人工知能作ろうにも人間の脳は分からないことだらけ

AI新聞

人間の脳を模倣した本当の意味での人工知能って、まだまだ実現できないだろうなと思う。なぜなら人間の脳は分からないことだらけだから。The Remarkable Brains of Long-Term Meditatorsという記事を読んで、そう思った。

この記事によると、Richard Davidson教授のウイスコンシン大学の研究所で、チベットやインドからトップレベルの瞑想実践者を呼び寄せて彼らの脳波を検査したところ、ガンマ波のレベルが突出していることが分かったらしい。

通常の人間でもガンマ波は出る。ずっと取り組んでいた問題に対して解決法が見つかったとき、脳波は一瞬ガンマ波になる。時間でいうと1/2秒ほどらしい。またりんごをまるかじりしたり、りんごをかじることを想像することでも、ガンマ波は出る。ほんの一瞬だが、五感の全てが総動員されて、りんごを丸かじりする瞬間を認識する。

ところが人生で計6万2000時間瞑想してきたような達人になると、何をしていても、ガンマ波はかなり強い状態で常に出続けるのだという。瞑想しているときだけではなく、瞑想していないときでも、常にガンマ波が出ているのだそうだ。ちなみに6万2000時間瞑想しようとすると、毎日朝夕2回、1時間ずつ瞑想しても85年はかかる計算になる。

ガンマ波が出続けるということが何を意味しているのか。実はまだまったく分かっていない。今回入手できたデータは、科学的なデータとしては世界初だそうで、それに対する考察はこれからのようだ。またトップレベルの瞑想実践者に慈悲の瞑想をしてもらうと、ガンマ波は瞬時に700%から800%ほど飛び跳ねる。これも科学的な記録としては前例がないらしい。

何も分かっていないが、少なくともトップレベルの瞑想実践者の特別な意識状態は、通常の意識状態と異なることだけは間違いないようだ。その状態を何と呼ぶべきか。「解放」、「悟り」、「覚醒」など、いろいろな呼ばれ方をするが、実際にどんなものであるのかを的確に表現する言葉を、われわれはまだ持っていないのかもしれない。

トップレベルの瞑想実践者によると、感覚的には、大きな空間にいる状態で、何が起こっても準備ができているような意識状態らしい。

論理的思考がいっさい存在しない意識状態。仏教ではその意識状態を「空」と呼び、あらゆる感情や思考はその「空」から浮かび上がってくるとしている。瞑想実践者はその意識状態を認識することができて、その意識状態に長く滞在できる。しかし瞑想をしていない人でも、自分で気づいていないだけで、瞬間的にこの意識状態に入っているのだそうだ。そしてそこから浮かび上がってくる思いが言語化され、思考になっていくのだという。

人間の脳を本当に模倣した人工知能を作るのであれば、この論理的思考が存在しない意識状態の模倣が、何よりも重要になるのではないだろうか。

そう考えると、本当の人工知能の登場はまだまだ先の話のような気がする。

 

 

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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