インターネットトレンド2018超解説①中国大躍進

AI新聞

米著名ベンチャーキャピタルのKleiner PerkinsのMary Meeker氏の調査レポート「Internet Trends」が今年も発表された。世界が注目するレポートだけに、何回かに分けてこのレポートを解説していきたい。

去年のレポートとの最大の違いは、中国の技術トレンドに多くのページが割かれていることだろう。世界の技術トレンドにとって、中国が無視できない存在になっていることが分かる。

市場価値では、米国勢に迫る勢い

例えば、市場価値で比較した世界のインターネット企業ランキングでは、5年前は米国勢が圧倒していた。

5年前に中国勢でがんばっていたのは、テンセントとバイドゥぐらい。

ところがわずか5年で中国勢が大躍進した。2018年5月29日付のネット企業の市場価値ランキングでは、上位5位は米国勢が死守しているものの、ネット企業トップ20社のうち9社までが中国企業になっている。

 

AI研究でも中国が急伸

ビジネス面だけではなく、AI研究開発の面でも、中国は大きく力をつけてきている。

30年前のAI研究と言えば、AIとチェスとの対戦が研究の主流分野だった。当時チェスとの対戦の大会で好成績を挙げたのは米国製のAIばかり。中国は大会に参加さえしていなかった。

20年前のロボットによるサッカー大会も同様で、上位は米国、ドイツ、英国。中国の参加はなかった。

しかし2010年に開催された画像認識のコンテストでは、中国が11位に入賞してきた。

そして現在も開催されているスタンフォード大学主催のAIによる質疑応答コンテストでは、1位は米国だが、2位は米中の合同チーム、3位、4位、5位はそれぞれ中国チームだ。

中国は、このあとも研究面でまだまだ伸びると見られている。なぜなら1つには、理系に進む学生が増えているからだ。

下のスライドの右側のグラフが、自然科学と工学の博士号取得者数の推移。少しだけ中国の方が伸び率が高い。左のグラフは自然科学と工学の四年制大学の学位の取得者数の推移。中国の伸びのほうが圧倒的に急だ。

中国のAIが今後さらに伸びると見られる根拠の2つ目は、データやプライバシーに対する中国ユーザーの寛容な態度だ。

「財務データや運転記録などの個人情報を、低価格やパーソナライゼーションなどのメリットと交換に、シェアしてもいいと考えていますか?」という問いに対し、中国ユーザーの38%が「はい」と答えている。ちなみに日本のユーザーで「はい」と答えたのは、わずか8%。

ユーザーの同意を得てデータを扱えるので、中国のAIは今後、どんどん進化していくことだろう。

 

 

米国勢は広く薄く、中国勢は集中的に

ネットサービスのユーザー数を見れば、中国勢が迫ってきているとは言え、より多くのユーザーを抱えているのはFacebookやGoogleなどの米国勢。

ところがFacebookもGoogleも、ユーザー数が世界中に広く薄く分布している感じがする。一方で中国のテンセントやアリババは、ユーザーのほとんどが中国在住。一国のユーザーだけで、ここまでユーザーが増えている。

中国勢のこの勢いが、中国一国だけではなく世界に広がればどうなるだろう。

実際、アリババは、インド、シンガポール、インドネシア、パキスタンなどのECサイトやペイメントの企業を買収しており、中国以外の領域にも勢力を伸ばし始めている。

 

 

新しいビジネスモデルは中国から

 

これまで最新の技術を搭載した新しいビジネスモデルは、米国から始まるものが多かった。しかしこのレポートを見る限り、中国から興味深いトレンドが次々と生まれているようだ。

中国トレンド①動画

モバイル上のメディア消費の割合で、動画が急伸している。2016年3月から2018年3月までの2年間で、メディア消費の時間の総数自体が20億時間から32億時間に増えているが、その割合を見ると、ビデオが2年前の13%から22%に伸びている。

ビデオの種類では、去年から今年にかけて5分以内の短いビデオの視聴が急に増えている。

またビデオコンテンツにかける予算を見ると、テレビ局の予算をネット動画プラットフォームの予算が、ついに超えたもようだ。日本でも最近は、AmazonプライムビデオやAbemaTVがオリジナルコンテンツに予算を投入し成功し始めているが、中国のほうが少し先を行っているようだ。

またオリジナルコンテンツに予算をかけ、力を入れることで、有料会員数が急増しているようだ。

 

中国トレンド②ゲームでは中国が世界最大の市場

中国ではカジュアルゲームよりもチームベースのマルチプレイヤーゲームが人気になってきている。

売上高では、他の地域、国が緩やかな伸びを示す中で、中国だけが大きく伸びている。

 

中国トレンド③ショッピング

日本を含む他の先進国では、ECがゆっくりとリアルな店舗でのショッピングのシェアを奪ってきているが、中国は2009年辺りからECが急速に増え始めており、2017年には小売消費全体の20%にまで達している。世界一ECが盛んな国になっている。

中国ではECだけではなく、リアル店舗も最新の技術が導入されているようだ。下のスライドを見るだけでは、どの程度の技術なのかよく分からないので、別の機会にゆっくりと調べてみたい。

 

中国トレンド④交通手段

ここ2、3年で、交通手段のシェアリング・サービスの利用者が急増しているようだ。自動車、自転車ともにシェアすることが増えているようで、下のスライドの右端の棒グラフの一番下が中国の自動車シェアリングの利用回数、下から二つ目が自転車シェアリングの利用回数。交通手段のシェアリングでは、世界の他の地域を圧倒していることが分かる。

湯川鶴章

AI新聞編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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