いとうまい子さんがAIベンチャーのフェローになった理由

AI新聞

女優のいとうまい子さんが、AIベンチャーの株式会社エクサウィザーズのフェローに就任した。実はいとうさんは、大学院でロボットを使った予防医学を研究中。エクサウィザーズ のフェローになることでロボットの研究を続けるとともに、予防医学の大切さを世の中に広く伝えていきたいという。

 

ーーどういうきっかけで、エクサウィザーズのフェローになったのですか?

いとう エクサのほうからお話をいただきました。わたしがロボット工学を研究しているという記事を読んで、お声がけいただいたみたいです。

 

ーーお話を聞いて、どう思われましたか?

いとう 「きたー!」という感じでした。実現したいことがあってあれこれ動いていたんだけどうまくいかず、もやもやしていたときでした。心の中で「うおー!うおー!」って何度も叫びました。地道に勉強を続けていると道が開けるんだなって思いました。

 

ーー実現したいことって何だったんですか?

高齢者と一緒にスクワットをするロボットを作ろうと思っていたんです。

 

ーースクワットって、高齢者にとって一番いい運動だという話を聞きます。

いとう そうなんです。スクワットと片足立ちがロコモディブシンドロームにはいいんです。

 

ーーロコモティブシンドロームってなんですか?

いとう 下肢筋力、つまり足腰の筋力が低下して要介護になるリスクの高い状態のことです。ロコモティブシンドロームのせいで、寿命は伸びているにも関わらず健康寿命との差が開いてしまうんです。日本では男性で平均9年、女性では12年、寝たきりになってしまうんですよ。そんな人生、楽しくないじゃないですか。オシメですよ。つらくないですか。そんな風にならないためにスクワットをしてもらおうと、ロボットを開発しているんです。

 

ーースクワットするのを支援するロボットですか?

いとう そうです。20センチくらいのロボットがスクワットを一緒にやってくれるんです。

 

ーーでも、どうしてロボットなんですか?

いとう 高齢者に運動してくださいねって言っても絶対やってくれない。ほぼ100%やってくれません。看護師さんや理学療法士さんが週に2回電話するんですが、電話すると一緒にやってくれる。それでも週に2回だけです。でもロボットとだったら毎日やってもらえる。13回、前に来るまで呼び続けるので、仕方なく行ってスクワットする、って感じです。

 

ーー僕の友人にも高齢者と一緒に運動するロボットを開発した人がいて、その人が言ってたんですが、ビデオを見せるのと違って、ロボットで一緒にするのって、すごく効果あるそうですね。

いとう そうなんです。3体開発して、高齢者に使ってもらってデータを取って、論文を書きました。

 

ーー量産して市販しないんですか?

いとう いえ、まだまだ量産するような代物じゃないんです。それにその前にもっとデータがほしいんです。高齢者にとって本当に効果があるのか、筋肉量はどう推移しているのか、などのデータがほしいんです。そのエビデンスを持って量産したいって思うんです。実はある企業さんのところに量産してもらおうと相談に行ったんです。そしたら「支援したいと思います。でも最終的にいくらぐらいの儲けになりそうですか」って聞かれたんです。大学は研究するところなんで、そういうビジネスの試算ってまったくやらないんですね。当たり前だけど。

 

ーーそうですよね。そこが大学と企業の大きな違いですよね。

いとう そうなんです。エクサと最初のミーティングのときに、介護などのビジネスでも、最終的にはいくらぐらいの市場になるという試算のスライドを見せてもらいました。とても新鮮でした。事業化するには、こうしたこともできないといけないんだなって思いました。大学ではそういう考え方はないので。

 

ーーエクサにはコンサル出身者が多いので、その辺の試算はお手の物ですからね(笑)。

いとう でも感激したのは、わたしのほうにそういう試算もないのにもかかわらず、「一緒にやりましょう」って言ってくださったことなんです。非常にうれしかったです。ほんとうにいい会社と巡り会えたなって思いました。

 

ーーではこれからエクサとその研究の続きと事業化を進めていくということですね。

いとう もちろんです。ちゃんとしたロボットをエクサの担当者と開発中なんです。

 

ーーいいと思います。ニーズがあるし、事業化も成功するように思います。ほかには、エクサとどんなことをしようと思ってますか

いとう ユマニチュードのことももっと学びたいって思っています。

 

ーーフランスで開発されたコミュニケーションケア技法ですね。エクサが日本で唯一この技法の正規事業ライセンスを取得していますからね。

いとう そうです。「ロコモ」と言えばロコモティブシンドローム、「ユマニ」と言えばユマニチュードのことと分かるくらい、日本中にこれらの言葉を普及させていきたいです。それが芸能人としてわたしができる貢献の一つかなって思っています。

 

【インタビューを終えて】

おっとりした人というのが、テレビに映るイメージだったが、実際にお会いしてみると、ものすごいエネルギーの持ち主であることが分かった。しかも知的好奇心が半端ない。いろんなことを積極的に学ぶのが、楽しくて仕方がない様子だった。AIベンチャーのスピード感に、おっとりした性格のいとうさんがついてこれるのだろうかって心配していたけど、いとうさんならだいじょうぶ。ついてくるどころか、エクサの推進力の担い手になるのではないかとも思った。

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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