、思考が駆けめぐっていないことを知っている。山登りが趣味の人は、頂上の景色に息を飲む瞬間に、思考が止まることを経験している。アーチストはもちろん、思考以外の自分を表現している。

思考以外の自分の割合が多くなればなるほど。思考はかえって研ぎ澄まされて、クリエイティブになる。合理的な判断は人工知能の方が得意になっていく中で、人間は思考を研ぎ澄まし、クリエイティブになっていくしかない。シリコンバレーの経営者たちは、そう考え始めたのだろう。瞑想を実践する経営者がこのところ増えているようだ。

思考以外の自分を受け入れるようになると、科学で証明されていない感覚にも理解が深まるようになる。宗教を信じる途上国とも、共通の価値観を持つようになる。それが統合された意識、ティールだとウィルバーは言う。

ウィルバーによると、先進国の5%ほどの人口が既に「統合」「ティール」の価値観に入っていると言う。まだまだマイノリティなので、自分の価値観を口にしない人も多い。しかしその数が10%になれば、社会変化が始まるという。また25%になれば、身の回りのすべてのものが、統合やティールの価値観をベースに作られるようになるという。

サピエンス全史を書いた歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリも、新しい価値観が必要とされていると言うが、新しい価値観が広まるまでには、かなりの時間を要するだろうと語っている。

果たして人類は、いつ、どのような価値観に移行するのだろうか。

このことに関する動画を作成したので、ご興味ある方はぜひこちらもご覧ください。

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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