米誌WiredのDEEPMIND’S LOSSES AND THE FUTURE OF ARTIFICIAL INTELLIGENCEという記事を読んで。
Googleの持株会社Alphabetの子会社であるAIベンチャーの雄、英DeepMindが赤字を続けているらしい。この記事によると、2016年には1億5400万ドルの赤字を計上し、17年には3億4400万ドル、18年には5億7200万ドルと、赤字幅が拡大し続けている。推定買収金額の6億5000万ドルを含めると、GoogleはこれまでDeepMindに20億ドル相当の資金を投入していることになる。
一方でDeepMindの昨年の売り上げは、Googleのデータセンターの省エネ施策などで得た1億2500万ドル程度。年間売り上げ1000億ドルの大企業Googleがバックアップしていなければ、DeepMindはあっという間にマーケットから退場させられていることだろう。
DeepMindはこれまでに画期的な成果を幾つも挙げているのだが、AIを使って社会課題を解決するという観点から見ると必ずしも効率のいいやり方ではないのではない、というのがこの記事を書いたニューヨーク大学のGary Marcus教授の問題提議だ。
DeepMindの技術は深層強化学習と呼ばれるもので、深層学習(ディープラーニング)と強化学習の手法を組み合わせたもの。確かにこの手法で、DeepMindはこれまで数々の偉業を達成してきた。
碁のチャンピオンに勝ったAlphaGOもこの技術だし、医療の分野でも深層強化学習は目の異常を早期発見したり、がんの早期発見にも役立っている。
だが同教授によると、深層強化学習には欠点があるという。それは、前提となる条件や状況が少しでも変化すると、最初から学習し直さなければならないという点だ。
碁は条件や状況が変化しない。碁盤の形は一定だし、ルールも変わらない。ところがテレビゲームなどでは、登場キャラクターが一人追加されれば、膨大な量の学習を一からやり直さなければならない。
深層強化学習は、人間がAIに攻略法を教えるのではなく、AIが無数の試行錯誤を繰り返すことでAIが自分自身で攻略法を編み出すタイプの学習方法。ありとあらゆるケースで試行錯誤するため、学習に時間とコストがかかる。ある試算によるとAlphaGOの学習コストは、約3500万ドルにも上ったという。
Googleのように半端ない資金力を持つ大手企業なら、それも可能かも知れない。しかしテック大手以外では、学習コストにここまでの資金を投入するわけにはいかない。
世界中に存在する社会課題は、状況や条件が変化するものがほとんど。碁のように2000年以上も環境が変化しないようなものはまずない。環境が少し変化するたびにAIが膨大な量の学習をし直さなければならないのであれば、そういうAIは世の中の社会課題解決には向かないかもしれない。
Marcus教授は深層強化学習の可能性を認めながらも、「10年後には、『2010年代後半に深層強化学習は過大評価されていた』と結論づけることになるかもしれない」と指摘している。
米スタンフォード大学のFei Fei Lee教授は、AIが研究所の外に出る新しいフェーズに入ったと語っている。大学や一部テック企業の研究所の中だけで進化するのではなく、世の中のあらゆる社会課題の解決のためにAIが使われることによってAIが進化するフェーズに入ったのだと言う。社会課題に取り組む際には当然、コストパフォーマンスも考慮されることになる。
おそらくDeepMindが山の頂点を目指し続ける一方で、これから一般企業がDeepMindとは異なる手法でAIを活用し、山のすそ野を広げていくことになるのだろう。
大手テック企業のやり方に批判的な、こうした論調が出始めたことから見ても、Fei Fei Lee教授の言うようにAI研究が新しいフェーズに入ってきているのが分かる。(関連記事「AIは社会課題を解決するフェーズに」米スタンフォード大教授)