米デザインソフト大手のオートデスクが、大和ハウスとともに建設業界にAIで新風を吹かせようとしていることが分かった。サンフランシスコで開催されたAIの専門カンファレンスに登壇したオートデスクのCEOが質問に答えたもので、既存の区画の情報を入力するとAIがその区画に最適な建物の可能性をレコメンドしてくれるという。
オートデスクのCEOのAndrew Anagnost氏はMIT Technology Review主催のEmTech Digitalに登壇、建設業界に関し2つのソフトウエアの領域でAIを使い始めていると語った。1つは同社がGenerative Designと呼ぶタイプのもので、いわゆる設計のためのソフト。過去の設計図などのデザインのデータベースを基に、AIがデザインの候補を幾つかレコメンドする、というものだ。
同社では建設現場を「屋外の工場」と位置づけており、製造業の工場で一般的に行われている徹底した製造プロセスの管理を、建設現場にも導入すべきだと考えている。そのためには、建造物をできるだけモジュール化し、別の場所で製造。建設現場では、そうしたモジュールを組み立てるだけという手法に移行することを奨励している。Gererative Designでは、そうしたモジュール化の考えをベースにデザインを提案するという。Anagnost氏は「埋立地に運ばれるゴミの40%は建設現場から持ち込まれるもの。それだけ建設現場には無駄が多い。AIを使って製造業並みに現場を管理できて、1%でも2%でも効率化できれば、非常に大きな経済効果を生むはず」と語っている。
2つ目のソフトの領域は、同社がConstruction IQと呼ぶもの。同社としてもまだ取り組みが始まったばかりの領域で、建設現場におけるデータを収集、統合し、ユーザーの判断を支援するための分析ツールの領域だという。「具体的には、この建設プロジェクトが予定通りに進んでいるのか、安全上のリスクはどの程度なのか、コントラクターとしてのリスクは、サブコントラクターとしてのリスクは、などを示してくれるツールです」。
Anagnost氏によると建設現場では、RFIDを使った作業員の入退出記録や、ドローンで撮影した進捗具合を示すビデオ、検査員のチェックリストなど、いろいろなデータが取れるようになってきている。「こうしたデータ集めてきて意味付けすることができれば、建設方法に大きな影響与えることになるでしょう。その場でアクションを取れるような意味のある情報にしたり、次の建設で使えるような情報にするわけです」。
さらに周辺コミュニティーに関するデータも収集すると、その周辺コミュニティーにとってどのような建造物を建てることが理想的なのかもレコメンドできるようになるという。同氏によると、ドイツの建設会社バンハイネンと一緒に進めているプロジェクトでは、日照の場所や、共有エリア、駐車場などの場所の組み合わせの中から、コミュニティーにとって何が最適なのかをAIが学習し、レコメンドしてくれるのだと言う。
大和ハウスと日本で進めているプロジェクトはそれをさらに一歩進めたもので、既に建物が建っている区画でも、新しく別の建物を建てることで、どのようなメリットがあるのかをAIが判断してくれるようにするのだと言う。「都市部の密集は世界的な問題です。より多くの人がより便利な場所に、より安い家賃で住みたいと思っている。でも便利な場所には既にビルが建っている」。そこで同社ではAIを使って、その区間にどのような建物を建てれば、ビルの所有者を始め、住民やコミュニティーにとって最適なのかをレコメンドする仕組みの開発を進めているという。
それにしてもオートデスクは、なぜ建設業界にAIを導入しようとしているのだろうか。Anagnost氏は、「これまでのデザインソフトは、頭の中のデザインをただそのままコンピューター上で再現させるためだけのもの。それだと付加価値が小さ過ぎる。これからのソフトは、頭の中でデザインする際にも支援できるようにならなければいけないと思う」と語っている。