前回のコラムで見たように、George Gilder氏は、AI x クラウドコンピューティングの時代から、AI x ブロックチェーンの時代に移行すると主張する。
なぜこのパラダイムシフトが起こるのか。同氏は、その最大の理由としてゴードン・ベルの法則を挙げる。ゴードル・ベルの法則は、10年間でコンピューティングコストが100分の1になると言う経験則だ。
ゴードン・ベルの法則が正しければ、今はクラウド上の無数のコンピューターが必要になるようなAIの計算処理でも、10年後には手持ちのスマホで十分できるようになる。事実、これまで顔認証にはクラウド上のAIが不可欠だったが、最新のiPhone Xではデータをクラウドにアップすることなく手元で顔認証の学習が可能になった。十分な性能を持つ半導体が、十分に安くなったからだ。
こうしたゴードル・ベルの法則という技術的な変化に加えて、ビジネス上の思惑や消費者の価値観変化がからんで、パラダイムシフトを加速する可能性がある。
Amazon、Google、Facebookなどの米IT大手は、今後、全産業を支配する可能性がある。【関連記事:AIクラウドの覇者が史上最大の企業になる!?】なぜならAIのビジネスは、正のスパイラルに入るからだ。
データが集まればAIは賢くなり、賢くなればサービスが向上して、より多くのユーザが集まり、より多くのデータが集まる。より多くのデータが決まれば、AIはより賢くなる。この正のスパイラルに入れば、先行企業は勝ち逃げが決定し、後発企業は追いつけなくなる。Amazon、Google、Facebookなどが正のスパイラルに入り全産業を支配しようとする中で、米IT大手以外の企業は、今後どう戦えばいいのだろうか。日本企業はどう対抗すればいいのだろうか。
米IT大手に対抗できる唯一の方法は、非中央集権型の仕組みを普及させることしかない。
ブロックチェーンは非中央集権の仕組みだ。詳しい仕組みの解説は次回のコラムでするとして、簡単に言えばブロックチェーンは絶対的な支配権を持つ人物や組織が存在しないプラットホームである。
例えばAmazonは中央集権型だ。自社のECサイトAmazon.comやAmazon.co.jpの運営に対して、絶対的な支配権を持っている。Googleはインターネット広告の中央集権の仕組みを運営し、Facebookはコミニュケーションツールの中央集権の仕組みを運営している。
一方で、電子メールは非中央集権の仕組みである。中央の運営者が存在しない。ビットコインも非中央集権の仕組みだ。もっと言えば、インターネット自体、非中央集権の仕組みである。
非中央集権型のECサイトや、非中央集権型のネット広告、非中央集権型のコミュニケーションツールが普及すれば、中央集権型の仕組みの弱体化は避けられない。米IT大手の影響力が急速に拡大する中で、その対抗手段として、ブロックチェーンで非中央集権の仕組みを普及させようとする企業が増えてくることだろう。
問題は、消費者が中央集権型、非中央集権型のどちらを望むかだ。
米IT大手は、AIを使ってよりよいサービスをより安価に提供してくることだろう。今でもGoogleやFacebookはいろいろなサービスを無料で提供しているが、さらに多くの便利な無料サービスを提供してくることだろう。Amazonも配達料を無料にしたり、各種コンテンツサービスの低価格化を進めていくことだろう。
消費者は、自分のデータを提供する代わりに、こうしたサービスを無料もしくは安価で提供してもらっている。今のところ、消費者は中央集権型に大きな不満を抱いているわけではなさそうだ。不満を抱いていないのであれば、米IT大手の全産業支配という未来は確定したも同然だろう。
唯一この未来のシナリオを覆すことができるのが、消費者の価値観変化だ。
10年ほど前は、インターネット上で実名を使う事はタブー視されていた。ネット上で自分の日々の活動公開すべきではない、という考え方が主流だった。それがわずか10年で、価値観が180度変化した。今は多くの人がSNS上などで日々の活動を公開しているし、逆にネット上に何も情報が載っていない人の方が怪しまれることだってある。
消費者の価値観は、あっという間に変化するものなのである。
この価値観が今後10年で180度変化し、人々が再びプライバシーを気にし始めるようになるかもしれない。過去の価値観変化を見てきた人なら、再度価値観が変化しないとは言い切れないと思う。
プライバシーを気にする人たちは、ブロックチェーンをベースにした非中央集権の仕組みを望むようになるだろう。非中央集権の仕組みでは、個人のデータは企業ではなく個人が所有、管理するようになるからだ。
先日のFacebookのデータ漏洩のスキャンダルは、米国で大きな社会問題になった。こうした事件が消費者のプライバシーに対する捉え方をどう変えていくのだろうか。注意深く目守っていきたいと思う。
次回のコラムでは、AI x ブロックチェーンの仕組みがどのようなものになるのかを、もう少し詳しく解説したい。